第8話 メンバー集め
ケルパー
「サイード、この件はもう大丈夫だと思います。念のためにウバシュにノワの
エルマーは報告した。
「エルマー、改めてありがとう。感謝する。」
「気にしないでください。サイードのためだけに動いたわけではありません。ケルパー一家にしろ、ハルメリアにしろ、僕はああいうのは嫌いです。」
エルマーはいつものようににっこりと笑って言った。
−−−
エルマーが海辺の街マリスに来たのには二つの理由があった。
一つめはグレッグを仲間にすることだ。
グレッグはアサシンと道化師の二つのクラフトを持っている。
ゲームの中ではメンバーにできるキャラは100近くいた。ただ、チームメンバーは9人までしか選べず、新しいメンバーを入れたい場合は誰かとお別れすることになる。
現実となったこの世界でのレベリングを考えるとメンバーの選定は計画的に行うべきであり、エルマーはすでに仲間としたいメンバーを決めている。決めていると言ってもうまくいかなければメンバーには加わらないし、そのうち1名はゲーム上ではエンカウント自体が超レアなキャラであったため、現実世界で会えるか分からないのだが、いずれにしろ候補9名のうちの優先順位の高いメンバーがグレッグだった。グレッグは戦闘場面ではそれほど強くはなく、仲間となる時点のレベルも高くはないが、二つ以上のクラフトを持てるキャラは20名ほどしかいない。アサシンと道化師を併せ持つグレッグは諜報行動に優れており、メンバーに加えると冒険のヒントとなる様々な情報を取得できた。
グレッグを仲間とするためにはサイードが加入していることが条件となっており、さらにサイードに送った手紙にまつわる話をグレッグ自身に語らせる必要があった。グレッグが経緯を語らないままマリスを離れてしまうと二度とグレッグとエンカウントできなくなるため、エルマーはグレッグが語るまでマリスに留まるつもりで気長に構えていたが、あっさりとサイードとの過去を話してくれたた。
(結構ハードな生い立ちなんだな・・・。)
ゲームの中では、マフィアに過酷に虐げられた生活を送っていたグレッグをサイードが救い出した、という短めの文章で語られていたが、まだ17歳なのにアサシンとして生きている理由が思い遣られた。
ただグレッグにとってサイードは子どもの頃からの憧れの人でもあり、また、自分を救い出してくれた恩人のように考えているらしいこともわかった。チームに誘えば仲間になることを断られることはないだろう。
それから暫くの間、エルームはマリスに留まり、メンバーは思い思いにマリスの街を楽しんでいた。
−−−
久しぶりにメンバー全員が揃った夕食で、リゲルが話し出した。
「今日グレッグと
「ペルセウスの祠ですか!」
エルマーが嬉しそうに反応した。
「魔獣の巣窟ってなんだか不気味だな。」
メリッサがしかめっ面をしている。
「それがさ、俺がエルームのメンバーだって言ったら、ヘランにいた冒険者達が騒いでさ。何だって聞いたら、エルマーはきっとあの『祠』からやってきた魔族に違いないって街で噂してるみたいなんだ。それで話を聞くと、どうやら魔族が
リゲルは尻尾を振りながら嬉しそうに言った。
「そこにリゲルは行きたいんですね。」
エルマーが微笑む。
「行きたい。強い魔獣がうじゃうじゃいるって言ってたし、魔族が主って言うのも気になる。なあ、メリッサも行きたいだろ。」
「あたしは別に、あんたと違って戦闘狂じゃない。」
メリッサは何故か小さな声で言った。
「そうですね。ここしばらく冒険者らしい探索活動から離れていたので、いいかもしれませんね。沢山の魔獣を放置しておくのも良くありませんしね。」
エルマーが言った。
「やった。」
リゲルが喜んでいる。
「サイードの戦闘訓練も順調だと聞きましたし、実戦のいい機会になるかもしれません。メンバーが増えたチームの戦闘での連携を実戦で鍛えましょう。」
(ついに冒険者としての魔獣討伐か。何事も挑戦しなければ先はないからな。)
サイードは自分に言い聞かせた。
「それと、ちょっと考えていることがあります。」
「何だ。」
メリッサがエルマーに尋ねる。
「グレッグを仲間に迎えようと思っています。」
ケルパー一家襲撃後も、グレッグは毎日この幌馬車にやって来て、メリッサやリゲルから武術の訓練を受けている。武術の筋も良いとのことだが、魔法の能力も高く、基礎を覚え直したら魔法の威力も格段に上がったという。
「どう思いますか。」
エルマーはサイードに向かって聞いた。
「エルマーが仲間にしたいのであれば特に異論はない。彼はまだ子供だ。このままアサシンとして生きていくことは私も反対だった。」
サイードがそう答えると他のメンバーも賛成した。
翌朝、いつものようにグレッグが幌馬車にやって来ると、彼は二つ返事で仲間になり、幌馬車はそのまま北に向かった。
−−−
幌馬車の自室でエルマーは自作の攻略書と向き合っていた。
マリスに留まった目的は、グレッグ以外にもう一人、ペルセウスをメンバーに加えることだった。グレッグとエンカウント後、マリスにしばらく止まると出現する特殊ダンジョンのボスとしてペルセウスと戦うことができた。
エルマーの目論見通り、「ペルセウスの祠」という、そのまんまな名前の特殊ダンジョンが見つかった。
ペルセウスは、ゲーム上では5年後に現れるラスボス、『魔王』だ。
ペルセウスに関して、ゲーム攻略での裏技があった。
この時点のペルセウスは魔王への覚醒前であり、特殊ダンジョンでのボス戦に単独で勝利すればペルセウスを仲間にすることができる。
そしてペルセウスがチームの仲間になるとラスボスの魔王が変わるらしい。
らしい、と言うのは前世のエルマー自身はこの裏攻略を達成することが一度もできなかったからだ。
ペルセウスは現時点で体力レベル・魔力レベルが勇者のカンストである99より一つ上の100に到達している上、魔剣士と聖騎士の
また、エルマー自身が英雄覚醒する前でないと特殊ダンジョンは現れないため、レベル99以下の状態で戦う必要がある。
なぜ、負けるかもわからないペルセウスに挑むのかというと、ペルセウスを仲間にするとその後の冒険の旅がチート級に楽になるはずだということと、5年後であっても魔王ペルセウスとは戦いたくなかったからだ。
ゲーム終盤での覚醒後の魔王ペルセウスとの戦闘には鬼のように時間と気力を削られた。
現実世界での冒険の旅は常に死と隣り合わせだ。怪我をすれば実際に激痛を受けるし、ゲームと違い戦闘に何時間かかろうとも戦いを中断することはできない。
前世で検索しまくった攻略サイトでは少なくとも実際に何人かはこの裏攻略でペルセウスを仲間にできていた。そしてそのサイトの情報によると変更後の魔王はペルセウスより弱いらしい。
ゲームの特殊ダンジョンは条件を満たせば必ず現れたが、ストーリー上、1回しか挑めなかった。ただ、負けても死ぬことはなく、ペルセウスの祠の前に出されるだけだった。おそらくここでも祠に入れるのは1回だけだろう。
特殊ダンジョンでのペルセウスの攻撃や行動パターンなど、これまでゲームで数回挑んだ記憶と攻略サイトの情報を思い出して10ページに渡って綴っていた自作のペルセウス攻略書をもとに、エルマーはイメージトレーニングを何度も行った。
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