第9話『興味が無い相手に対しては、そういうもんだよ。特に、興味の有る相手が居る人ほど、ね』
数日経ち、土曜日の昼前。
「中々出てこないなあ……」
コンビニで買ってきたサンドイッチ片手に、綾芽が言った。
僕と綾芽は、公園のベンチに座って、菜々美の家が見える公園のベンチに座って、菜々美が家から出てくるのを待っていた。
昨日、「明日暇?」と遊びに誘ったら、「友達と遊ぶ予定があるから」と断られてしまったのだ。
しかし、断られた方が、都合が良かった。
元より、そのつもりだったから。
「僕としては、普通に菜々美と遊びたかったんだけどな」
「断られたんだし、日曜日に約束したんだからいいでしょ……まあ、今日次第でその約束も気持ちも無くなっちゃうだろうけど」
尾行。
菜々美が本当に『友達』と『遊ぶだけ』なのかを確かめる為に尾行をしようと言う計画が、綾芽によって立てられたのだ。
「先週の事を考えると、お兄ちゃんが漫画喫茶を出る時間に二人がホテルに入るのを見たんだから、二時くらいだよねー。やっぱり早かったんだよ」
「友達と遊ぶって言ってたんだから、それを前提に計画を立てるのが当然だろ」
「はぁ……」
ということでそこから一時間、十二時三十分頃、菜々美が家から出てくるまで見張り続けていた。
「良かった。私たちが来るよりも先に家を出てたり、昨日から泊まり込んでたらどうしようかと思ってたよ」
「うわ、その事考えてなかった、良かったぁ……じゃなくて、ほら、行くぞ。見失ったら待った意味が無くなる」
「あれ、言ってなかったっけ?私たちは尾行しないよ、バレたら面倒だし」
「え?」
「恋歌せんぱーい」
綾芽が呼ぶと、僕たちの座っているベンチの左側、菜々美の家とは反対だから、視界に入らなかった側のベンチに座っている人が「え、あ、はい!」と返事をした。
いつからそこに座ってたのか、全く気が付かなかった、というか────。
「居るなら声かけてくださいよ、顔隠して変装してるし」
「えっと、それは────……」
「おしゃべりは後、恋歌先輩、菜々美さんのこと追いかけて────……じゃないと」
「分かりました!すぐに行ってきます!」
止める間もなく駆けて行き、視界から消えてしまった。
「お、おい、大丈夫なのか」
「バレないか、ってこと?大丈夫、変装してるし。二人より目立たないし、それに、ずっとそこに座ってても、お兄ちゃん、まったく不審がらなかったじゃん」
「ああ、人が居ることにも気付かなかった」
「興味が無い相手に対しては、そういうもんだよ。特に、興味の有る相手が居る人ほど、ね」
「……よく分かんないけど、まあ、綾芽がそこまで言うなら大丈夫なんだろう。けど、じゃあ、僕たちはどうするんだ?」
「そうだねー……デートでもする?」
「おい」
「冗談だって……でもさ、お兄ちゃんは自分の目で見ないと気が済まなそうだし、私たちも二人を追いかけるよ。先輩に頼んだのは、私たちが近くに居ない、バレる可能性を減らしたかっただけだから」
そう言って、綾芽はスマホを取り出す。
すると、スマホが震えだし、着信を知らせてくる。
『聞こえますか?』
「聞こえますよ」
『良かった。あんまり大きな声では話せないので。……菜々美さん、方向的には、駅の方に向かって歩いています』
「了解。あそこならご飯も食べれるし遊べるしね。前も、その後だったんだろうね」
「……」
「ほら、ぼーっとしてないで行こ」
「あ、あぁ」
綾芽に腕を引かれ、歩き出す。
腕を引かれでもしないと、歩けなかった。
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