第28話 捜査会議
オロガ村の村長サモンから木箱に入れられた沢山の野菜をお土産にもらったエルマー達は、馬車でペガスエルーム城に戻る。
城下街に入るための南領界門で騎士達に挨拶をすると、入領審査を待つ人々の列を横目に検疫門を通過する。冒険者が新たに領主になった街には、仕事を求めてやってくる傭兵志望や商人などで検疫門はごった返していた。
入領審査は騎士団の任務であるが、エルマーは入領チェックを厳しくするように指示を出している。特に冒険者、それにノワから来たもの、ノワと関わりのあるものは、審査に時間をかけるように騎士団長となったアレックスに伝えている。アレックスはその指示を忠実に実施している。
検疫門を通り抜けると、領内警備の責任者となっているパトリックがアンデッドホースに乗り馬車を先導してくれた。
テイマーのクラフトを持つリゲルがコツコツ手懐けたアンデッドホースの数は今や30頭にもなる。普通の馬と異なり、餌をやる必要がないのと、足が速く、テイムにより従順であることから、騎士団の馬として活躍している。
「パトリック、すみませんがアレックスと部隊長を1時間後に城の会議室に集めてもらえませんか。」
城に着いたエルマーがパトリックに伝えた。
「承知しました。」
パトリックはそう言うとアンデッドホースに飛び乗り訓練場へ向かって走って行った。
ペガスエルーム領の騎士団は団長のアレックスの下に三つの部隊が編成されている。第一部隊はパトリックが率いる領内警備、第二部隊は魔法に特化した戦闘部隊、第三部隊は聖弓部隊となっている。
エルマーは執務室に入ると緑魔法の「複製」の術式使って村長のサモンから預かった似顔絵を30部ほどコピーした。
会議室に集まったペガスエルームのメンバーと騎士達が席に着くと、オロガ村から頼まれた捜索について相談する。
「少女二人はオロガ村に宿泊した冒険者風の二人の男を村の入り口まで見送ったことが確認されています。しかしその後は家には戻らず、一週間が経過してもなんの情報もありません。男達が泊まった宿屋の主人からの情報では、彼らは冒険者でスーリで依頼を受けて植物採集に来たと言っていたそうです。ただし冒険者証を確認した訳ではないので、真偽は不明です。」
「1週間も経過しているのか。」
メリッサが悲愴感を漂わせて言った。
「最悪の事態も予想されるが、彼女達を見つけること、またもしその男達が犯罪者なのであれば繰り返さないように一刻も速く逮捕することが必要だ。」
サイードが言った。
「男達が入領していないか、騎士団の方で確認をお願いします。確認後、オロガ村から南領界門までの街道沿いの捜索と、オロガ村からスーリまでの捜索と二手に別れてできるだけ丁寧に森の中を探しましょう。また途中にあるタカロ村での聞き込みは村長達が行なっています。タカロ村への男達の立ち寄りは確認されていません。」
エルマーはそう言うと用意したコピーを配った。
「これは少女達の似顔絵です。二人とも13歳で茶色の髪に茶色の瞳、二人は
エルマーは次にもう一方のコピーを配る。
「それで、これが彼女たちを連れ去ったと思われる男達です。」
「背の高い赤い長髪と、顔に傷のある痩せた男か。」
リゲルが似顔絵を見ながら呟く。
「此奴ら、どこかで見た顔であります。」
アルゴルが大きな声で言った。
「あ、こいつら、おいらを誘拐しようとした奴らじゃ無いか!?あの時、赤毛の長髪と、顔に大きな傷があった奴がいたよ。」
ウバシュが似顔絵を食い入るように見ている。
「ウバシュ、この男達を知っているんですね。誘拐と言うのは何の話ですか。」
エルマーが聞くとウバシュはスーリでの出来事を話した。
「確かに、此奴らだったのであります。」
アルゴルも言った。
エルマーはスーリでの誘拐未遂に驚きつつも、今の問題を優先することに意識を向ける。
「どうやらこの男達はやはり人さらいのようですね。どこかに売ることが目的なら、彼女達はまだ生きている可能性があります。森ではなくどこかの街に連れて行かれてしまったかもしれません。ウバシュ、この男達の行き先やアジトなんかの心当たりはありませんか?」
「そこまでは話していなかった気がする。」
「こいつは赤毛のワロージャかも知れない。」
グレッグが言った。皆がグレッグを見る。
「マリスのケルパー
「そうですか、人さらいということではその赤毛のワロージャの可能性が高いですね。私はマリスに行きます。」
「わかった、では我々は騎士団とスーリに向かおう。3人一組に別れて目立たないように捜索しよう。」
サイードが言った。
その後、騎士団を集めると、数人は騎士団の馬車に乗って転移魔法で先に移動し、残りは幌馬車で移動することになった。
−−−
エルマーが訪れたと聞かされた元ケルパー
エルマーと一緒にオレンジ色のまん丸い小さな魔獣のようなものが入ってきた。
「ペガスエルームの領主様、それと可愛らしいお方ですな。」
ソファに座って丸々としているアルゴルをシャールは見た。
「3ヶ月ぶりでしょうか、シャール。元気にしていたようですね。」
「この度は何か御用でしょうか。あれから言われた通り、一家は解散して、なにも悪いことはしていませんよ。」
「そうだといいのですが。」
エルマーは笑顔でシャールを見た。
「早速ですが、この似顔絵の男達を知りませんか。」
シャールはコピーを受け取ると、一瞬間をおいて
「知りませんな。」
とエルマーをまっすぐ見て言った。
「嘘ですね。僕に嘘をついていいと思っているんですか。」
エルマーが冷ややかな目でシャールを見る。
「あ、ああ、よく見たら、思い出しました。昔こんな二人組を見たことがありました。」
シャールは苦笑いを浮かべる。
「この二人組の名前、居場所、または可能性のある居場所を教えて下さい。」
「昔見たことがある程度で、今は・・」
「シャール、僕に同じことを言わせないで下さい。」
そう言うとエルマーはシャールに向かって魔法陣を切りだした。
「わ、わかった。」
エルマーの手の動きを見たシャールは慌てて話をする。
「あ、赤毛のワロージャと痩せのイワンに似ている。」
「この男達はあなた方の一味なんですよね。」
「一家に属していたが、今は一家を解散したので、何をしているかはわからん。本当だ。」
「この二人は今も人をさらっています。なぜですか。僕は悪いことはするな、と言いましたよね。」
「私も一家を解散するときに皆に伝えた。解散後に私のあずかり知らぬところで勝手に動いている輩たちだ。」
エルマーは深く息を吐く。
「彼らは僕の大切な仲間をスーリで誘拐しようとしたことがあります。そして今は僕の治める領土の住人の少女が二人、彼らに連れ去られました。賢明なあなたなら、このことが僕をどれほど怒らせているか、想像できるでしょう。」
シャールは冷や汗を流す。
「本当に私の指示ではないんだ。元ケルパー一家だった多くは足を洗った。」
「僕は、悪いことをしたら皆殺しだと伝えましたよね。」
「奴らのことはすまなかった。でも私は言う通りにしている。頼む、信じてくれ。」
シャールは必死に訴える。
「では、あなたに再びチャンスをあげます。彼らを捕まえてください。少女達も無事に連れてくることができれば、皆殺しはやめてあげます。」
「ま、待ってくれ。奴らが何処にいるか本当に知らない。」
「じゃあ探すことですね。」
エルマーはそう言うとシャールの屋敷にアルゴルを置いていくと言った。
「捕まえたらアルゴルに報告してください。僕たちが迎えにきます。あ、あと誇り高きアルゴルはくれぐれも丁重にもてなしてください。彼に敬意を払わないとあなた達が痛い目を見ますからね。」
そう言うとエルマーはシャールの屋敷を出た。
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