エピソード2 平和な日常
〈エピソード2 平和な日常〉
生徒たちを憂鬱な気分に陥れていた期末テストの返却がようやく終わり、後は夏休みを待つだけになった。
教室は開放的な空気に包まれていて、騒がしい喧噪も耳に心地良い。
窓から見える晴れやかな青空も期末テストを無事に乗りきった生徒たちを祝福しているかのようだった。
とはいえ、あともう少しすれば担任の教師がやってきて、お決まりの定例事項を告げるホームルームを始めるだろう。
夏休みになっても羽目を外しすぎるなよとか、危ない場所には近づくなよとか、注意を喚起するような言葉もいつもの定例事項に付け加えてくるに違いない。
教師たちも夏休みになってまで、生徒たちの面倒を見るのは嫌だろうから、問題を起こさせないように念には念を押してくるのだ。
とにかく、それが終われば、一学期の学校は正式に終了となる。
ホームルームが始まるまでの僅かな時間の合間に、比較的、席の近い柊勇也とその親友の信条武弘が世間話に花を咲かせていた。
二人の顔には明と暗がはっきりと分かれている。
特に勇也の顔には曇天を思わせる暗さがあった。
「フッ、勇也。でかい口を叩いていた割には大した点数を取れなかったな。拍子抜けも良いところだ」
勇也が座っている席の傍らに立ち、何やら気障なポーズを取っている武弘は芝居じみた口調でそう言った。
「悪かったな。でも、一教科くらいはお前に勝てると思ってたんだよ。特に化学のテストは会心の出来だったし」
勇也は負け犬の遠吠えのようなことを言って、恨めしそうな目をする。が、いつもクールな武弘はどこ吹く風だ。
長い付き合いだが、武弘が慌てたり取り乱したりするところは見たことがなかった。
だから、勇也も武弘をわざと慌てさせるように面当てしてみたくもなる。
まあ、自分の面当てが通じる相手ではないことは分かっているが。
「確か、一教科でも俺に勝つことができたなら、今日の昼飯はどんな大食いをしても俺の奢りになるんだったな。だが、その逆の条件はちゃんと憶えているか?」
武弘は意地の悪い問いかけを投げかけると露悪的にニヤリと笑った。時折、見せるこの笑みが無性に癇に障るんだよなと勇也は思う。
もっとも、こんな笑みを形作らせている原因を作ったのは折しも自分なので、あまりでかい態度には出れないが、それでも悔しいものは悔しい。
「分かってるよ。お前にファミレスでプレミアム・ハンバーグとドリンクバーを奢れば良いんだろ。約束を反故にするつもりはない」
勇也は痛い出費だなと思いながら、無謀な戦いを仕掛けてしまった己の不明さを呪った。
「よろしい。では、楽しみにさせてもらうし、ファミレスに行ったら奢りのドリンクバーでとことん長話をすることにしよう」
武弘は額にかかる髪をサラッと払う。
この仕草に思わずクラッとしてしまう女の子は多いらしいが男の勇也には理解の及ばないことだった。
ちなみに、武弘は学校では文武両道の秀才として知られていて、ついでに長身痩躯の相当な美男子でもあった。
ただ、自他ともに認める奇異な性格をしているし、本人も恋愛事には興味がないと吹聴しているので女の子と付き合える日は来ていない。
たまに、武弘のことをよく知らない女の子が、外見の良さだけに惹かれてラブレターを出したりするが、それが実ったような形跡はなかった。
だから、というわけではないが、意外と義理堅い一面も合わさって敵を作りにくい男子生徒だった。
もっとも、武弘にとって親友と呼べるような人間は勇也くらいなもので、他の生徒たちに対してはどこか一線を引いている節がある。
そのせいか、勇也以外の生徒たちは知り合いという程度のカテゴリーに収まっていた。
一方、勇也はというと、武弘とは違いどこにでもいるようなごく普通の男子生徒に見えることだろう。
実際、ほとんど全ての部分において人並みの域を出ていない。
没個性とはこのことだ。
ただ、勇也は有名な画家が顧問をしている美術部に所属していて、勇也自身、絵のコンクールでは何度も入賞したことがあるという輝かしい実績を持つ。
それが唯一の才能の顕現と言って良い。
事実、学校の校舎の正面玄関には金賞を取った勇也の絵がでかでかと飾られているし、それが勇也の絵が内外から高い評価を受けていることを物語っていた。
その上、勇也はある功績を称えられて、この町の市長と共にテレビに映ったこともあるのだ。
それが本来なら冴えない男子生徒にすぎない勇也の知名度を飛躍的にアップさせていた。
「奢らされた上に、その長話にも付き合えって言うのか? 俺には他に考えたいことがあるし気が乗らないな」
勇也は浮かない顔で愚痴っぽい返事をする。
が、内心では次の勝負では必ずリベンジを果たしてやると悔し紛れの思いを燃え上がらせていた。
「まあ、そう言うな。ところで、この町で殺人事件があったのは知っているか? そのせいで、今日は学校への居残りが禁止されたと聞いているが」
武弘は新たな話題を切り出す。
彼はミステリーやオカルトなどが大好きなので、この町の不思議については敏感だし、事件が起きたとなれば真っ先に食いついて見せるのだ。
伊達に部員が二人しかいない零細部のミステリー研究会に所属しているわけではない。
校内掲示板に張り出されるミステリー研究会のレポートには熱心な読者もついているし、その活動には気合が入っている。
勇也もたまにだがミステリー研究会のレポートには目を通すし、丹念に調べられた記事の内容には時折、感嘆さえしていた。
「知ってるよ。おかしな事件に巻き込まれない内に、みんな、さっさと家に帰宅しろってことだろ。はっきり言って余計なお世話だが、まあ、心配する気持ちは分からなくもないな」
事件など、平和な日常に浸かっていた勇也にとっては迷惑、以外の何物でもない。
何か事件が起きて喜ぶのはマスコミとネットの住民だけだし、真っ当に生きている自分には関わりのないことだ。
もっとも、そんなことなことを言っている人間ほど厄介な事件に巻き込まれたりするのだから、世の中というのは本当に分からない。
「学校側もそういう狙いらしいな。ちなみに、俺の情報網によると、事件の被害者は本当に酷い状態だったらしい。何せ、体の肉がミンチになっていたというのだからな」
被害者の殺害状況はまだ公開されていないはずなのだが、なぜか数多くの人脈と情報網を持っている武弘にはその事実が伝わっていた。
勇也も武弘に隠し事ができないことは知悉している。
それだけに、いつもの生活でも隙は見せられないし、こいつにだけは弱味を握られたくないという思いも強い。
「ふーん」
「ふーん、って興味が沸かないのか? こんな猟奇的な殺人事件の詳細は滅多に聞けるものではないぞ」
学園きっての情報通を自称する武弘はなかなか話に乗ってこない勇也の顔を見て、眉を持ち上げた。
「残念ながら興味なんて沸かないね。俺はこの夏休みにどういうPR活動をしようか、そのことで頭が一杯なんだ。赤の他人が死んだ事件なんてどうでも良いよ」
今の勇也の念頭にはそれしかない。どういう事件の被害者にせよ、赤の他人に心を砕いている余裕は勇也にはないのだ。
だからこそ、面白おかしく語って聞かせたければ、せめてファミレスに行ってからにしてもらいたいし、それが待てないというなら他を当たれと言いたかった。
「そういうものか。冷たい奴だと言ってしまえばそれまでだが、お前のそういう本心を隠したドライさいつものことだからな」
武弘はへそ曲りなことで知られている勇也の性格に一定の理解を示すように言った。
「別に本心なんて隠してないし、ドライであることも意識したことはないんだけどな」
「なら、我が身の言動をよく振り返ってみることだな。そうすれば、自分のことに対する理解も深まる」
「そんなもんか。まあ、お前の言うことはいつだって的を得ているし、その言葉は素直に受け取っておくよ」
「それが良いな。俺の言葉は宇宙の因果が吐き出させたものだし、その言葉を忘れなければ不条理に囚われることもあるまい」
武弘は顔に朗笑を拵えながら、遥か遠くにある惑星でも見ているような目をした。
「また、お得意の宇宙の因果か。正直、その言葉は耳タコだし、もっと面白い設定を作ったらどうだ?」
武弘も宇宙云々の話は本気で言っているわけではないのだろうが、それでも、時々、真に迫ったようなことも言うので、勇也も返す言葉に困ることがある。
「それは言ってくれるな。と、話を変えるが、お前が生み出した上八木イリアの人気は凄まじいものがあるじゃないか。動画サイトの視聴回数も軒並み百万回を軽く超えているし、これなら、PR活動に入れ込んでしまうのも無理のない話だな」
武弘の言う通り、勇也は自分の住んでいる町、上八木市の歌って踊れるご当地アイドル、上八木イリアの生みの親だった。
上八木イリアのイラストを描いたのは勇也だし、設定を作り込んだのも勇也だ。
元々、市役所に務めていた勇也の従兄が町の活性化のためにご当地アイドルを作りたいから、勇也に協力して欲しいと頼んだのがきっかけだった。
勇也は絵を描くのが達者だし、漫画やアニメ方面の知識もそれなりにあったので、苦労はしたが何とかイリアのイラストを描くことができたのだ。
もちろん、魅力的かつ共感できるような設定付きで。
後はイリアのイラストをネット上の有志に3D化してもらい、ボーカロイドで声を付けて、動画サイトのVTUBEで配信する手筈になっていた。
配信の内容は言わずもがな、上八木市のPRだ。
が、その直前になって、従兄は市役所を辞めて東京のゲーム会社に就職してしまい、町の活性化、云々の話は白紙になってしまった。
なので、勇也はせっかく作ったイリアをそのままにするのは勿体ないと思い、自らこの町のPR活動をすることにしたのだ。
すると、それが思っていた以上に成功して、勇也は一躍、時の人となった。
勇也はテレビでも大きく報道されている場で市長に表彰してもらったし、本来はイリア・アルサントリスという名の女神は上八木市の名誉市民になり、より親しまれるように上八木イリアという名前に変更された。
今や上八木イリアの知名度は全国区になり、熱狂的なファンも付いている。当然、この町の老若男女からの幅広い支持も集めていた。
歌って踊れるご当地アイドルというのはイリアのキャッチコピーであり、それはファンたちの心に深く浸透している。
「でも、それに見合う苦労はさせられてるぞ。動画を作るのは意外と神経を使うし、VTUBEももう少し報酬の単価を上げてくれれば良いのに」
VTUBEでは視聴回数に応じて報酬が支払われる。
普通は微々たる金額にしかならないのだが、視聴回数が何百万回にもなると結構な額が入ってくるので馬鹿にはできない。
もっとも、お金が欲しければ普通にアルバイトをした方が実入りは良いだろう。
勇也のような高収入を叩き出せる人間はそうはいないのがVTUBEの実情だし、やはり、世の中には簡単に大金を手に入れられるような旨い話は転がってはいない。
「それでも、一動画、万円単位で儲かってるんだろ。学生の身分に不相応な金を得ているのは羨ましいぞ。気分はもう金持ちか?」
「金持ちだって? 冗談だろ? 俺の家は借金まみれなんだ。それを返していかなきゃ大学にも行けやしない。お前みたいにただ勉強していれば大学に入れる一般人とは違うんだよ」
勇也は蒸発した父親が酒とギャンブルで残した多額の借金のことを意識すると、たちまち苦りきった顔をした。
安い賃金のパートで働いて借金を返している母親の苦労がしのばれる。
もっとも、父親が酒やギャンブルに溺れるようになったのは母親がのめり込んだ宗教に原因があるので、ある意味、自業自得とも言える。
母親の苦労も身から出た錆というやつだ。
だが、そのとばっちりを受けてしまった勇也としてはたまったものではなかった。
だから、せめて大学に進学するためにも自分にできることをしてお金を稼ぎたかったのだ。
今のところはそれが上手くいっていて、このまま順調に進めば大学の学費くらいは何とかなりそうな塩梅になっていた。
「そのようだな。ま、俺もお前の家庭の事情には同情するし、何か困ったことがあったら言ってくれ。及ばずながら力になる」
武弘もここだけは茶化すことなく理解の色を見せるように穏やかに笑った。それを見ると、勇也の心に蟠っていた鬱屈した気持ちも和らぐ。
武弘は言動に似合わず、さりげない気遣いができる男子生徒なので、それも勇也が彼を親友と認めている要因の一つとなっている。
そうでなければ、とことん変わった性格の武弘とここまで気安くできるような友情が芽生えることはなかったはずだ。
勇也が武弘と話していると、自分の背後に人の気配が生まれる。
「あ、あの、柊君。家でクッキーを焼いてきたから、良かったら食べてもらえないかな……」
いつの間にか勇也の背後には可愛らしい女子生徒が立っていて、そう舌足らずな感じで声をかけてきた。
彼女の名前は宮雲雫と言って、学校でも指折りの美少女として知られていた。
腰まで伸ばした長い射干玉の黒髪に人形のように整った顔立ち、大きくてつぶらな瞳などは彼女を美少女として構成する大きな特徴だ。
性格の方はかなり引っ込み思案だが、それが良いという声も多くあるし、概ね、どんな生徒たちからも好印象を持たれていた。
そんな雫は意外に思う人間も多いが、武弘の仲の良い幼馴染だった。
だが、武弘は雫には恋愛感情は持っていないと断言している。彼女には別に好きな人がいるというのだが、その人物については勇也もよくは知らない。
自分は雫にある種の幻想を抱いているし、そんなことは知りたくもなかった。
とにかく、その辺の繋がりがきっかけで勇也も彼女とぎこちなくではあるものの接することができるようになったのだ。
「ありがとう、宮雲さん。クッキーなら俺も好きだし大切に食べさせてもらうよ」
勇也は照れ臭そうな顔でお礼を言った。
自分は高校二年生の男子生徒だが、彼女などはいないし、女の子と付き合ったこともない。
なので、唯一、仲良くできている女の子の雫のことは色々と意識してしまうのだ。
それが、こそばゆい。
「う、うん。食べ終わったら、いつものように感想を聞かせてもらいたいな……」
雫は勇也にどのような期待をしているのか傍目からでも分かるくらい、もじもじと恥ずかしそうな態度をしている。
それを見て、勇也は褒めてあげれば気が済むのかなと思ったが、それでは毎回のように感想を聞かせている意味がない。
やはり、褒めるのはクッキーの味そのものをちゃんと確かめてからでないと。その結果、美味しくなければその通りに伝えるつもりだ。
それができるくらいの付き合いの長さはあるし、例えお菓子の味に苦言を呈しても雫が自分に悪感情を持ったりしないのは理解している。
「分かったよ。宮雲さんの更なる精進のためにも忌憚のない意見を言わせてもらうから、期待してて」
そう言って、勇也が可愛らしくラッピングされた包みを受け取ると、たちまちクッキー特有の砂糖とバーターの甘い香りが漂ってきた。
これは絶対に美味しいと確信できるし、勇也も込み上げてくる嬉しさで心が蕩けそうになった。
ちなみに、雫が勇也にこのような形のやり取りをしながら手作りのお菓子を渡すのは今回でちょうど十回目だ。
なので、何回も食べてきた分、味の方は信頼しているのだが、ここ最近はお菓子の美味しさに更なる磨きがかかってきたように思える。
別に料理研究会に所属しているわけでもないのに、雫のお菓子に対してのこの熱の入れようは何だろうなと勇也も不思議に思う。
とはいえ、雫のお菓子作りに対する向上心は本物だし、そこは汲み取ってあげないと。
「ありがとう。柊君は優しいけど嘘は吐かないから私も信頼しているよ……」
「そっか。でも、嘘を吐かない、ってだけで味見役を俺なんかに任せて良いのかな。気の利いた感想を言ってくれる奴なんて他にもたくさんいるんじゃないの?」
まあ、他の男子だったら味のことなど度外視して、ただ盲目的に美味しいと言ってしまいかねないからな。
そういう意見は少しもためにならない。
だからこそ、勇也も雫にお菓子の感想を聞かせる時は必要以上に苦心してしまうのだが。
「そんなことはないよ! 私は柊君に自分のお菓子の美味しさを認めてもらいたいの! だから、他の人じゃ駄目だよ!」
雫は必死とも言える形相で言ったし、これには勇也も心の地雷でも踏んでしまったかと思いたじろいでしまった。
「そこまで信頼を寄せられても困るけど、そういうことなら、その味見役は喜んで引き受けさせてもらうよ」
「うん。柊君の言う通り、もっともっと美味しいお菓子を作れるように頑張るから応援してくれると嬉しいな……」
雫は白くて造形美すら感じさせる両手の指を組みながら言った。
「応援なら既にいっぱいしているよ。だから、同じことを言うようだけど、俺なんかの意見で良ければ幾らでも聞かせてあげるって」
勇也は頼もしさを見せるように握り拳で自分の胸を叩いた。ここは男としての甲斐性の見せどころだと思いながら。
そんな勇也の放胆な態度を見た雫はどこか羞恥心を感じているような顔で口を開く。
「そう言ってくれると励みになるし、やっぱり、柊君は素敵な男の子だね……」
「素敵な男の子だなんて言われたのは初めてだよ。宮雲さんも見かけによらず、お世辞が上手なんだな」
「お世辞なんかじゃないよ……。私は昔からずっと柊君のことを見てきたし、柊君の良さは知ってるつもりだよ……」
「そっか。捻くれた受け取り方をして悪かったね。なら、俺も宮雲さんの言葉を信じて、もっと良い男になれるように頑張るよ」
こうなったら、雫の評価に値すると思えるような立派な男になってやろう。
そうすれば、雫との距離ももっと縮められるし、嬉しくなるような未来への展望も見えてくるはずだ。
「う、うん……。じゃ、じゃあね、柊君……」
そう恥じらうように言うと、雫は立つ鳥跡を濁さず、といった感じに話を終わらせて自分の席へと戻って行く。それから、近くの席の女子と愛想のある笑みを浮かべながら話し始めた。
一方、雫の後ろ姿を見て呆けていた勇也だが、その意識を武弘が引き戻す。
「雫は俺の大切な幼馴染だし、泣かせたら例え親友のお前でも承知しないからな。それはしかと肝に命じておけ」
武弘は自分がクッキーをもらえなかったことに拗ねている様子もなく、むしろ微笑ましそうな態度でフッと息を吐いた。
言葉とは裏腹に、武弘も雫のことでは自分を信頼してくれているようだし、その信頼は決して裏切れるものではない。
そこには誇りのような感情の機微がある。
まあ、武弘が雫に恋愛感情を持っていないのは間違いなさそうだし、それなら、自分にも雫の心を射止めるチャンスは少しはありそうだ。
そのチャンスを逃さないためにも、今度のクッキーの感想はいつもより気合を入れてみようかな。
きっと良い反応が返ってくるはずだし、雫を彼女にできるような取っ掛かりも見つけられるかもしれない。
そんなことを勇也が考えていると教室の扉が計ったようなタイミングでガラガラと開かれる。
現れたのは快活な感じの担任の教師で、今からホームルームを始めるから全員席に着けと張りのある大きな声で言い渡した。
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