第3話 白石にて
空想時代小説
佐助は白石城内にいる阿梅の方の前にいた。
「佐助、よくぞ参った。きびしい道中であったろう」
「姫さまにはご健勝で、お慶び申し上げます。ここに大八さまと守り役の我妻さまからの文があります。明日には白石城下に入れると思われます。ぜひ、片倉のお殿様に口添えをよろしくお願いしますとの我妻さまからの伝言でございます」
「あい分かった。近日中に会えるようにお願いしてみよう」
「それと、これを奥方さまからお子さん方にわたすようにと預かったおります」
と言って、懐中から信繁の遺髪と脇差しを差しだした。
「これは父君のか?」
「そのとおりでございます」
「討ち死にしたとは聞いていたが・・・ウ、ウ・・・」
阿梅は覚悟していたとはいえ、目の当たりの父の遺品を見て、涙をこらえられなかった。
「佐助は、父の最期を看取ったのか?」
「はっ」
佐助は静かに信繁の最期の様子を伝えた。
「父らしい最期じゃ。さすが、真田の強者。この遺品は阿菖蒲や大八と相談して埋葬しようぞ。よくぞ持ってきてくれた」
3日後、大八一行は2代目片倉小十郎重長に目通りできた。初代片倉小十郎は亡くなっている。
「遠路よくぞ参った。途中、忍びにねらわれた時もあったそうな」
大八は頭を下げたまま、なかなか返答できずにいた。
「そんなに緊張するでない。どうぞ頭をあげられよ」
大八は、やっと頭をあげ、重長の顔を見た。鬼小十郎と呼ばれるわりには、やさ男の顔だった。
「ご尊顔を拝し、恐縮に存じます。この度は、姉ともどもお世話になること誠にありがとうございます」
「うむ、父景綱が京都在住の際に、大谷吉継さまや信繁さまにお世話になり、いずれ縁組みをと約をしたと聞いておる。時代の流れで敵味方の立場とはなったが、父景綱は信繁殿の力量を高くかっておられた。大坂の陣でも、天下無双の働き、我々も戦っていて肝をつぶしたぞ。その方のお血筋が当家に来ていただけるとは、まことに心強い」
「まだまだ若輩もの。父信繁には、とうに及びません」
「まさに、こちらとしても信繁さまほど活躍されては困る。表向き、幕府には内緒だからな」
「ご配慮お世話さまです」
「そこで、そなたに一つ願いがある」
「なんなりと」
「うむ、名を捨ててほしい。真田ではなく、片倉大八として、わしの血筋ということにしてほしい。このことは大殿も了解済みだ」
大八は、一瞬息をのんだ。真田の名を捨てる。真田の名を守るために、生き残ったのではないか。しかし、幕府からの追求を避けるためには、仕方ないことかもしれない。また、ここで断れば二人の姉も放逐されるかもしれない。
「不服か?」
大八は、深呼吸をしてから
「いえ、片倉の名をいただけるなら、こんな栄誉なことはありません」
「うむ、では元服するまで姉の近くにおれ。元服後には適当な屋敷を与えようぞ」
「はは、ありがたき幸せ」
4年後、大八は元服し、500石ほどの領地を得た。1万石ほどの片倉家に中では高い報酬であった。大八は、片倉の名を通したが、子孫は願い出て真田の名に復し、六文銭の家紋も使えるようになった。幕府の追求がゆるくなってからの話である。
片倉小十郎重長は、父景綱から一字を譲り受け、重綱と名乗っていた。
佐助は、城下のそばやで働いている。白石は油分を使っていないそばである温麺(うーめん)が有名でそば屋が多い。佐助は、その内の吉田屋へ奉公人として入っている。主人は片倉家と縁があり、内々に城内に入ることの許しを得ていた。夜中には、屋台を引いてそばを出すこともあった。そうやって、片倉家に入っている真田家のお子たちを見守っている。
時には、枕元までいくこともあるが、その際には大八のおつきとなっている三井景国からつなぎの連絡があり、夜分に忍び込んでいる。
白石城は小さな城で、正面からは石垣や多門櫓があり攻めにくいが、裏からは土塁なので比較的忍び込みやすい。三階櫓があり、そこから見張りが見ているのだが、気配を隠すことは得意なので、佐助は難なく本丸館に忍び込むことができた。もっとも見つかったとしても、味方なのでとがめられることはない。佐助にとっては、忍びの勘をにぶらせないための修行みたいなものである。
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