第31話 犯人達の処遇

 転移魔法でマリスに移動した一行は、街の入り口からシャールの屋敷に向かって歩いた。縛られたワロージャ達も不貞腐れながら歩く。


「ん?あれは。」

グレッグが何かに気が付いた様子で呟いた。

「すみません、ちょっと気になることがあるので先に行っててください。」

そう告げるとグレッグは皆と離れ、一人でどこかへ行ってしまった。



 グレッグを除く皆が屋敷の前に着くと、メリッサが心配そうに待っていた。

少女達二人がしっかりした足取りで歩いて来たのを見て安心すると、メリッサは二人を連れて屋敷の中に入った。



 メリッサは明るい部屋に少女達を通すと話を聞いた。


「あいつら、冒険者だって私たちに嘘を言ったんだ。ミナミオトギリソウを探してるって言ったから、私たちが生えてる場所を知ってるって言ったら、案内しろって。道順だけ教えてあげるつもりで村の外に出たんだ。そしたら・・・。」

カナはそう言うと泣き出した。

「私とカナを羽交い締めにして、いきなり麻袋を被せられた。それで馬車に乗せられて、ずっと、長い間乗ってた。時々、男達に水と固いパンを食べろって言われて食べた。怖かったけど、カナと一緒だったから我慢して言うことを聞いた。馬車の中でも男達にずっと見張られてた。その後、馬車を降りれたと思ったらあそこに連れていかれて、牢屋に入れられた。」

ミクが続きを話した。


「そうか。怖い目にあったな。でももう大丈夫だ。安心するといい。オロガ村の村長がエルマーに助けを求めたんだ。それで私たちが探していた。」

「エルマーってペガスエルームの?」

「ああ。そうだよ。」

メリッサはそういうと少女達の頭を優しく撫でた。

「怪我しているところはないか?」

「うん、大丈夫。擦り傷ぐらい。」

「そうか。他に何もされなかったか。」

「うん、されてない。」

「そうか。お腹は空いているか?食事を準備しているんだが食べるか?」

「うん、お腹空いてる。カナも食べるでしょ。」

「食べる。」

カナは鼻をすすりながら言った。



 食事の後、少女達を寝かせると、メリッサはエルマー達のいる応接室にいった。


 部屋に入るとエルマーとシャールが談笑していた。


「メリッサ、二人は大丈夫でしたか。」

部屋にやって来たメリッサにエルマーが尋ねる。

「彼女達は大丈夫だ。ノワに到着してあの店の地下に閉じ込められたようだ。そのあと直ぐにジェイソン達が来たようで、何もされていない。」

「そうですか。それは安心しました。シャール、彼女達は明日の朝にオロガ村に連れて行きます。一晩泊めていただきますね。」



 エルマーとメリッサは応接室を出てワロージャ達を捕まえてある部屋に向った。


男達は床に胡座をかいた状態で座らされて手足を縛られ、猿轡をされていた。


エルマーは赤毛のワロージャの猿轡を外した。


「あなた達はこれまでに何人の少女達をさらったんですか。」

エルマーが静かに聞いた。

「知らねえな。」

ワロージャが答えた。

「では質問を変えましょう。少女達はミルズ商店に売っていたんですよね。ミルズ商店はその少女達を誰に売っていたか知っていますか。」

「それも知らねえな。」

捕まっているにも関わらずワロージャは答えない。


「あなたはご自身の今の立場をあまり理解されていないようですね。何も答えないのであれば、あなた達を生かしておく価値は全くありませんよ。」

エルマーの目は闇を湛えていた。


「売り先はホントに知らねえよ。ただ見た目のいい処女を高く買う奴がいるって話で。」

ぬけぬけと話す様子に腹を立てたのか、メリッサがワロージャに近づく。

「それで少女をさらったというのか、この腐れ外道が!」

メリッサはワロージャの腹をブーツの底で蹴った。ワロージャは白目をむいて気絶した。


「ひぃっ。」

その様子を見たイワンが小さく叫ぶ。


「良かったですね、メリッサが手加減してくれたのでワロージャは即死せずにすんだようです。次はあなたの番ですよ。イワンと言いましたか。」

エルマーがイワンに向き直り、その口を塞いでいた布を外す。


「い、今までさらった少女はあの二人を除いて3人だ。3人ともスーリだ。スーリであのオレンジの喋る魔獣に邪魔されたんで、その後オロガ村まで行ったんだ。全部ミルズ商店の依頼だ。ミルズから奴隷商人達に取引が持ちかけられたんだ。でも売り先は言っていなかった。噂ではノワの貴族が高く買うって聞いたことはある。」

イワンが必死で話す。

「へえ。ノワの貴族ですか。」

「ミルズに渡した後のことは知らないんだ。本当だ。だから、頼む、助けてくれ。」


「あなたは、自分の利益のためだけに人をさらっていた。彼女達は何も悪いことはしていない。その事は理解できますか。」

エルマーが低い声で言った。


「わかっている。すまなかった。」

イワンは今にも泣き出しそうだ。


「いいえ、わかっていません。あなた達は今日から奴隷として、その意味を理解できるまで、心身の自由を剥奪します。メリッサ、シャールを呼んで来てください。」


 シャールが来ると、エルマーは捕まった男達に奴隷の入れ墨をするように命じた。

「消えないよう、深く墨を入れてください。あと、できるだけ大きくです。」

エルマーはシャールに笑顔で言った。


 犯罪者から奴隷になったものは腕に黒い入れ墨が入れられ区別できるようになっていることが多い。彼らはペガスエルームが身柄を預かる奴隷になったのだった。

「わかりました。彫り師を呼んで直ぐに入れさせます。」


 エルマーが部屋を出ると、部屋の前にはジェイソンとピートが立っていた。


「エ、エルマー様、この度はどうもお手数をお掛けしました。アルゴル様に助けていただき命を繋ぐことができました。」

ジェイソンが言った。

「あなた達に付いて行ったのはアルゴルの判断です。あなた達が無事だったこと、僕もアルゴルに礼を言いたいと思います。僕も少々頭に血が上ってましたらからね。犯人逮捕に協力したあなた達にはいずれ正式に更生の証としてペガスエルームから褒賞を出します。今後もその証に恥じないようお願いします。」

エルマーはにっこり笑った。



−−−


 グレッグは皆と離れると、一人の男を追っていた。


 バーに入ったその男の後をついて行ったグレッグは、男が座ったカウンターの横の席に座る。


 「俺にも一杯奢ってくれますか、ジョシュアさん。」

隣に座るジョシュアの顔を横から覗き込む。


「君は・・・」

ジョシュアは突然自分の名を呼んだ人物に一瞬驚いたが、すぐに笑顔を見せた。


「子供が酒を飲んじゃダメだって言われなかったか。元宰相はそう言うことには堅かったと思ったんだが。」

「確かに・・・。じゃあ子供らしくイチゴソーダにしておきます。」


 セクシーな衣装のバーテンダーからイチゴソーダを受け取る。

ストローで一口飲んだグレッグは、「甘っ。」と言って二口目を飲んだ。


「なんでここにいるんだ?」

ジョシュアが聞いた。

「それは俺の質問ですけど。」

「また、冒険者として生きようと思ってな。こう見えて俺は師範の剣士なんだ。」

 

 師範というのは冒険者組合ヘランが認定するクラフトの最上位だ。


「へえ。そう言われたら納得です。俺が知っている冒険者組合ヘランの事務長は腹の出たオヤジばかりだが、ジョシュアさんは随分鍛えてそうです。冒険者として生きるてことはノワのヘランの事務長を辞めたってことですよね。」

「ああ。やっと吹っ切れたってことさ。」

ジョシュアは笑った。


「そうですか。冒険に出て早々申し訳ないんですが、新たな就職先からオファーがされてますよ。」

「新たな就職先だと?」

「ええ。そういえば報告が遅くなりましたが、今俺たちはペガスエルームっていうスリジクの自治領にいるんです。」

「知ってる。何処でも話題だよ。・・まさか、そこに来て欲しいと?」

「そうです。領主がそこにヘランの支部を置きたいって言ってましてね。事務長ができる人材を探しているんです。それと、内緒ですが、ある方の父上もそこに来てくれて、あなたを是非にって推薦されています。」

「・・ある方の父上って、会えたのか。」

「はい。今その父上は当面の間、領主代行をやってくれることになりました。その方の推薦があったんで、先日ノワのヘランに行ってみたんですが、ヘランも閉じていたし、貴方もいなくなってたんで困ってたんですよ。恩がある方の父上にどう報告しようかなって。」

「それでまさかマリスまで探しに来たってんじゃねえだろうな。」

「ここに来たのはたまたまなんですけどね。でも貴方を追いかけてこのバーに入ったのは本当です。」


 ジョシュアはバーテンにウィスキーのお代わりを頼むと、一気に飲み干した。


「正直、あいつのいるペガスエルームを見てみたいって思っててさ。ヘランの依頼を受けながら東に行こうとしてたんだ。」

ジョシュアが言った。

「じゃあちょうど良かったですね。ペガスエルームまで案内しますよ。オファーを受けるかどうかは別にして、来るだけなら断る理由はないってことですよね。」


グレッグも残っていたイチゴソーダを飲み干した。

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