第5話 ヤナギの木の下に大人がいた
赤カブトの腹は虫らしくグネグネ動いていた。他の虫たちはわらわらと動き、ノコギリクワガタが下じきになっていた。
おれはおそるおそるビニールぶくろの中に手をつっこみ、赤カブトを取り出した。
赤カブトは根っこだけの足や角をしきりに動かしておれを攻げきしようとしていた。
強いやつだけにかわいそうだった。
おれは近くにあったクヌギの木に放してやろうとした。
だけど、かぎづめのような手はもう一本もなくて、無理だった。
おれは木の枝のところにおいたけど、赤カブトは歩こうとして動くから落ちてしまう。
そうだ!木の根っこのところにうめてやればいいんだ!
メスカブトが出てきたように、カブトムシは地面にもぐってねむる。
ねかせてやればいいんだ!
おれは木の根っこに赤カブトをおいて、地面を手で掘って、そこに赤カブトをおいて、土をかぶせた。
赤カブトは土が動いていたから、土の中でうねうね動いてるみたいだった。
おれはしばらく見ていた。土は動かなくなった。ねむったのかもしれない。
カが耳元をぷぅ~んと飛んでいた。うでに止まっているやつもいる。
おれはそいつをたたいて殺した。さされたところをつめで十字の形におす。
カを殺したのだから、赤カブトを重傷にしたことは大したことじゃないように思えてきた。
心が軽くなった。しょせんこの世は弱肉強食なんだから。
おれは立ち上がった。行こうと思ったけど、赤カブトのいる土の上にはアリが歩いていた。赤カブトがアリに食われるのはかわいそうだから、そのアリをつまんで草むらのなかに投げておいた。
これで助けた気分になるのはおかしいのはわかっているけど、なんか助けた気分になれて、おれは第五ポイントに進むことにした。
はあ、それにしてもおしいことをした。あんなツヤツヤした赤カブトはめったにいないのに。やっぱり今からでも掘りかえしてこようかな。足がなくてもいいんじゃないか?小さいカゴで、一匹だけ別で育てれば。
だけど、あのうねうね腹ばいで動いている赤カブトを見ているのはいやな気がした。かわいそうになってくるし、気持ち悪くなってくる。
さっき、赤カブトの腹を見た時、一しゅん、ゴキブリと同じじゃね?と思った。
一しゅんだけど。
ずっと見てたら、ずっとそう思ってしまうかもしれない。
思い込みで、カブトムシやクワガタがゴキブリと同じ価値になってしまうのはイヤだ。
おれは赤カブトはそっとしておくことにした。
それにしても、よけいな時間を食ってしまった。
暗かった空が、うす暗くなってきている。
もうこれでは大人に先回りして、第五ポイントに行こうとしたのはムダだったかもしれない。
大人はふつうの道順で第二、第三、第四をめぐって、第五ポイントでもカブトムシやクワガタをとってしまっているかもしれない。
あとは、ヘタクソでシロウトなのをいのるしかない。
そうすれば、第一ポイントと同じように残っているかもしれない。
それと、おれのテンションは下がっていた。
赤カブトにはかわいそうなことをした。
だから、もう急がないでゆっくり歩いていた。
かい中電灯も電池がもったいないから消した。このくらいのうす暗さなら、おれは目が良いから平気だ。
第五ポイントに着いた。そこはなぜかひらけていて、ポツンとヤナギっぽい木が立っている。
草むらから出る前に、ヤナギの下に大人がいるのが見えた。
んだよ!やっぱりかよ!と思ったけど、様子が変だ。
その大人はスーツを着ていた。
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