第16話 ヤジマ君


「うわっ!なんだこりゃ、きたねえ!」



うでが首からはなれた。


おれはせきこみながら、きょりをとった。


ふりかえる。



「おまえ何それ?ケガしてんのか?」



真っ黒おじさんじゃなかった。


ヤジマ君だった。


ヤジマ君は小学六年生で、一応友達だった。


「…っなにすんだ…よっ!」


まだ息が苦しかった。


「わりーわりー、コソコソしてるお前が見えたからよ。ちょっとしたイタズラだよ。ウケんだろ?」


全然ウケないけど、ヤジマ君は同級生にはダサいのに、下級生にはイバってるやっぱりダサいやつなので、何も言わなかった。


そんなことをしているヒマじゃない。


「お前、こんなとこで何してんの?おれらのナワバリあらしてんのか?それでケガしてんのか?ジゴージトクだな!アッハッハッ!」


と笑った。アッハッハッ!なんて本気で笑うやつがいるか。


「もっと小さい声でしゃべって!」


おれは小さくするどい声で注意して、そんなこと言ってる場合じゃないよ、と説明しようとした。


「はあ~?」


 だけど、ヤジマ君は下級生に注意されたことが気に入らなかったらしい。



「もっとぉ?ちいさなあ?声でえ?しゃべってえ?」



 わざと大きな声で言ってきた。


 バカだ。コイツはダサいし、バカだ。


 死んだ方が良い。


 そう思ったけれど「人殺しに追われてるから静かにしてって言ってるのっ!」って言った。


 そしたらヤジマ君は小さな声になって「は?マジで?」と言った。


「マジ、こんなとこでしゃべってるヒマないから」


 おれはもう走り出そうとした。


「待てよ」


 なのにヤジマ君はおれのそでをひっぱった。



「はなせよっ」


「落ち着けよ。こういう時は落ち着いた方がいいんだぜ?」


「いや…」


「な?だってお前ケガもしてんだろ?だいじょうぶだって!おれにまかせろよ!」



 一体何をまかせろと言うのか?とにかくはなしてほしかった。



「おれはこれでも上級生だぜ?お前一人くらい守ってやるよ!このティンブラーにちかってな!」



 ヤジマ君はポケットからアプリゲームのキャラクターのカードを取り出して、おでこにくっつけてちかって見せた。


 クソダサかった。今日、二度目の全身鳥ハダが立った。それだけじゃなく、意しきが遠のくくらいになぜかおれがはずかしくなった。



 でも、遠のいた意しきのはじっこに、真っ黒おじさんがダッシュで近づいてきているのが見えた。真っ黒おじさんはかい中電灯を消していたので、気づくのがおくれた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る