第26話 北側調査
旧ヴァッセ領がペガスエルーム領となって数週間後。
早朝、大きな馬の魔獣スレイプニルが引く幌馬車は、北領界門を出た。
以前アンデッドモンスターの襲撃を受けた北の砦付近には魔獣は出現しない。未だペルセウスの放った闇魔法の効果が効いているのかもしれない。
エルマー達はその時発見した古代遺跡に立ち寄る。
ここは金属の採掘場の遺跡であった。《フィールドオブブレイブ》の通りに、古代に失われた金属を新たに採掘できれば、強くて丈夫な武器を作ることができる。
ペガスエルームのメンバー達は遺跡の中に魔獣が復活していないかを確認した。古代遺跡はもはやアンデッドモンスターが巣食う鉱窟ではなくなっていた。
エルマーは構造や安全性などを確認した後、改めて北に向かって出発した。
スリジク王国とバルキア帝国との緩衝地帯として人が立ち入ることのなかった広大な森の中をペガスエルームが進む。
この地域の探険はエルマーがもともと予定していたものだった。久しぶりの冒険にメンバーのテンションも上がっていた。
人が立ち入ったことがないという割りには森の中に馬車が通れるほどの道が続いていた。生い茂った草の隙間からは石畳が見える。それはかつてここに街道が敷かれていたことを示していた。
進み始めて2時間後、幌馬車が止まった。
「アダマスドラゴンがいるぞ。」
御者台いたリゲルが伝えに来た。
道の程近くの大きな木の下でアダマスドラゴンがのそのそと動いている。
大きな甲羅を持つ巨大なサイのような魔獣で、ランク9のモンスターに分類される。
リゲルはそのまま飛び出していった。それに続いてウバシュとサイードも馬車を降りる。
「ちょっとまて。」
メリッサは慌てて銃に弾を込めている。
アダマスドラゴンは幌馬車に気がついたのか、ドシドシと音を立てながら近づいて来た。
アダマスドラゴンとの距離を取りながらウバシュがダウニーを唱えた。続けてサイードが防御力を高めるディフェンスを唱えた。リゲルは近づいてくるアダマスドラゴンに突進するとエクスカリバーを突き立てた。
「やっぱり硬いな。」
固い甲羅に阻まれて攻撃が入らない。サイードが続けて攻撃魔法ブリザードを放った。アダマスドラゴンの手足が凍り、大きな唸り声をあげた。
遅れて来たメリッサは雷属性の魔力を持つマグナム弾を連射すると、アダマスドラゴンの首のあたりに命中した。その途端、アダマスドラゴンは体を揺らし、長くて太い尻尾を大きく振り回した。まさに後方から斬りかかろうとしていたリゲルに、その太い尻尾が直撃した。
リゲルは宙を飛んで5メートルほど先に落ちた。
「クリティカルヒットだ!!ウバシュ、急げ。」
メリッサが大声で叫ぶ。ウバシュは大慌てで倒れているリゲルに
幌馬車から降りてきたペルセウスがサンダーボルトを放ち、アダマスドラゴンは息絶えた。
「リゲル大丈夫か?」
メリッサが駆け寄る。
「ああ、ウバシュの回復のお陰で助かったよ。一瞬気を失ったけどね。」
リゲルが起き上がった。
「モンスターは追い込まれてからの方が凶暴になる。直接攻撃する場合は僅かな動きも見逃すなと言ってるだろう。」
メリッサは優しく諭した。
「すまん。」
「ランクの高いモンスターの討伐は連携の確認が大事です。先走ってはダメですよ。」
エルマーはリゲルを注意すると、リゲルは反省した様にシュンと耳と尻尾を垂らしていた。
辺りの様子から近くに魔獣がいないことを確認すると、リゲルとグレッグは、倒されたアダマスドラゴンから貴重なツノと甲羅、爪を回収した。
「この森にはまだまだ高ランクがいそうだぜ。」
リゲルはもう元気になっていた。
運転手をメリッサに交代し、幌馬車はさらに北を目指して進んだ。
夕暮れになるとアンデッドの魔獣がちらほら出てくるようになった。
夜の停泊のため、少し開けたところに馬車を止めると、チームは二手に別れて近くのアンデッドたちを一掃した。
リゲルは数頭のアンデッドホースを手懐けて戻って来た。
「ガーゴイルもいましたね。」
エルマーが言った。アンデッドは種類によって出現場所がおおよそ決まっている。ガーゴイルは廃墟の街周辺にしか現れないモンスターだ。
「おそらくこの近くに廃墟があるはずですね。明日、日が登ったら近辺を捜索しましょう。」
交代で見張りをしながらエルマー達は休む事にした。
翌朝、辺りを捜索すると続いていた馬車道から伸びる別の道が見つかった。その先にはエルマーが言ったように廃墟の町があった。
街の入り口には『山の国 ホグダツ』と刻まれていた。見える範囲の街は相当な広さで、大きな建物だったと思われる柱や壁も残っていた。
「ここは…」
「どうしたんですか、ペルセウス?」
「いや、べつに。」
そう言うとペルセウスは口を閉じた。
「山の国は確かスリジク建国前にあった都市国家の一つだな。スリジク建国で併合されたと思っていたが、廃墟になっていたのか。」
サイードが言った。
「ここはもともと空白地帯の森ではなかったのかもしれませんね。」
エルマーが言った。
廃墟にはランク4のマミーやアンデッドソルジャーがいた。
出現するアンデッドはどれも廃墟になってから現れるモンスターで、この街が滅んだ直接の原因とは考えられなかった。
街の中央には大きな教会の廃墟もあった。この建物は崩れたところはなさそうだった。
エルマー達は建物の中にいる魔獣も含めてホグダツの街の中にいるモンスターを2時間ほどで残らず倒した。
「かなり立派な建物もあったみたいですが、どんな街だったんですかね。」
エルマーはつぶやいた。
一行は幌馬車にもどった。
昼食を食べ終え、この先の進路を話し合っているときだった。
「ホグダツは、我が以前に潰した街だ。」
ペルセウスがぼそりと言った。
「えっ、ペルセウス、どういう…?」
皆が話すのをやめ、耳を傾ける。
「ある時、この大陸を訪れた我の部下がホグダツに捉えられた。魔族だという理由で。」
ペルセウスが淡々と話す。
捕らえられた部下がつれていた従魔がなんとか魔国に戻り、ペルセウスに助けを求めたという。
ペルセウスが助けに訪れると、部下は牢屋の中で裸の状態で手足を縛られ、ひどく衰弱していた。捕らえられてから3週間ほど経っていた。
「我は彼女をすぐに助け、その場で彼女を牢に閉じ込めた貴族たちと、兵隊を殺した。彼女はまだ息があったが、意識が戻らないまま死んでしまった。彼女が死んでしまい感情が抑えられなかった。我はこの地全体に
「街全体にですか…。」
「部下の亡骸を魔国で一人弔った後、再びこの地を訪れたが、街には誰も残っていなかった。」
「そんな事があったでありますか・・。まさか、その方はシェダル様では・・・。」
アルゴルがか細い声で言った。
「ああ、そうだ。彼女の魔術は戦闘には向かないものだった。人間でも大勢で取り囲まれれば太刀打ち出来なかったのだろう。」
ペルセウスが言うとアルゴルは涙ぐんだ。
「もしかするとそこからこの街は誰も住まなかったのかもしれませんね。他の都市も近くに無さそうですから、自然と廃墟になったんでしょう。ペルセウス、辛いことだったと思いますが、教えてくれてありがとうございます。」
「ああ、昔のことだ。」
ペルセウスは言った。
休憩を終えて幌馬車は再び動き出した。
「シェダル様はペルセウス様の婚約者でした。」
ペルセウスが自室に引きこもった後、アルゴルが悲しそうに言った。
「広い世界を見ておきたいと言って旅に出てから消息が不明になっていたのであります。ペルセウス様がこちらの大陸に留まるのはシェダル様を見つけるためかとも思っておりました。祠の中に閉じこもっているため、そろそろ探しに行こうと提案したこともありました。」
シェダルは明るく天真爛漫で側から見てもペルセウスと仲睦まじかった、とアルゴルが教えてくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます