第23話

☆☆☆


みんなでカレーを作って早めの夕食を終えた4人は大塚たちとの約束場所へと向かった。



昼間落ち合ったあのファミレスだ。



3人はまだ夕飯前だったようで、到着したときにはすでに定食を注文して食べているところだった。



その様子に明宏が一瞬眉を寄せる。



「よぉ」



大輔が片手を上げて挨拶をすると、3人が同時に箸を置いて背筋を伸ばした。



まるで担任教師から咎められたときのような仕草に春香がため息を吐き出す。



「どうだった?」



席に座るなり明宏が質問した。



3人は互いに視線を交わして「なにもなかった」と、大塚が代表して答えた。



「なにもなかった?」



「あぁ。言われたとおりに首無し地蔵に行ってみたけれど、やっぱりなにもなかっ

た」



その言葉に明宏の顔は引きつった。



「そんなはずないだろ。あそこに地蔵があったはずだ」



思わず声が荒くなり、3人が戸惑った様子で明宏を見つめる。



普段から冷静で声を荒げる事なんてない明宏が、今日は様子が違う。



「本当になにもなかったんだ」



3人は同じ言葉を繰り返すばかりだ。



明宏の背中にジワリと汗が滲んでくる。



そんなはずはない。



あのお守りを持っていれば地蔵を見ることができるはずだ。



そしてイケニエを交代できるはずだった!



いや、そもそもその考えが間違っていたのかも知れない。



お守りは持っているだけじゃダメで、本当に本人のものでないといけないのかもしれない。



そしてイケニエは交代など最初からできなかったのかもしれない。



微かな希望にかけて行動に移したのに、こんな結果になるなんて……!



膝の上で拳を握りしめたとき、ふと視界に佳奈の姿が写った。



佳奈はさっきから落ち着きなく何度も椅子に座り直している。



なにをしているのかと視線を向けてみると、佳奈はビクリと体を震わせて視線を外した。



なんだ……?



明宏は眉間にシワを寄せる。



「地蔵を確認しに行ってみよう」



3人は嘘はついていなさそうだ。



地蔵が見えていれば慌てて自分たちに連絡をしてきてもおかしくはない。



それが、約束場所のファミレスでのんきに食事をしていたのだ。



3人には本当に地蔵が見えなかった。



それは以前となんら変わらない風景でしかなかっただろう。



だから、これ以上話を聞いても無意味だった。



明宏は3人へ向けて「悪かったね」と声をかけて、地蔵へ向けてあるき出したのだった。


☆☆☆


日が暮れ始めた街の中、4人で地蔵へ向かうと地蔵は確かにそこに存在していた。



毎日見ているのと同じ姿で、オレンジ色の夕日を反射している。



「どういうことだよこれ!」



大輔が苛立ったように地面を蹴る。



明宏はそんな大輔に目もくれずに佳奈の前に立った。



「な、なに?」



佳奈は真っ直ぐに明宏の顔を見ることができずに後ずさりをした。



「あのとき、どうして1人で買い物に行った?」



「あ、あのときって?」



「しらばっくれるなよ、3人にお守りを渡した後だ!」



明宏の怒号に佳奈は身をすくめる。



普段怒らない人が怒ると、さすがに迫力が違った。



「別に、意味なんて……」



佳奈が最後まで説明する前に明宏が動いていた。



佳奈のバッグをひったくり、中から財布を取り出す。



「なにするの!?」



咄嗟に奪い返そうと両手を伸ばすけれど、遅かった。



明宏はサイフを開けて中からお守りを取り出していたのだ。



「それっ!」



春香が右手を口に当てて叫ぶ。



「どうしてそれがここにあるんだよ」



大輔も目を見開いている。



佳奈は黙り込んでうつむいてしまった。



「ファミレスから出たあと、なにしてた?」



明宏からの質問にもう逃れられないと観念した。



佳奈は大きく息を吸い込んで、ファミレスから出たあとの行動を説明するしかなかった。



『ごめん。ちょっと先に帰ってて』



昼間、4人でファミレスを後にしたあと、佳奈は春香にそう伝えて1人で道を引き返した。



そして4人の姿が見えない場所まで移動してくると、スマホを取り出したのだ。



汗の滲む手でスマホを操作して電話をかけた。



その相手は大塚たちだ。



『ごめん、話し忘れたことがあるからさっきのファミレスに戻ってくれない?』



佳奈はそう伝えて電話を切るとファミレスの前で3人を待った。



しばらくして3人が戻ってきたとき、佳奈はすぐさま『地蔵にはもう行った?』と、質問した。



『いや、まだだけど』



それを聞いて心底ホッとした。



大塚たちはまだあの地蔵を見ていないのだ。



『そっか。あのお守りを返してくれない?』



『え? でもあれが無いと地蔵をみることができないんだろう?』



『そんなの嘘。それっぽく言ってみただけだよ。そのお守りは祖母の形見なの』



佳奈の言葉に大塚はすぐにお守りを返してくれた。



『形見なんて大切なものをくだらないことに使うもんじゃないよ』



『うん、そうだね。ごめん』



佳奈は手の中でギュッとお守りを握りしめた。



『とりあえず俺たちは地蔵に行ってみるよ。そういう約束だしな』



そう言って大塚たちはお守りを持たずに地蔵へ向かったのだ。



「どうしてそんなことしたんだよ!」



明宏がツバを撒き散らして怒鳴る。



「だって、だってやっぱり無理だよ、誰かを自分たちの犠牲にするなんて!」



「佳奈はそれでいいのか? 慎也がずっとこのままでいいのかよ!?」



明宏が地蔵についた慎也の首を指差す。



その瞬間胸がズキンッと強く傷んだ。



このままでいいわけない。



慎也を助けたいに決まってる!



佳奈は下唇を強く噛み締めた。



また、ジワリと血の味が滲んできて顔をしかめた。



「佳奈がそこまでバカだとは思わなかった」



明宏は吐き捨てるように言ってあるき出す。

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