第26話
道路へ出ることができなければ、空き家の庭をぐるりと一周して門へ戻ることになってしまう。
だけどそこには化け物が……!
掛けに負けたのだ。
真っ青になって立ち尽くす佳奈。
このまま、ここで3人とも死んでしまうんだ。
そう思ったときだった。
ガッ! と鋭い音が聞こえてきて振り向いた。
大輔がスコップを振り上げて空き家の裏口を破壊しようとしているのだ。
「無駄だよ大輔。このゲームに関係のない場所には入れな――」
佳奈が最後まで言う前に、バンッ! と音を立てて裏口のドアが開いていたのだ。
唖然としてそれを見つめる佳奈。
「なにしてんだ、入れ!!」
大輔に呼ばれてようやく我に返った佳奈は急いで空き家の中に滑り込んだ。
ドアを閉める寸前に化け物の姿を見た。
化け物は空き家の中までは入ってこられないようで、家の周辺を歩き回る音だけが聞こえてくる。
3人は呼吸を整えたあと、ようやく顔を見合わせた。
「どうしてこの家には入ることができたの?」
佳奈が大輔へ向けて聞く。
前は民家に入ろうとしてもダメだった。
窓を割ることもできなかったのだ。
警察署へ行ったときもそうだった。
「俺に聞いたってわからねぇよ」
大輔は仏頂面で答えた。
この家に入れたのは単なる幸運というわけか。
幸運でなければ自分たちはすでに化け物の餌食になっていたということだ。
「私、わかったかも」
さっきからなにか考え込んでいた春香が顔を上げて言った。
「え?」
「この空き家もきっと探す場所になってるんだよ。だから空いた」
「でも、今までは室内にあったことなんてないよね?」
「そうだけど、今回は違うような気がする」
春香はそう言うとスマホで周囲を照らして首を探し始めた。
随分長い間人が暮らしていなかったようで、床は湿気でたわみ、今にも抜けてしまいそうだ。
家全体が歪んでいるのか、トイレのドアは空いたまま閉まらない。
裏口のあるキッチンを抜けて廊下を進んでいくと、ふすまが現れた。
そこを開けてみると6畳の和室があり、奥にはまた同じようなふすまがあった。
「ここは仏間だったんだな」
押入れの横に背の高い立派な仏壇が置かれていたが、そこにはなにも飾られていなかった。
「誰の家なんだろう」
春香がそう呟いて押入れを開けた、そのときだった。
黒くて丸い塊がそこに鎮座していて春香は悲鳴を上げて尻もちをついてしまった。
「春香!?」
隣の部屋を探していた佳奈が悲鳴を聞いてかけつける。
倒れ込んでいる春香と、開きっぱなしの押入れ。
そしてその中には……。
明宏の頭部が置かれていたのだ。
「こんなところにあったのか」
大輔が青ざめた顔で押入れの中から明宏の頭部を取り出した。
一瞬、佳奈にはその頭部が目を開けてこちらを睨んでいるように見えた。
『どうしてイケニエを押し付けなかった』と、被弾されているように感じられて視線をそらす。
このまま明宏の頭部を持って帰れば、明日の朝には明宏は目を覚ますことになる。
また冷たい態度を取られるかもしれない。
そう考えて一瞬だけ、このまま頭部を置いて帰ってしまえればいいのにと考えた。
何を考えてるの!?
我に返り、自分の考えに体が震えた。
いくら明宏との関係がギクシャクしてしまっているからと言って、頭部を放置して帰ろうだなんて!
だけど、同じイケニエになった人間になら、そういう行為ができてしまうということなんだ。
仲間割れした後、相手を見捨ててしまうことは簡単だ。
「佳奈、どうしたの?」
春香に声をかけられて視線を向けると、2人はすでに部屋を出ようとしているところだった。
明宏の頭部は大輔が上着にくるんでしっかりと抱きかかえている。
それを見てホッと胸をなでおろしたのだった。
☆☆☆
目が覚めたとき佳奈と春香は真っ先に男子用の客間へ向かった。
ノックをしてドアを開けてみると、大輔と明宏はすでに布団の上に座っていた。
青ざめてはいるけれど落ち着いている様子だ。
「明宏、影とはなにか話した?」
春香に質問に明宏は何度か咳払いをして頷いた。
首を切られてしまっているから、喉に違和感があるのかもしれない。
「話したよ。首が隠されている場所の共通点があるのかどうかを」
「それで?」
佳奈は身を乗り出す。
明宏は一瞬佳奈へ視線を向けて、すぐにそらしてしまった。
その態度にチクリと胸が痛む。
でも、もう首を探さなければよかったなんて思わない。
「首のあった場所をしっかり探せと言われた」
その言葉に佳奈も春香も渋面を作った。
首があった場所はもう何度も探していて、それでガイコツを見つけることができているのだ。
でも、この悪夢を終わらせるために必要なのは次のイケニエであって、ガイコツではなさそうだ。
それなのにもう1度探せばなにかヒントが得られるというのだろうか。
「春香の首を見つけた空き地はまだ調べてないよな」
大輔の言葉に佳奈は頷く。
「そうだね。あそこにもガイコツがあるのかもしれないし、他にヒントがあるのかもしれないね」
「それなら今日は空き地へ向かってみよう。それでいいな?」
大輔の意見に誰も異論はなかったのだった。
☆☆☆
昼間に訪れる空き地は小さな虫が沢山飛んでいてお世辞にもキレイな場所ではなかった。
土管はあちこちにヒビが入っていて、子供が登ったり入ったりして遊ぶのは危険そうだ。
夜中は首を探すことで精一杯だから、細かな部分までは見ていない。
こうして昼間来てみると全然違う場所のようにも感じられる。
「私の首はどこにあったの?」
「こっち」
明宏が春香と共に木々が茂っている奥へと進んでいく。
奥に進めば進むほど虫の大群が押し寄せていて、春香は何度も追い払った。
「ここらへんだ」
明宏が立ち止まった場所は木々の少し開けた場所で、特に変わったものはなさそうだった。
「今日も暑いし、手分けをして探そう」
「そうだね」
草の匂いにむせそうになりながらも、丁寧に周囲を確認していく。
ここにも、もしかしたらガイコツが埋まっているかもしれない。
けれどそれを探そうと言い出すメンバーは誰もいなかった。
「これ見てみろよ!」
10分ほど空き地を調べたとき、奥の方から大輔の声が聞こえてきて3人は集合した。
大輔は空き地の最奥、ブロック塀の近くまでやってきていた。
足元を見るとヒザくらいの高さの石が置かれている事に気がついた。
「石碑?」
明宏が汗でずれてくるメガネを掛け直し、ヒザをついて確認している。
このくらいの高さだとちょうど木々に埋もれて見えなくなってしまう。
石にはなにかが掘られているようだけれど、長年の風雨で埋もれてしまっている。
明宏は土埃で埋もれてしまっている部分を木の枝で掘りかえしながら読み進めた。
「これは、三福寺の地蔵について書かれているんだと思う」
あの首無し地蔵のことで間違いなさそうだ。
佳奈はゴクリとツバを飲み込んで明宏の次の言葉を待った。
「この土地は、あの地蔵のうちの1人が暮らしていた場所だって書いてある」
「ここに暮らしてたの!?」
佳奈は驚いて声をあげた。
明宏は佳奈には返事をしなかったが、内心同じくらい驚いているみたいだ。
「ってことは、これまで探した場所も地蔵が生きていた頃暮らしていた場所だったってことか」
大輔の言葉に明宏が「おそらくは」と、頷いた。
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