第26話 種明かし


「何をしてるんですか?」



 坂上はおれと林田さんをびっくりして見ていた。特に林田さんはおれを穴に引きずりこもうとしていたから、よく坂上は声をかけれたなとおれは思った。


「なんでもないよ」と林田さんは答えた。


 なんでもないわけないじゃんと思ったけど、おれは声を出せなかった。なぜなら、林田さんにつかまれてるし、林田さんはノコギリを持っていたからだ。


 おれは坂上に目で助けて!と合図したが、坂上は気づかなかった。


「何か用かな?」と林田さんは聞いた。


「あの、実はおじさんを探してました」と坂上は言った。


 林田さんは坂上をじっと見た。真剣な顔で見ていた。



「ごめんなさい!木を傷つけて、虫をおびき寄せようとしました。反省しています。だから、ノコギリを返してください」



 坂上は頭を下げた。



「おい」



 林田さんは坂上のノドを切った。


 坂上がよびかけられて頭を上げるしゅん間、林田さんはノコギリを下からななめ上にふった。


 坂上の首にノコギリがめりこんだのが見えた。


 坂上がふっとんで、血がおれの顔にかかった。


 おれは自分もやられると思って、声も上げられなかった。


 坂上は殺された。


 ちゃんと自分からあやまったのに。



「な、なんで…?」



 頭がしびれていたから、口が勝手に動いて林田さんに聞いていた。


 林田さんは静かにニヤッと笑った。心からうれしそうな顔だった。まるでマジックの種明かしをする人みたいな顔だった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る