第37話 初級冒険者
ペルセウスとグレッグは、ランソというスリジクの海辺の街にやってきた。
東海岸と呼ばれる地域にあるスリジク王国の都市の一つである。
冒険者として未だ初心者登録証しか持っていない二人は、規定回数の依頼をこなして初級冒険者証に切り替えるために、エルマーに言われてやって来たのだった。
「早速目立ってますね。」
グレッグはペルセウスに言った。
エルマーからは出来るだけ目立たないようにして欲しいと言われていた。
「何がだ。」
ペルセウスが聞き返す。
「その格好ですよ。」
通りを歩く街の人たちから注目を浴びているペルセウスにグレッグはやれやれと言った様子で言う。
「あなたはただでさえ注目を浴びるんですよ。しかも、この暑いのに、海辺の街に不釣り合いなレザージャケット、それにサングラスです。」
目立っている理由を説明する。
「熱への耐性があるから別に平気だ。それより日光が問題だ。」
ペルセウスは答えた。
「日光がダメなんですね。」
ペルセウスの意外な弱点を知り、グレッグは少し嬉しそうに言った。
二人はランソの
海岸に着くと、ヘランのテントが設営されており、そこに多くの冒険者が集まっていた。
「私が今回の討伐リーダーのイーサンだ。レダンという冒険者チームのリーダーをしている。」
集まった皆の前で中年の冒険者が話し出した。
「この海岸にサンドピックルが集団で現れ、被害が出ている。サンドピックルはおそらく10から20程度いると思われる。昼間は砂の中に潜っており活動も鈍るため、海岸を歩きながら捜索し退治していく。捜索範囲は班ごとに割り振ってある。熟練冒険者が班長に選ばれているので、班員は班長の指示に従うように。」
イーサンは討伐の要領を説明をする。
「捜索範囲の確認が終わった班はテントに戻ってくれ。なお討伐の報酬は均等に割り振るため、戦利品も全てテントへ持ち帰ってくること。」
サンドピックルはランク2に分類される魔獣で、一体ずつであれば危険は少ない。初心者向けの討伐でもあったため若い冒険者が多く集まっていた。
グレッグとペルセウスは別々の班になった。
「強力な魔法で一気に退治するっていうのはダメですよ。目立たないようにしてくださいね。」
グレッグはペルセウスに言った。
ペルセウスは「じゃあな。」といって、指示された班の方に向かった。
−−−
「俺はギルバート。基本は傭兵だが、平和な時は1人で冒険者をやっている。討伐経験は多いから信頼してほしい。」
ペルセウスの班の班長がメンバーに挨拶した。
ギルバートはいかにも傭兵と言った雰囲気の色黒のゴツい男だ。
「サンドピックルは波打ちぎわの砂浜の中に潜っていることが多い。砂浜のデコボコを感じたら剣を突き刺して確認するんだ。何か感触を感じたら大声で伝えてほしい。」
ギルバートは10名ほどの班のメンバーに指示をする。メンバーのほとんどが討伐初心者だった。
「サンドピックルが飛び出してきたらどうしますか。」
若い冒険者が質問する。
「まず距離をとれ。慌てて一人で斬りかかろうとしないことだ。ケガの素だからな。誰かが発見したら他のものはそこへ急いで向かって欲しい。いいか。」
「わかりました。」
メンバーはそれぞれ波打ちぎわに散らばって、サンドピックル探しを始めた。
「ギュィィ」
ペルセウスが砂浜に突き刺した剣を持ち上げるとサンドピックルが串刺しになって現れた。
(もう死んでるか、加減が難しいな。)
ペルセウスは死んだサンドピックルを剣で放りながらどんどん砂浜を歩いた。気がつくと10体ほどの死骸が砂浜の上に並んでいた。
(ここだけでも結構いたな。)
ペルセウスは念のため探査の魔法で担当範囲を調べ、サンドピックルが潜んでいないことを確認する。
「あんたは初心者じゃなかったか。」
ギルバートがペルセウスのそばに並んだ死骸を見て言った。
「こういうのは初めてだ。」
ペルセウスが答える。
「そうか。まあいい。」
そういうとギルバードはペルセウスを観察するように眺める。
「サンドピックルが出ました。」
「よし待ってろ。」
声のした方にギルバートは走っていった。
「昼のサンドピックルは動きが鈍い。こちらに向かってくる様子を見せたらまっすぐに剣を突き刺せ。体の中心を狙うんだ。」
ギルバートは初心者達にお手本を示すように説明しながらサンドピックルを突き刺した。
その後ギルバートの班は連携よく探索を終えて、合わせて30体のサンドピックルを討伐した。
「想定より随分と数が多いな。これはマズイかも知れない。」
ギルバートは呟いた。
全てのサンドピックルをテントに運び終えると、ギルバートは皆にテントで休むように伝えた。
「私は他の班を手伝いに行く。それとペルセウス、あんたも来てくれ。」
そう言うとギルバートとペルセウスは、まだ探索を終えていない班の区域に移動した。
「やはりおかしいな。」
ギルバートが言った。
「何がだ。」
ペルセウスが聞く。
「数が多すぎる。たまに海岸にサンドピックルの群れが棲み着くことはあるが、大抵10から20ほどの群れだ。今全体で倒した数は100を超えている…んっ?」
そう言うとギルバートは話をやめ、走り出した。
「ダメだ、今すぐ戻れ。」
ギルバートは大声で叫ぶ。
テントで休んでいるはずのメンバーが数名、海で泳いでいた。
ペルセウスもギルバートの後を追った。
「何やってるんだ。遊びできてるんじゃない。すぐに戻れ。」
ギルバートは浅瀬で泳いでいるメンバーを怒鳴りつける。
気づいたメンバーはトボトボと上がってきた。
「これで全部か?」
海から上がってきたメンバーに聞く。
「ええっと、1人まだあそこで泳いでますね。」
メンバーが海を指差した。
「チクショウ、おい、これ持ってろ。」
ギルバートは剣と胸あてを外してその男に渡すと、海に入って行った。
気持ちよさそうに浮かんでいた若い冒険者のもとまで行くとギルバートはその男の首を抱えて猛スピードで泳いで砂浜に向かった。
ようやく足がつくぐらいの地点に来た時、突然大波が起こった。2人はその波で砂浜に打ち上げられたが、振り返るとそこには巨大なクラーケンがいた。
メンバーの男は腰を抜かした様子でその場にへたり込んでいる。
クラーケンはそこに向かって長い触手を振りかぶった。
「痛えっっ」
男の前に庇うように立ちふさがったギルバートの脇腹に触手が直撃した。
「ったく丸腰でクラーケンなんざ俺でも無理だ。早く逃げろ。」
ギルバートはへたり込んでいる男に怒鳴る。
「こ、腰が抜けて…」
男は四つん這いでノロノロと動く。
その間にクラーケンが第二撃の体勢に入りギルバートが防御の構えをとる。
「バシャンッ」
巨大な水しぶきが上がり、ギルバードは一瞬視界を遮られる。
水飛沫とともにクラーケンが崩れ落ちた。
「えっ」
ギルバートが後ろを見る。
「早く上がれ。」
ペルセウスは、腰の抜けた男を担ぎながらギルバートに言った。
「あ、あぁ。」
そう言うとギルバートは波打ちぎわから急いで離れた。
ペルセウスは腰が抜けた男を砂浜に降ろすと、ギルバートに回復薬を渡した。
「ここで待ってろ。」
「これ、くれるのか。」
「ああ、ミミズ腫れができている。」
ペルセウスはギルバートの赤く腫れ上がった脇腹を見て言った後、歩き出した。
「おい、待て。ペルセウス。」
ギルバードが呼ぶがペルセウスは無視して、水の中でもがいているクラーケンの元に向かった。
3メートルほどあるクラーケン引きずりながらペルセウスが戻ってきた。
クラーケンは目を突き刺されて死んでいた。
「ただもんじゃねえな。」
汗一つかかず涼しい顔で戻ってきたペルセウスを見てギルバートは呟いた。
騒ぎを聞きつけたのか、他の班の冒険者達が集まってくる。
グレッグも走ってきた。
「やっちゃいましたか。」
グレッグがペルセウスに言った。
「魔法は使ってない。」
ブーツを脱いで中の水を捨てながらペルセウスが言った。
テントの中でギルバートは討伐リーダーのイーサンと何やら言い争った後、しばらくして大きな水晶を持ってペルセウスのもとにやってきた。
「はい、これ。あんたの戦利品だ。」
「なんだこれは。」
「知らないのか、クラーケンの魔石だ。クラーケンの魔石は水の作用をもつ。高く売れるぞ。冒険者なら垂涎の魔石だ。」
「そうか。もらっておこう。」
「それと、回復薬は返すよ。こんな高価なもんをタダでもらうわけにはいかないからな。ミミズ腫れぐらい二日ほどすれば治る。大した怪我にはなっていない。」
そう言うとギルバートは腹をさすった。
「それにしても助かったよ。あんたが居なければ俺もタダでは済まなかったからな。あの時、離れたところからどうやってクラーケンに攻撃したんだ?魔法を使った様子はなかったが。」
「ああ、落ちてた石を投げた。」
「石を?それであのクラーケンが倒れたって言うのか?」
「倒れたぞ。」
「はっはっは。あんた、すげえな。」
ギルバートは笑った。
その後、今回のサンドピックル大量発生の原因は、砂浜の近くまでやってきたクラーケンの影響で起こったことで、クラーケンを倒したことでこれ以上の被害はないだろうと説明があり、討伐は終了した。
明日以降、ランソのヘランで報酬を受け取れると言うことだった。
ペルセウスはグレッグと共に街まで帰ろうと歩き出した。
「おい、あんた、ペルセウス。」
後ろからギルバートが走ってきた。
「なんだ。」
「この後飲まないか。安くて美味い店を知ってるんだ。」
「いいですね。」
ペルセウスの代わりにグレッグが答えた。
−−−
「俺の国ザールはバルキア帝国に併合されたんだ。もともとザールの軍隊で陸曹長をしてたが、バルキア帝国との併合後、そのままバルキア軍に取り込まれた。」
お酒で気分の良くなったギルバートが言った。
「じゃあバルキア軍にいたんだ。」
グレッグが聞く。
「あぁ、でも2年ほどでやめたよ。併合された国の隊員は、伍長までの職にしか付けず、幹部はバルキア人しかいないから、どんなにいい働きをしても先が無かったんだ。まあ、それでも生活は安定したし、その後は他国との戦争自体もなく、警備が仕事だったから文句があるやつは少なかったよ。俺は異端だったのさ。」
「へぇ、辞めてスリジクに来たんだ?」
グレッグはギルバートの空いたカップにワインを継ぎ足した。
「バルキアは技術も高くて、装備も良かったけど、俺は根っからの戦士だから、警備が主体の小隊長では満足できなかった。」
「でもバルキア軍って強いんじゃないの?」
「ああ、強い。魔法戦士部隊もあるし、武器も優れた技術が使われている。」
「強い兵士がたくさんいるの?」
「いいや、兵士で俺にかなうやつはいなかった。もう一杯頼んでいいか?お前も飲むだろ?」
ギルバートはそう言うとペルセウスの分もワインを頼んだ。
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