第7話『私と、綾芽ちゃん以外を名前で呼んだらダメだからね』
翌日、朝。
登校途中で合流した菜々美が、若干不機嫌そうに、前を歩く二人、いや、一人を見つめていた。
前には綾芽と恋歌先輩が居て、そして、恋歌先輩を見つめる菜々美。
「どうして生徒会長さんと一緒に登校してるのかな?」
「綾芽の友達のお姉ちゃんで、綾芽の友達らしい。僕も昨日────あ、いや、今朝知って驚いたよ」
余計なことは言わないように、今朝、綾芽に釘を刺されたのを思い出す。
「僕と綾芽が出る時に偶然通りかかってな」
「今まで一度も無かったのに?」
「家を出る時間が遅くなったらしいぞ」
僕と綾芽、だから菜々美も、余裕を持って家を出る、なんてことはせず、そんな余裕な時間があるならまだ家に居たい性格なので、そんな僕たちと偶然会うなんて、恋歌先輩が遅く家を出た時しかない。
「寝坊でもしたのかな」
「そんなとこだろ」
「じゃあ、凛空くんとは、何の面識も無いんだね?」
「今朝初めて話したよ。てか、あの人生徒会長だったのか、驚いた」
「今の発言で一気に胡散臭くなったよ」
「本当だよ。名前は綾芽から聞いたけど、苗字すら知らないし」
「
「紅葉……あぁ、そう言われたら、聞き覚えがある気がする」
「苗字より名前の方が印象に残ると思うんだけど……あ、苗字教えたんだから、呼ぶ時は紅葉先輩って呼ぶんだよ。私と、綾芽ちゃん以外を名前で呼んだらダメだからね」
「分かったけど、呼ぶ機会なんて無いと思うぞ。赤信号を渡ろうとしたり、キュ〇べえと契約しようとしたりしない限りは呼ばないよ」
「よく分からないけど、緊急時以外には呼ばないってこと?」
「そういうこと」
菜々美は、僕が他の女の子を名前で呼ぶのを嫌がる。もちろん、妹である綾芽は除いて、だけど。
嫉妬深いというか、独占欲が強いというか、だから、そんな菜々美が浮気なんてするはずが無いと、そう思っている部分も大きい。
「後、家に遊びに来たり、家に泊まりに来ても教えてね」
「なんで?」
「凛空くんを私の家に泊めるから」
いつもの菜々美だ。
変わったところなんて、おかしなところなんて一つも無い、いつもの菜々美。
やっぱり、僕の見間違いだったんだ。
菜々美は、僕のことを裏切ってなんかいない……裏切っているはずが無い。
「菜々美とお泊りは、魅力的なお誘いだ」
「じゃあ、今度お泊りしちゃう?」
「菜々美のお父さんに殺されそうだから遠慮しとくよ」
「もう、私のお父さん、そんな凶悪じゃないよ……じゃあ、二人っきりでお泊りはどう?────ホテルでお泊り」
ドクンと、心臓が跳ねた。
「それこそ殺されるよ」
「うーん、それもそっか」
残念、とだけ言い残し、この会話が終わる。
菜々美にこんな事を誘われたのが初めてで、そして、それなのに菜々美が恥じらいなど全く感じさせず、なんてことないことの様に誘ってきた。そのことが、凄く違和感で、不思議で、そして、苦しかった。
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