第25話
佳奈はそんなに気にした様子を見せていない。
やがて足跡が途絶えたのは、昨日春香の首を探したあの空き地だった。
「明宏の首もここにあるってこと?」
「さぁ……。今まで同じ場所に首があることはなかったのにな」
大輔は不信感を持っている表情で空き地の中を確認している。
「でも、今の所化け物もいないみたいだよ?」
春香が後ろから声をかけてきた。
探すのなら今のうちだと言っているのだろう。
佳奈は頷き、3人で空き地へと踏み込んだのだった。
空き地は昨日と変わらず鬱蒼と木々が茂った場所があり、探すのならその辺りしかなかった。
あとは古びた土管が置かれているだけで、中にはなにもないことをすでに確認している。
佳奈たちはスマホで木々の隙間を照らしながらもう片方の出て草をかきわけて頭部を探した。
一瞬それらしいものがあったかと思って動きを止めても、それは少し大きめの石だったりする。
「ないな」
途中で大輔が疲れたような声を出した。
それを合図にして佳奈と春香も身を起こした。
ずっと中腰で探していたから、体が固まってしまっている。
それほど広い広間ではないし、木々が茂っているところは全体の半分ほどだ。
探し始めて30分経過しても見つからないということは、やっぱりここに明宏の首はないということみたいだ。
「どこを探す?」
大輔が2人へ向けてそう聞いたときだった。
ガサガサ草木が揺れる音がして視線をそちらへ向けた。
広間の茂みにはさっきまでなにもいなかったのに、そこに黒い化け物が1体立っていたのだ。
咄嗟のことで全員動きが止まってしまった。
黒い化け物が一瞬にして佳奈の目の前に移動してくる。
その腕はすでに振り上げられた状態になっていた。
なんで!?
私達はずっとここにいたのに、一体どこから出てきたの!?
そんな事考えている場合ではなかった。
今からポチェットに手を突っ込んで爆竹を取り出している時間はない。
化け物の手はもう目前まで迫ってきているのだから。
だけど首を探すために包丁はベルトにさしてしまっていて、こちらもすぐには抜き取ることができない。
化け物の手が佳奈の首元へと迫ってくる。
もう、ダメだ……!
逃げることもできずに立ち尽くし、キツク目を閉じる。
殺される!
覚悟を決めたとき、爆竹が激しく爆発する音が聞こえてきて佳奈は目を開けた。
「佳奈、こっち!!」
見ると春香が黒い化け物へ向けて爆竹を投げて、佳奈を手招きしてる。
黒い化け物がひるんでその場で倒れ込んでしまった。
佳奈は弾かれたように駆け出し、春香と大輔のもとへ駆け寄った。
そのまま3人は空き地から逃げ出し、大通りへ飛び出す。
しかしその行き先にも3体の化け物が近づいてきていたのだ。
「くそっ! どこから湧いて出てきやがるんだ!」
大輔がスコップを握りしめる。
後方を確認してみると、そこからも2体の化け物が迫ってきているのが見えた。
6体の化け物を同時に相手にすることなんて不可能だ。
かと言って逃げ込めるような場所はない。
この世界に無関係な場所には立ち入れられないようになっているから、民家に逃げ込むことは不可能。
絶体絶命だ……。
佳奈の背中に大粒の汗が流れ出す。
空き地で怯んでいた化け物までこちらへ近づいてくるのが見えた。
完全に挟まれてしまった。
本当は一瞬で移動できる化け物たちも、佳奈たちの負けを確信しているだめかジリジリとにじり寄ってくる。
「性格のわりぃ化け物たちだな! なぶり殺しにするつもりかよ」
大輔が叫ぶ。
化け物たちにその言葉が通じているのかどうかはわからなかった。
今逃げ込むことのできる場所と言えば、空き地の横にある空き家の庭くらいなものだった。
この庭に逃げ込んで裏手に回ったとき、勝手口が裏道へ続いていれば逃げ切ることができるかもしれない。
佳奈はゴクリとツバを飲み込んで木でできた背の高い塀を見上げた。
少なくても化け物から逃げながらこの塀を登ることは難しそうだ。
一か八か、やってみるしかないかもしれない。
「春香」
佳奈は春香に視線で合図を送った。
春香が空き家へ入るための門が開いていることを確認し、頷く。
「大輔、門が開いてる」
「あぁ?」
一瞬なんのことだかわかっていなかった大輔だけれど、すぐに空き家へ逃げ込むことができることを理解した。
「わかった」
視線を化け物へ向けたまま頷く。
自分たちが動けばきっと化け物も距離を縮めてくるだろう。
そして裏口から逃げ出すことができなければ、終わり。
「行こう!」
佳奈が叫ぶように合図を出した瞬間、全員が門へ向けて駆け出していた。
化け物たちがそれに反応して距離を詰める。
振り返らずに家の裏手へと回ったとき、そこにも高い塀がそびえ立っているのが見えた。
木の塀に扉らしきものはついていない。
そんな……!
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