第35話 神父と悪魔

 「起きろ。」

寝ていたグレッグはニャンコ氏に揺り起こされた。


「なんだよ。」

グレッグは不機嫌な様子で重たい瞼を開ける。


「隣で話し声がする。」

ニャンコ氏が言った。


グレッグは壁に耳を当てる。


「・・早くやれと言っているだろう・・」

「僕には無理です・・」


ケンが誰かと揉めているようだった。


隣の部屋から誰かが出て行き、その数分後、さらに部屋を出る音が聞こえた。


「ニャンコ氏、あとをつけてくれませんか。」

グレッグはニャンコ氏に頼んだ。


しばらくするとニャンコ氏が走って戻って来た。


「いた。連れ去られた少女達だと思う。」

「すぐに案内して。」

グレッグはニャンコ氏に従って建物を出ると裏庭の倉庫に入った。


 倉庫に入ると、奥には地下に続く扉があり、忍び足で階段を降りる。

そこには手足を縛られた少女達がいた。そしてその少女の服を脱がせている男がいた。


「なにをしてるんだ、ケン。」


ケンは驚いて振り返った。その顔は泣いているようだった。


「グ、グレッグ、どうして…」

「ケン、何をしていると聞いている。」

「ぼ、僕は…」

ケンは泣き出してうずくまってしまった。


グレッグは少女達の縄を解くと、倉庫にあった毛布を被せた。

「大丈夫か。」

少女達に呼びかけるがグッタリとして意識が朦朧としている。


グレッグは急いで遠隔のピアスでエルマーに知らせると、少女達をペガスエルームが城へ転移させた。


「ケン、説明してくれないか。」

グレッグが泣いているケンに詰め寄る。


「ご・・ごめんなさい。僕は・・」


ケンは泣き止むと、デリク司教の指示で少女達を犯すように言われたと答えた。


「奉納金が少ないと司祭にはなれないと言われて・・それで、言うことを聞けば司祭にしてくれるって・・。」

そう言うとケンはまた泣き出した。


ユーラ教の聖職者は貞潔の誓いを立て、童貞性を重んじる。


「なぜ少女達にそんなことをしろと?」

「わからない。」

「分からないのに彼女達を犯していたのか。」

「で、出来なかった、僕は出来ない。」

ケンは震えながら言った。


「わかった。貞潔の誓いは破ってないんだな。」

グレッグが聞くとケンは頷いた。


−−−


 「司教様、ケンです。」

「入りたまえ。」

ケンはデリク司教の部屋に入った。


「終わったのか。」

「はい、3人とも終わりました。」

「そうか。では戻ってよい。このことは他言無用だ。君の為にもな。」

「はい、わかりました。」


 ケンが宿舎に戻っていったのを確認すると、デリク司教は1冊の本を携えて倉庫に向かった。


 倉庫に入るとそこには少女達ではなく、一人の男と、見たことが無いオレンジ色の丸い魔獣のようなものがいた。

目の前にいる男からは只ならぬ雰囲気を感じとった。


「まさか、本当か。やはりこの記録は正しかったのだ。」

デリク司教は歓喜の声をあげる。


「おぬしは悪魔か。」

デリク司教が言った。

「だったらどうする。」

男が言った。

「私がおぬしを召喚したのだ。」

「貴様が召喚しただと?」

「そうだ。私はデリク司教、おぬしが使えるべき主人だ。」

「何を抜かしている。貴様がどうやって我を召喚したと言うんだ。」

「生贄があっただろう。3人の少女だ。」

「生贄だと。貴様、どう言うつもりだ。」


「・・はっはっは・・悪魔召喚を果たすことができたのは私だ。彼らには渡さん。」

デリク司教は薄笑いを浮かべてつぶやいた。


「頭がイかれているのか。」

我慢できなくなったペルセウスはそう言うと、デリク司教を睨んだ。

デリク司教はその場に倒れた。


 陰でその様子を見ていたグレッグが、慌てて駆け寄り、倒れているデリク司教の脈を確認する。単に気絶しただけのようだった。


「デリク司教の発言から推察すると、おそらく悪魔召還の儀式に少女達を使った、と言うところでしょうか。」

グレッグはデリク司教が抱えていた本を手に取り、パラパラと読み進める。


「これは・・・。」

しばらく読んだ後、グレッグが声を出した。

「なんだ、何が書いていある。」

驚いているグレッグにペルセウスが聞いた。


「えっと・・『過去に悪魔召喚が確認されたのは50年前、ホグダツでのこと。ホグダツから脱出した司祭によれば、領主が若い処女を生贄にし、数週間を行なって悪魔を呼び出した。・・」

「どう言うことだ。」

「これは悪魔召喚に関することを纏めた書物のようです。」

グレッグはペルセウスを見る。


 ペルセウスは苦悶の表情を浮かべていた。


−−−


 グレッグはケンの部屋に行った。ケンは赤い目をしてドアを開けた。


「ケン、大丈夫か。」

「僕は大丈夫・・。」

ケンは弱々しく答えた。


「ケン、君がこれから立派な司祭になれることを祈ってるよ。」

「グレッグ。すまない、僕は・・。」

「もう泣くな。自分のしたことを悔やんでいるなら、今後に活かすことだ。思い悩んでも心を壊すだけだ。」

「わかった。」

ケンは頷いた。


「それとデリク司教はあの後、ショックを受けて口がきけなくなったようだ。しばらくは表に出て来ないだろうから心配するな。」


 デリク司教はペルセウスの「擬死」と言う闇魔法を受けた影響で口がきけなくなったようだった。


ケンはまだ泣いている。


「司祭になるだけが正しい道とも限らないだろう。助祭でも立派な神父も多いと聞く。」

「そうだね。僕はまた一から修行するよ。」



 グレッグはケンに別れを告げてハットギリル教会を後にした。

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