第27話

「だけど肝心の地蔵が誰なのかわからないよね……」



春香の言葉に佳奈がパッと顔を上げた。



「そんなことない、わかるよ!」



「え?」



「ほら、昨日見つけた場所!」



首を傾げる春香に、佳奈は空き家を指差して見せた。



明宏の首はあの家の中で見つけたのだ。



とても古い家で今にも崩れ落ちてしまいそうだった。



「そうか。あの家に暮らしてた可能性があるんだ!」



春香も佳奈の言いたいことを理解して声を上げる。



あの空き家にはなにか手がかりがあるかもしれない!



4人は急いで空き家へと向かったのだった。


☆☆☆


空き家の裏口へ回ってみると昨日大輔が破壊したままの状態になっていた。



そこから家の中に入っていくと、昨日は気が付かなかったがホコリが大量に積もっていることにきがついた。



そこに佳奈と大輔と春香の靴の足跡が残っている。



そしてそれ以外に素足の5人分の足跡も。



「ホコリの上だから足跡が消えなかったんだな」



明宏はポツリと呟いた。



首を見つけた和室へ向かうと、押し入れの戸は開けっ放しになっていた。



なにもかも昨日のままだ。



「押入れの中はもうなにもないみたいだな」



大輔が押し入れの中に首を突っ込んで確認している。



昨日そこに明宏の首があったのに、全然気にしている様子はない。



「この家を探すって言っても家具は全部持ち出されてるのか……」



家具が残っていれば色々と探す場所があったかもしれないが、後は屋根裏や床下を探すことになりそうだ。



さすがにそこまで大掛かりなことをするのなら、準備が必要になってくる。



「家具なら1つだけ残ってるよね」



春香がか細い声で言う。



その視線の先を追いかけていくと、大きな仏壇が鎮座していた。



他の家具はすべて撤去されていて、仏壇に飾るものも片付けられている。



それなのに仏壇だけが残っていることは不自然だった。



明宏がそっと仏壇に近づいてく。



埃のかぶっている引き出しの取ってにフッと息を吹きかけた。



ホコリが舞い上がり、窓から差し込む太陽光で輝いてみえた。



小さな引き出しは立て付けが悪くなっているようで、簡単には引き出せず、ガタガタと何度も揺らしてようやく引き出すことができた。



その中に入っていたのは……一枚の写真だった。



「それは?」



佳奈が聞くが、明宏はまた無言だった。



「古い写真。白黒で、5人が写ってる」



明宏の横から写真を確認して春香が言った。



「5人か」



大輔が獲物を射るような視線を向ける。



「首なし地蔵の5人」



明宏がつぶやく。



きっと、そうで間違いないだろう。



しかしそれ以外のものを見つけることはできなかった。



写真に写っているのは5人の男性で、これと言って特徴のない人ばかりだ。



ただ、こうして同じ写真に写っているということは、5人はもともと仲が良かったのだろうということだ。



年齢も同じくらいに見える。



「これはなにかの手がかりになると思う。もらって行こう」



明宏はそう言ってポケットに写真をしまったのだった。



少しずつなにかが見えてきているような気がする。



それとも、それはただの勘違いなのかも知れない。



本当はなにもわかっていないのかも。



布団の中で佳奈は何度も寝返りを打った。



目を閉じて浮かんでくるのは5人の写った白黒写真と、慎也の首のない体ばかり。



慎也の体も美樹の体も毎日確認しているけれど、特に変化はなかった。



相変わらず鼓動を続けていて、呼吸しているかのように腹部が上下している。



皮膚も生前と変わらずに水々しくて張りがある。



腐敗していく様子はなくて、ひとまずは安心していた。



それにしても、今日はどうしてこんなに眠れないんだろう。



普段から眠くなくても強制的に夢の中に引き込まれていくのに……。



朝が、来た。



佳奈は呆然として布団の上に座り、窓から差し込む朝日を見ていた。



昨日は結局一睡もできなかったのだ。



そう、一睡も。



つまり、眠っていない。



夢を見ていないのだ。



「佳奈」



名前を呼ばれて横を見ると春香が目を覚ましていた。



戸惑った表情で、視線が泳いでいる。



「夢を見た?」



春香からの質問に佳奈は左右に首をふる。



「そっか……」



春香はソレ以上になにも言わなかったけれど、そんな質問をするということは、貼るかも夢を見なかったのだろう。



「男子たちにも確認してみよう」



そうして合流したとき、誰の首も取られてはいなかった。



そして誰もあの夢を見ていなかったのだ。



「どういうことだよこれ」



わけがわからないまま、大輔が苛立ってダイニングテーブルを殴りつけた。



明宏は顎に手を当てて「おそらく、次のイケニエが見つかったんだろうな」と、つぶやく。



「イケニエ? だってそれは失敗したじゃん」



春香が佳奈を気にしながら言う。



大塚たち3人組に押し付けようとしたけれど、できなかった。



「大塚たちじゃない。別の誰かが地蔵を見たんだ」



「誰だよそれは」



「わからない」



大輔の言葉に明宏は首を振った。



イケニエが変わったということは自分たちは開放されたということだ。



しかし、手放しでは喜べないことがあった。



「じゃあ美樹と慎也はどうすんだよ!」



ガンッ! と今度は足でテーブルを蹴とばす。



起きて全員の首が取られていないことを確認したあと、慎也と美樹の体も確認した。



そこにあったのは今までと変わらず首のない胴体だけの2人だったのだ。



それを見たとき佳奈はまだ絶叫しそうになった。



自分たちはすでに悪夢から逃れたというのに、首を取られた2人が助からないなんて……!



「次のイケニエが見つかっても首が地蔵についてしまえばそれで終わりってことか」



明宏が低い声でつぶやく。

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