第2話 転生者エルマー

 サイードを救出し、飛空挺に戻ったエルマーは、ほっと胸を撫で下ろした。

予め透明化の魔術を施して広場の上空に待機させていた飛空挺に、ぴったりのタイミングで乗り込むことができた。


 飛空挺のリビングに移動したところでサイードが倒れてしまった。


「おい、サイード、大丈夫か!」

メリッサが慌てている。


エルマーはサイードを抱えてソファへ連れて行く。(どうやら熱があるようだ。息が荒い。)

エルマーは回復魔法リキュパレイトをかける。

「部屋に運びましょう。」


 エルマーはサイードをベッドに寝かせ、しばらく様子を伺うと、次第に息は穏やかになり、脈拍も安定しているようだった。サイードはそのまま眠ったようだ。


(どうかサイードが無事でありますように。)

 エルマーは強く祈った。


−−−


 エルマーには前世の記憶がある。


 この世界が前世で遊んだRPGの世界に酷似していると気づいたのは5歳の頃だった。前世のエルマーは、子供の頃にそのゲームにハマり、攻略サイトに書かれてあるレベリングの裏技や超レアアイテムまで全てを網羅するぐらいやり込んだ。そのゲームの主人公勇者に転生していたのだ。


 現実となったこの世界で、エルマーはゲームの筋書き通りに10歳で冒険の旅に出た。


それから約10年、勇者としての攻略に心血を注いできた。

後5年でこの世界に魔王が現れ、魔王の手により世界中のドラゴンが暴走し、街や村が破壊され国が崩壊して世界が破滅へと進んでしまうかも知れない。自分が勇者エルマーである事の義務感や正義感と、ゲーム攻略への情熱から、エルマーはこの10年で出来ることを全てやった。

もともとのポテンシャルを限界まで活用し、冒険者として他者と比較できないほど強くなっていた。


 この世界にもゲームシステムと同じようにレベルを測ることができる。鑑定という特殊な魔法を使うと、体力レベル・魔力レベル、それに職業クラフトのレベルがゲーム同様に分かる。


 エルマーの体力レベル・魔力レベルは現時点のカンストである99に到達している。また、剣士と魔術士のクラフトもカンストしている。


もしゲームのシステムと同じであれば、3つ以上のクラフトをカンストすると勇者から英雄に覚醒し、カンストの上限がそれぞれ3倍になる。

エルマーは今3つ目のクラフトとして風水士のレベルを上げている。風水士はフィールド内の気候を操れるという能力で、それ自体は戦闘においてはさほど有用性がなく、またレベル上げに時間がかかる。ただ、風水士をカンストしていると、魔術士が上位互換のクラフトである魔道士に変わる。


 街にある冒険者組合ヘランにもそれなりにレベルを把握する仕組みがある。鑑定魔法のように数値でレベルがわかるわけではないが、冒険者の実績などから格付けを行っている。大陸のヘランを統括する本部が公表している最上位の冒険者、神格冒険者は世界でも数名しかいない。神格冒険者と言われる冒険者の体力・魔力レベルはおおよそ60を超える程度だ。


 エルマーは現時点であっても『魔王』以外には誰にも負けないはずだ。それでも『魔王』やドラゴンに立ち向かうにはまだ到底及ばない。仲間を集めてチームを育てなければならない。


 ゲームではいろいろな場所でプレイヤーのチームに加えることができるキャラクターに出会うことができ、チームに入れるとプレイヤーと同じように育てることができた。


 ノワ王国の宰相サイード・ワーズはチームに絶対に加入してもらいたい最重要人物であった。ゲーム上では彼がチームにいるかどうかで攻略方法が左右されると言ってもいいキャラクターだ。



 地下牢でのサイードとの邂逅は、エルマーにとっては重要な局面であり、とても緊張していた。ゲームでは選択肢を1つでも間違えるとサイードは仲間にならず、そのまま処刑されてしまう。慎重に言葉を思い出して発言したつもりだったが、サイードの説得には失敗してしまった。

だが、失敗したときの最終手段をエルマーは考えていた。


ゲームではサイードの処刑は1枚の画像とナレーションでしか見ることはできなかったが、ここは現実世界である。処刑場から強引に連れ出すプランも準備していた。


−−−


「サイードは無事なのか?」

リゲルがエルマーに声をかける。

「はい、多分大丈夫だと思います。」

エルマーは笑顔で答えた。


(エルマーの機嫌が戻ったようだな。)

ノワ城に入ってからのエルマーがこれまでに無いくらいピリピリしていたのをリゲルは感じていた。


「良かったな、サイードを連れてこられて。ところであいつ強いのか?」

「おそらく魔獣討伐などは未経験だと思いますが、素晴らしい人材のはずです。」


(人材ねぇ。仲間を増やしたいって言ってたから強い冒険者でもスカウトすんのかと思ってたが、まさか貴族を連れ去ってくるとはな。メリッサも知ってる奴だし、有名なんだとは思うが。)


「でも大丈夫なのか?ノワであんな派手に立ち回って。」


「うーん・・まあ大丈夫でしょう。」


公衆の面前での強制奪取は思い切り過ぎたかと、エルマーは苦笑いした。

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