第30話 捕物帖

 ジェイソンと共にミルズ商店を訪れたピートとアルゴルは応接室で待っていた。

 

 しばらくしてミルズ商店の番頭らしき男が現れる。

「あなたのご主人は用があると言って先に帰られましたよ。」

そう告げられると、二人は無理やり店を出されてしまった。


 店を出た後、ピートとアルゴルは店の前で立ち尽くす。


「一体どう言うことだ。」

「・・・・」

アルゴルは無言でピートを見る。

「怪しいよな。兄貴が俺らを置いて帰るわけがねえぜ。それにこの店、少女の奴隷をちょうど仕入れたって言ってたしな。店の中でなんかあったじゃねえか。」


 ピートたちは店の裏に回り、裏口を見つけて中に入ろうとした。

「ちっ、鍵がかかってる。」


アルゴルはノブに手をかけると、ガキっと音を立ててノブを回しながら扉を開けた。

「えっ」

ピートが驚いて開いたドアを見ると内側から掛けられていた錠がちぎれて床に落ちていた。

「お、おう、アルゴル様さすがですぜ。」

様子を見ながら恐るおそる中に入ると、二人は地下に続く階段を見つけた。


「地下室か。」

ピートとアルゴルは聞き耳を立てる。

地下から人の声が聞こえた。

アルゴルは無言で地下を指差す。

「おし、行ってみよう。」

二人は音を立てないように慎重に階段を降りて地下室に向かった。


地下室の扉をそろりと開け、中に入ると天井まで積み上げられている沢山の荷物の陰に隠れて様子を伺う。



「いい気味だぜ。ジェイソンの旦那よう。俺らの商売を邪魔しようったってそうは行かねえぜ。」


声がする方に静かに移動すると、ジェイソンが床に倒れて男達から蹴られているのが見えた。


(やっぱり奴らか。)

ピートはワロージャとイワンを見つけた。


(相手は6人か。このままじゃ不味いな。急いで宿に戻って仲間を連れてこないと。)

ピートが考えていると、後ろにいたはずのアルゴルがトコトコと出て行ってしまった。

「ま、待て。おい。」

ピートは小声で呼びかけるが、アルゴルは気に留めずワロージャ達に向かっていった。


 ジェイソンを囲んでいる男達は背後から足音を立てずに近づくアルゴルに気づかない。アルゴルは無言のまま、男の足をつかんでを投げ飛ばした。


投げ飛ばされた男はドスンと大きな音を立て倉庫の奥の棚に激突して床に倒れた。


「わあ、な、なんだこいつ。」

仲間が急に飛んで行ったことに驚いた男が、突然現れたアルゴルを見る。


「こ、こいつあの時の・・・。」

ワロージャがそう言うと、アルゴルはすかさず男達に次々と突進した。

男達は次々に積まれた荷物に向かって飛ばされた。衝撃で荷物が崩れ落ちる。


舞い上がった埃がおさまると辺りは静かになった。


「ア、アルゴル様。」

ジェイソンが腫れ上がった片目でアルゴルを見る。


呆然としていたピートが状況を理解すると、慌てて駆け寄る。

「アルゴル様、すげえじゃねえですか!」


アルゴルは無言でピートを見る。


「ああ、そうか。もう喋っていいですぜ。男達は伸びてます。」

「もう喋って良いでありますか。」

アルゴルはそう言うと倒れているジェイソンを見る。

口から血を流し、起き上がれないほど弱っていた。


アルゴルは背負っていたリュックから小瓶を取り出し、ジェイソンに飲ませた。


「これは回復薬ヒールポーションですか。」

みるみるうちに顔の腫れが治まったジェイソンが起き上がるとアルゴルに言った。

「そうであります。怪我した時に飲むようにエルマー殿が持たせてくれたのであります。」

「こんな高価なものを、俺のために、すまねえ。」

「いいのであります。それにしても、相変わらずひ弱な奴らであります。」


 アルゴルは少女達の入れられている檻へてくてくと進むと、鉄格子を怪力で外し、少女二人を檻から出した。猿轡と縄をほどき、水筒のお茶を渡した。

「飲むのであります。」

少女達は助けられたのだと悟り、受け取ったお茶を飲んだ。


「よし、急いでここを出よう。」

ジェイソンが言った。

「ワロージャとイワンはどうするんです?奴らを捕まえないと。・・伸びてて連れてくのが大変ですぜ。」

ピートが言った。

「今エルマー殿を呼ぶのであります。ここには悪い男達が他にもいます。」

そういうとアルゴルは遠隔のピアス取り出して小さい耳に付けた。

「エ、エルマー様を・・?」


 ジェイソンたちはエルマーを待つ間、倒れている男達を荷物の下から引きずり出して集めると、少女達を縛っていた縄を使って縛り上げた。


「エルマー殿はノワには来ないとの返事がありました。」

アルゴルは言った。

「そうですかい。」

ピートはホッとしたような、残念なような気持ちがした。

「その代わりにウバシュ殿とグレッグ殿、そしてペルセウス様が来てくれるとのことであります。」

アルゴルは嬉しそうに言った。


それから10分後、ウバシュ達がやって来た。

「アルゴル、お手柄だね。」

中年の大男に擬態しているウバシュが言った。

「ジェイソンとピートのお二人について来たら、奴らがいたのであります。」

アルゴルはそういうと嬉しそうにペルセウスに駆け寄る。

「よくやった、アルゴル。」

ペルセウスが声をかけた。アルゴルは涙を浮かべる。

「この誇り高き魔族であるアルゴルめは・・」

「黙れ。」

興奮したアルゴルが話し出すとペルセウスはアルゴルを睨んだ。


 ウバシュが縛られた男達を含めてその場にいた全員をマリスに転移魔法で移動させた。

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