五月 相談しよう

 難波零子は宅間優一と喫茶店に来ていた。喫茶店の名はカナリア。昭和五十年創業の老舗喫茶店である。


「ここ一度来てみたかったんよ。純喫茶っていうん。えーっとね、うちホットケーキとカフェオレ。宅間君は何にするん? プリンとコーラ。あははっ、ほんま宅間君ってコーラ好きやな。まあ、コーラはなんにでもあう最強飲料っていうんはうちも認めるところやけどな」


「ほんで仕事のほうはどうなん? あれ、あの五月病っていうのになってない?」


「そう、よかったわ。あっ来た来た。うわーっめっちゃ美味しそうやん。プリンも美味しそう。なあ、お願いあるんやけど。プリン一口ちょうだい。プリンめっちゃ好きやねん」


「好きやねんってもう一回言ってほしいって。なんか意味ようわからへんけどええよ」


「うち、めっちゃ宅間君好きやねん」


「ど、どうしたん。自分から言うといて顔真っ赤っ赤にして。宅間君ってほんまにかわいいなあ。あつ今のは冗談っちゅうことにしといてや」


「まあ、ほんまのことなんやけどな(ものすごい小声)」



 「さあ、食べよか。はい、あーん(口を開けて零子はまつ)。パクッ、モグモグッ。うわっめっちゃ美味しいわ。ほら、宅間君もパンケーキ食べてよ。はい、あーん」


「どうっパンケーキも美味しいでしょう。ほんでね、今日相談があるんよ。ねえ、うちの話聞いてくれる」

 零子はごくりと一口カフェオレを飲む。


「ほんでね、相談なんやけど。宅間君のこと優一君って呼んでええかな。ずっと宅間君って言うのん、なんか他人行儀やんか。ほんでね、うち考えたんやけど、下の名前で呼びたいなあって……」


「えっええの。めっちゃうれしいわ。ほ、ほんなら優一君。わーあらためて言うとぐっと距離縮まった気がするわ。ええいっこなったら思いきってゆ、優君……」


「れ、れいちゃんって…… も、もう一回言うてくれへんかな?」


「うわーっめちゃうれしいわ優君。えへへっ零ちゃんっていつぶりやろ。小学生のときぶりかな。ほんまうれしいわ」


「ほ、ほんでね。危ない危ない、舞い上がってもうたわ。もうひとつ相談があるんやけど……」


「やっぱりパンケーキ美味しいわ(モグモグ)。ほんでね、もう一つ相談なんやけどうちYouTubeはじめようかなって思うねん。なんかあれって楽しそうやん。まあ、一応うちも芸能の仕事やってるわけやし。でもうち、機械って苦手なんやし。そりゃあ、インスタとかツイッターはスマートフォンでできるよ。でも動画編集ってなると一人じゃ厳しいかなって。でな、優君ってパソコン得意やんか。仕事もそっち系やしさ。それにカメラもやってるって言うてたやんか」


「ほんま!!ほんまにええの。ほんまありがとう。優君も仕事あって忙しいのにうちの無茶な頼みきいてくれて、ほんまにありがとう。優君、めっちゃ好きやで」


「ど、どうしたん。プリンなんて柔らかいもん喉につまったん。あ、あかんって喉つまってんのにコーラはやばいって。ほらお水飲んで」


「ふーよかったわ、優君、なんにもなくて。ほんならこれからもよろしくな。これ、ありがとうのハグやで。ゆ、優君、また顔あっつくなってるやん!!」

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