第20話 新しい名前
ノワ王都から戻って来たグレッグは幌馬車のエルマーの部屋へ真っ直ぐに向かう。
「ワーズ家の爵位剥奪に加えて、お父さんが行方不明ですか。」
グレッグの報告を聞いたエルマーが暗い表情になる。
「サイードに伝えない方がいいでしょうか。」
グレッグが聞く。
「いや、このまま黙っておくわけにはいきません。サイードに伝えましょう。」
エルマーは険しい顔をして言った。
夕刻になり、サイードが幌馬車へ訪れると、エルマーとグレッグはサイードにワーズ卿の話をする。
「そうか。わかった。」
そういうとサイードは黙った。
「お父さんを探しましょう。」
エルマーが言った。
「探しても、どうする事もできない。」
そう言ってサイードは首を横に振り、「チームに迷惑をかけたくない。」と言った。
「僕の父は盗賊に殺されました。今でも優しかった父のことを思い出します。生きていればいろんな話ができたのに。」
話し出したエルマーは辛い表情をしていた。
「少なくともサイードの無事を伝えればお父さんも安心するはずです。家族が生きている、それを伝えないことの方が僕には耐えられません。」
「すまない。」、そういうとサイードは父親の行き先について検討した。
「父が向かった可能性がある場所について、一つだけ心当たりがある。ギルフだ。」
サイードは言った。
「ギルフ!?ノワからは随分と遠いですね。」
ノワからギルフまでは、陸路であればマリス、スリジクをサロール海沿い周り、アルロ王国を越えてマンチェスに入るか、サロール海を渡る必要がある。
「ワーズ領は西海岸に接するため商船を所有していた。サロール海を渡った可能性はある。そして、父はギルフに縁がある。かつては魔導技師を志していた。若い頃に最先端の技術が学べるギルフの技術大学に進学し、ワーズ家の当主となる前まで、暫くの間そこで講師もしていたと聞いている。ギルフであればノワと関わりのない昔の知り合いもいるだろう。」
サイードが説明した。
−−−
翌日、エルマーは全員参加の会議を開くと言って、メンバーを幌馬車のリビングに集めた。
エルマーはこれまでも自身の計画を相談という形でメンバーに伝えてきた。大事な決定は全会一致で行うことが重要だと考えている。
リビングには大きなL字型のソファがあり、ローテーブルを挟んで向かいには一人がけの肘付きソファが2つ置かれている。
L字型のソファには真ん中にウバシュ、その横にアルゴルが可愛く並んで座っている。ソファの手前側の端にメリッサ、奥の端にリゲルとグレッグが座る。一人がけのソファにはサイードが座り、ペルセウスは部屋の隅に立ったまま座ろうとはせず、ニャンコ氏はペルセウスの近くで床に伏せている。
エルマーは笑顔で話し出した。
「相談したいことはチームの新しい名前です。4人だったエルームは今は7人、ペルセウスの部下のアルゴルとニャンコ氏を入れると9人になりました。人数も増えましたし、これからは活動の幅も広げていきたいと思っています。それで、新しい名前を考えてきました。」
「名前を変えるのか!?」
リゲルが言った。
エルームというチームの名は今や広く知られている。名が知られているという事はそれだけで
「はい、そうです。」
「それで、その新しい名は?決めているのか?」
メリッサが淡々と聞いた。
「ええ。『ペガスエルーム』っていうのはどうですか?」
エルマーがニコニコしている。
「なんかパワーアップした感じでいいんじゃね。」
リゲルが賛同した。
「人数が変わるたびに名前を変えるつもりか。」
ペルセウスが言った。
「まあ、そうかもしれませんね。仲間はこれからも増やしたいですが、でも暫くはこのまま行こうと思っています。」
エルマーが言った。
エルームという名も元々エルマーが付けたものであり、エルマーが変えたいというのであれば仕方がないと言った様子で皆エルマーの提案に賛同した。
反対意見が出ず、ほっとしたエルマーは二つ目の話として、ヴァッセ領を自分たちの領土にしたい、と伝えた。
皆がさらに驚く。
「ここを僕たちの活動の本拠地としたいんです。もちろん、これからも冒険は続けていくつもりです。緑の書に魔剣エクスカリバー、アイギスの盾、賢者の書に黒の書と手に入れて来ましたが、まだまだ古代遺跡は残されているはずです。この地はその活動を進めるにあたって都合がいい場所です。」
エルマーが説明すると、サイードとグレッグを除くメンバーは理解できない様子でエルマーを見た。
「領土にするって、どうするつもりだ。スリジクと戦うつもりなのか。」
メリッサが言った。
「それは避けたいところです。すでにサイードやグレッグが色々と動いてくれています。時間はかかるかもしれませんが機会を待つつもりです。」
未だ理解できないといった様子のメンバーに対して、サイードがヴァッセ領の現状や領民達の不満など集めた情報を補足した。また、魔獣討伐で名を上げた戦士が爵位を与えられる例は南部ではままあることなども併せて説明し、領民からの支持が得られれば領主となる事も不可能ではないと言った。
想定外だったと皆驚いたものの、今の時点で反対する意見はなかった。
エルマーの目指すものがなんなのか、知ることはできないが、それを一緒に叶えていきたいという気持ちが皆どこかにあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます