第4話 やってはいけないことをした
手を目の高さに持ち上げてよく見てみる。
ビニールぶくろから、赤カブトの手が一本はみだしてて、それがおれの手に引っかかっていた。
カブトムシの手はかぎづめみたいになっていて、はだの上を歩かせるとチクチクする。
けど、赤カブトの手は、チクチクどころじゃなかった。
手のひらの親指の付け根のぷくっとした部分にささっていた。
ちょっと血が出ている。
こんなことがあるのか!
おれはうれしくなった。
この赤カブトはすげえやつだ!ちょうかっこいい!すげえのとっちゃった!
でも、次のしゅん間、サイアクな気分になった。
赤カブトのうではとれてしまっていた。
いつもげたのかはわからないけど、たぶんいたみを感じた時にふったからだと思う。
おれはガッカリした。
せっかく強くてかっこいい赤カブトと友達になれるかと思ったら、うでがもげてしまった。
もう価値がない。
おれは手の平にぶらさがっている、虫にしては太いうでをとって草むらに捨てた。
ツバを傷にペッてはいて消毒した。
そうしてから、ビニールぶくろの口を開ける。
開けたらすぐそこに赤カブトの顔があった。赤カブトの真っ黒な目がこちらを見上げていた。赤カブトはうでが一本ないのに、必死にビニールぶくろから脱出しようとした。
おれはビニールぶくろを閉じた。赤カブトは閉じた手に、虫にしてはとても強い力で体当たりしてくる。
うでが一本なくなっても、すごいやつだ。
おれは感心した。
おれはビニールぶくろをガチャガチャふった。
それでも赤カブトはまだビニールぶくろの出口のところにふんばっていて、手をグイグイおしてくる。
おれは今度は強くふった。
そしたら、さすがに赤カブトは落ちた。
あっ!
心のなかでさけんだ。
ビニールぶくろの出口のところに、五本、足が残っていた。
おれはそっとビニールぶくろの口を開けた。
口のちかくに、赤カブトの手足がくっついたままだった。
かい中電灯の光で照らすと、赤カブトはビニールぶくろの底のところにあおむけでいた。根っこの部分だけになった手足をぐねぐね動かしていた。
おれは、やってはいけないことをした気がした。
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