人生の落ちこぼれは猫の島で癒されたい

人生の落ちこぼれ

「人生の落ちこぼれ」

俺は自分をこう思っている。でも、変わろうとは思わない。

なぜなら、無理に変わらなくてもいいからだ。

俺の名前は村木秀哉。俺の生活はいたってシンプル…ではないが、特に何か大変なことや辛い思いをすることもない。

三つ上の姉である朋花の家に住ませてもらっているからだ。

姉は有名な洋服ブランド会社に勤めている。主にデザインをしているらしい。

お金にもゆとりがあるらしく、高校を卒業してまともな職も住む場所もなかった俺に

「うちに来なよ!私特に秀哉のネット記事が大好きだからネタ集めとかボツ作品とかも見たいんだよね〜」

と声をかけてくれた。

そうして俺は姉の家で暮らすことになった。

ネット記事を書いたり、小説を書いたり、絵を描いたりして日銭を稼ぐ。

水道代や電気代は姉が払ってくれている。その代わりに俺は姉の家の手伝いをしている。

幸い俺には人並みの家事力があったから。

洗濯をしたり、食器洗いをしたり。たまに俺がご飯を作ったり。

稼いだお金でどこかに出かけて、買い物したり、カフェでご飯を食べたり、ついでにネット記事のネタを探したり、たまに姉へのプレゼントを買ったり。

そんな日々の繰り返しだ。

母さんからはたまに電話がくる。今日も母さんから電話が来た。

「いつまで甘えて朋花の家で暮らしているの。いい加減早くまともな仕事について自立しなさい!」

そんなこと自分でも分かっているのだ。いつまでも姉に頼って、甘えている自分は落ちこぼれだと。でも、そんな電話がかかってくるたびに姉が察して電話を代わってくれる。

「だー!かー!らー!私の意思で秀哉を家に住ませてるの!私がネット記事作ってるところ見たいっていうから秀哉は私の家に住んでくれたの!お母さんは秀哉のネット記事とか読んでないわけ?」

「読むわけないでしょ?趣味ならまだしもまともな職にも就かないで…」

姉がさらに怒鳴る。

「なら読んでから言ってよ!秀哉のネット記事や小説は本当に面白いんだから。なんでもしっかり稼げる職業が全てじゃないの!!!」

母が何かを言おうとしたが、姉は電話を切った。

なんだか悲しくなってくる。姉はお金にゆとりがある、秀哉のネット記事が大好きだからと言っているが、俺が姉に負担をかけていることは確かだ。

姉の顔を見つめた後、うつ向いて言った。

「姉ちゃん…ごめん。俺のせいで、姉ちゃんに負担をかけていることはすごくわかるんだ。」

すると姉は、いつもの明るいテンションで俺の左肩に右手をポン、と置いた。

「何回も言うけど私は秀哉のネット記事が大好き。それに、秀哉が家事とかを手伝ってくれるお陰で助かっているの。だからお母さんの言うことなんて気にしなくていい。」

俺の姉は本当に優しい。こんな落ちこぼれの弟に向き合ってくれるから。

「ありがとう…姉ちゃん…」

いつものことなのに、嬉しさで涙が出てきた。

「わっ?!も〜…秀哉、泣かないで!ほら!」

姉はポケットからハンカチを取り出し、俺に差し出した。

このハンカチ…俺が姉に誕生日プレゼントとしてあげたやつだ。

ハンカチで涙を拭くと、微かにラベンダーの香りが俺の鼻の中を通っていった。

昔、小学校の時に「自分の名前の由来を調べよう」という総合の課題があった。

俺は常に冷静で何事にも誠実になれるようにと言う意味と、とても優秀で優しい人になれますようにという意味で「秀」という漢字が入っている。

姉の朋花は周りに優しく、行動力を持てる意味と、華やかな人になれますようにという意味で「花」という漢字が入っている。

姉は名前の通り、とても優しく華やかで行動力のある人になった。だから今有名洋服ブランドに所属しているのだ。

対して俺は全く名前通りに育たなかった。

学生時代も特に成績優秀だったわけじゃないし、姉ほど優しいわけじゃない。

俺はそんな自分を心のどこかで悔やみ、今日も明日もその先も姉の下でネット活動をして生きていくのだろう。

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