第38話 第二の依頼
翌朝、グレッグとペルセウスは宿屋を出てランソの
すでに日は高く登っていて、日差しが痛いくらいだった。ペルセウスは相変わらず不機嫌そうにしていたが、初めてのヘランでの討伐依頼の報酬を受け取りに行くこともあってグレッグは上機嫌だった。
「昨日のギルバートですが、自分でいうだけあって強さのレベルは高かったです。」
「調べたのか。」
「ええ。その辺は抜かりなく。なにせ俺はペガスエルームの諜報部員ですからね。」
「なんだそれは。」
ペルセウスの訝しむ様子を受け流しグレッグは続ける。
「魔力レベル20、体力レベルは50、それに剣士のレベルは60に到達してました。」
グレッグは鑑定魔法でギルバートを測った結果を伝えた。
「それは強いのか。」
「俺の記録によると、ペガスエルームのチームメンバーを除けば総合的に最大の数値が出ています。」
「調べて歩いているのか。」
「そういう訳じゃないですけど、気になる人物を調べておけば後で役に立つかも知れませんしね。ちなみにペルセウスは鑑定魔法が弾かれて計測不能でしたので判りませんけど。」
「ふんっ、まあ、あいつはお前よりは戦闘向きの感じはしたが。で、それがどうしたと言うのだ。」
「なぜ俺たちがこのタイミングでランソまで来たのか、俺なりに考えてみた訳です。」
グレッグは不敵な笑みを浮かべる。
「初級冒険者証がいるからだろう。エルマーが言っていた。」
「それだけじゃないと俺は思ってます。だってペガスエルームにも、もうすぐヘランの事務局を置く予定でしょ。それが出来るまで待てば、わざわざ別の街まで出て来る必要はありません。」
「じゃあ何だって言うんだ。」
「ペガスエルームでは今騎士団の募集をしています。つまり、俺たちに優秀な騎士団員候補を見つけて欲しい、と思っているのではないかと。」
「ならそう言えばいい。」
「それは、領主が表立って他の街から騎士を連れてこれないのと同様、慎重に動く必要があるからです。」
二人は話しながら曲がり角を折れて細い道に入ると、突然男達に囲まれた。
男達は明らかに敵意を示していた。
「誰だ。」
ペルセウスは聞いた。
「イーサンです。」
横からグレッグが言った。
「知り合いか。」
「昨日の討伐のリーダーだったでしょ。覚えてないんですか。」
グレッグは5人の男たちの内の一人を指差して言った。
「おい、貴様、この状況で随分な余裕だな。」
イーサンが言った。
「確かレダンというチームのリーダーをしているって言ってましたね。この人たちはレダンのメンバーですか。」
グレッグが聞く。
「ああ。そうだ。あんたは物分かりが良さそうだな。」
イーサンは昨日の様子とは随分違っていた。
(一体なんだってんだ。)
グレッグはイーサンの態度を眺める。
「それで、何の用だ。」
ペルセウスはイーサンに向かって聞く。
「クラーケンの水晶を渡して欲しい。昨日はギルバートがいたんで渋々渡したが、それは討伐依頼の回収対象だ。貴様個人に属するのはおかしいだろう。」
(魔力レベル10、体力レベル20、剣士レベル15か。中堅冒険者よりちょっと上って感じだけど、全く、こういうやついるんだよね。強いものの前では逆らわないくせに、弱いやつの前で偉そうにするっていう。まあそもそもペルセウスを下に見てる時点で終わってるけどな。)
グレッグは周りを見渡しながら思った。
「嫌だと言ったら?」
ペルセウスが聞く。
「残念だが、力ずくでいただく。」
そういうとイーサン達は剣を抜く。
(こんな街中で随分だな。よくこれで討伐リーダーなんてやってる。ランソのヘランもロクでもないのか。)
グレッグはペルセウスの動きを気にしながら思考する。
(目立つなってエルマーには言われてるし、このままだとペルセウスはやっちゃいそうだ。)
「ペルセウス、どうするんですか。」
「どうするって、クラーケンの水晶は土産になりそうだから持って帰ろうと思っている。」
ペルセウスは水晶を気に入った様子で取り出し、光にかざした。クラーケンの魔石は水晶と呼ばれるほど透明度が高く綺麗だった。
「よし、大人しく渡せば怪我をしなくて済む。」
イーサンが言った。
「そうじゃなくて、この人達をどうするかってこと。」
イーサンの声を無視しながらグレッグはペルセウスに聞く。
「ここでやってもいいが、目立つからな。まとめて森に運んで捨て置くか。」
すでに騒ぎになり始めている。路地の向こうから野次馬が見ているようだ。
「ここで転移魔法っていうのも目立つ気がします。」
「おい、何をごちゃごちゃ言っている。早くその水晶を渡せ。」
イライラしたようにイーサンが近づく。
「黙れ。」
ペルセウスが睨むとイーサンが震え始めた。
「な、なんだ、急に寒気が・・」
(睨むだけで威圧が発生するんだよなぁ。)
グレッグが思案していると、路地に向かって男が走って来た。
「おい、何をやっている。」
走ってきた男が凄みのある声を出した。
「ギ、ギルバート。いや、何でもない。さ、さあ、行くぞお前ら。」
そういうとイーサン達は剣をしまって走っていった。
「何してたんだ。ケンカか?」
ギルバートは柔らかい様子に戻りペルセウスに聞いた。
「いや、あの雑魚がわめいていただけだ。」
「レダンが雑魚ね。まあ、あいつら裏がありそうな気はしてたがな。ランソで幅をきかせている冒険者だ。まだ登録証しか持っていないあんたらを舐めてたんだろ。」
「それにしても助かりました。ありがとうございます。」
グレッグが笑顔で言った。
「助けるも何も・・。それより、待ってたんだ。なかなかヘランに来ないから探しに来たのさ。」
−−−
ギルバートはペルセウス達をヘランに連れて行った。
ヘランには冒険者のための打ち合わせスペースがあり、ギルバートはそこに置かれた丸テーブルを陣取ると二人に座るように言い、年季の入った依頼書を見せた。
「フォグドラゴンの討伐ですか。依頼主はヘラン本部、4年前に出されてますね。」
グレッグがその依頼書を読んだ。
「場所はアルロ王国との境にある森。これまでに討伐隊が一度組まれたが、失敗して撤退して以降、そのままになっている。」
ギルバートは説明する。
「それで。」
ペルセウスがギルバートを見る。
「この討伐を引き受けないか。俺とあんた達でパーティを組むんだ。」
「討伐隊が失敗したんでしょ。」
グレッグが言った。
「ああ。フォグドラゴンは頭がいい。大勢で向かっても身を隠して出てこない。だが一人で勝てる相手でもない。」
「3人で勝てると思っているんですか。」
グレッグはギルバートに聞く。
「ああ、俺は俺より強い奴に初めて会った。ペルセウス、あんたとならやれる気がする。」
(って、俺のことは眼中になさそうだな・・・それにしても気がするっていう程度でランク10の魔獣に向かうなんて無謀もいいとこ・・もしくはペルセウスのとんでもない強さを見抜いてるのか。)
グレッグは依頼書の詳細を読みながら考える。
「そもそも、何故この討伐を?4年間へランも放ったらかしにしてるんですよね。」
「ああ、このフォグドラゴンが住み着いた森の近くに小さな村がある。フォグドラゴンから直接襲われることは無いようだが、その瘴気にあてられて動物たちが森で魔獣化している。狩ができなくなって困っているんだ。昔、俺がバルキア帝国から出た後、行き倒れそうになったのをそこの村人に助けられた。その恩返しがしたい。」
「なるほど。それで強い冒険者が現れるのを待っていたというわけですか。」
グレッグは納得したように依頼書をテーブルに置く。
「そうだ。やってくれるか。」
「いいだろう。」
ペルセウスが言った。
「ちょっと待ってください、ペルセウス。そんな簡単に。それに、ほら、ここ。依頼の受諾要件は熟練冒険者、それに魔術士と剣士のクラフト持ち限定って書いてありますよ。」
「それなら大丈夫だ。俺が持っている。俺が依頼を受けたことにすればいいだろう。もちろん報奨金は等分する。」
(確かにそれなら俺たちが表に出て目立つこともない。だが・・)
「そもそもペルセウスが強いって、どの程度わかっているんですか。」
グレッグはギルバートを試す質問をした。
「どの程度って、昨日クラーケンを倒したのを見てるからな。」
「クラーケンはランク5の魔獣で、ランク10とは全然違うと思いますが。」
「だが、クラーケンを小石一つで戦闘不能にできる奴はそうそういない。それに砂の中にいるサンドピックルの急所を寸分違わず突き刺して歩くなんて芸当、ただ強いだけの奴でも無理だ。」
「・・・そうですか。わかりました。」
グレッグはそう言うと黙った。
(小石一つでクラーケンを倒したのか・・・。)
「よし、じゃあ早速受けてくるからな。」
そう言うとギルバートは依頼書を持って席を立った。
「っと、そういえばお前ら、初級冒険者証には交換できたのか。」
振り返ってギルバートは聞いた。
「あと4回依頼を受けないといけないんですけど。」
「何だ、あれが初回か。」
ギルバートは笑いながら受付に向かっていった。
「どうするんですか。」
ギルバートを待つ間にグレッグはペルセウスに尋ねる。
「まあいい。別に時間はあるだろう。」
「ペルセウスがやるって言うならついて行きますけど。心配ですし。」
「誰を心配している。」
「そう言う意味の心配じゃなくて・・。」
「お前らにちょうどいい依頼を4つ探してきてやったぞ。植物採集だ。どれもフォグドラゴンの住処まで行く道すがら見つかりそうなやつだ。」
ギルバートは笑いながら戻ってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます