第6話『友達のお姉さんなの』

 家に帰ると、玄関に、綾芽の靴があった。

 寄り道せず帰宅したみたいだ。

 自室に入り、鞄を置いて綾芽の扉を二回ノックする。


「あ、お兄ちゃん、おかえり。どうしたの?何か話忘れてたことでもあった?それとも、菜々美さんと喧嘩でもした?」

「喧嘩なんてしてない。話忘れ────というか、聞き忘れ。聞き足りないこと、かな」

「なに?」

「綾芽と生徒会長が何であんなに仲良いんだろうなって」

「ああ、そんなこと」


 立ち話もなんだから、と、部屋に招いてくれる綾芽。

 妹とはいえ女の子の部屋。僕の部屋とは明らかに違う雰囲気の部屋に、不思議と緊張してしまう。

 思い返せば、僕の部屋に綾芽が来ることがあっても、綾芽の部屋に入るのは、久しぶり────というか、高校に入ってからは無かったかもしれない。

 仲が悪いんじゃなくて、ただ、用事が無いだけ。

 何か聞きたいことがあっても、今はスマホでメッセージを送る方が簡単に片付いてしまうから。

 だけど、菜々美の件────ではなく、菜々美と生徒会長の関係については直接話を聞きたかった。

 生徒会室にいる時の綾芽の、生徒会長を見る目に、何故かは分からないけれど、違和感を覚えたから。


「生徒会長さん────恋歌れんか先輩はね、私の友達のお姉さんなの」

「友達のお姉さん」

「そう。だから、お兄ちゃんの件があって、初めて話したんじゃなくて、元々お互いに知ってて。だから、恋歌先輩も、菜々美さんを尾行しているお兄ちゃんを見つけて、それが私のお兄ちゃんだってすぐに分かったの。写真見せたことあったから」

「写真って変なもの見せてないよな?」

「普通に家族写真見せただけだよ。で、そういう訳だから、友達のお姉さん───じゃないかな。友達なの」

「なるほどな」


 後ろに両手を回し、ごく自然に、ただの事実を、ただの事実として、ただの事実のように話す綾芽。

 変わらない、分かりやすい癖。

 嘘を吐く時の癖───。




  

 






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