第22話
だからってクラスメートから選ぶなんて……。
佳奈はゴクリとつばを飲み込んで写真から視線をそらせた。
いくら自分たちとは遠い存在だとしても、同じクラスで勉強をしていれば挨拶くらいは交わしている。
そんな中から選ぶなんて考えられなかった。
しかし明宏と大輔の2人は写真に見入っている。
「最低でも3人組がいい。残りの地蔵の頭は3体分だから」
「そうだな。こいつらはどうだ?」
「浅野たちは4人組だったよな? 運動部だから化け物との対決には向いているかもしれないけれど、1人だけ呼ばないと不審がられないか?」
「そうかじゃあ――」
2人がどんどん話を進めるのを止めることができない。
止めたところで、じゃあ誰を選ぶのかと聞かれたら、答えることができないからだ。
耳を塞ぎたくなるような会話を聞いていないフリをするしかなかった。
しばらく議論していた2人はちょうどいい3人組を見つけたようだ。
それはクラスでもおとなしい系に属する男子生徒3人組で、いつも寄り添うようにして休憩時間を過ごしている。
確か、3人共読書が趣味だと聞いたことがあった。
「よし、それならこいつらで決まりだな。連絡先はわかるよな?」
大輔に言われて明宏は頷いた。
クラスメートの連絡先は全員メッセージを介して知っていた。
それから先はトントン拍子だった。
明宏が3人組のうち1人に連絡を入れると、ファミレスに集合するように伝えたのだ。
幸か不幸か、3人は揃って図書館にいたようで他のメンバーに連絡をする必要がなかったのだ。
約束のファミレスに到着したとき、3人はすでに席に座ってドリンクバーを飲んでいた。
「呼び出して悪かったな」
現れた大輔を見て一瞬3人の表情がこわばるが、すぐ後ろにいる明宏を見つけて表情を緩めた。
大輔と3人では雰囲気が違いすぎて戸惑ってしまうのだ。
「大丈夫だよ。それより用事ってなに?」
メガネをかけている大塚くんが4人が向かいの席に座るのを確認してから口を開いた。
視線はキョロキョロと定まっていない。
普段からあまり接点のない自分たちに呼ばれて、かなり驚いている様子だ。
「実はちょっとおもしろいことを考えたんだ」
明宏が警戒されないように笑みを浮かべて3人に話しかける。
「おもしろいこと?」
「うん。夏だし、みんなで肝試しをしないかと思って」
そう言うと、3人は互いに目を見交わせた。
「それは夏っぽくていいと思うけど、どうして俺たちを呼んだんだ?」
大塚くんはさすがに怪しんでいる様子だ。
もっと仲のいい生徒は他にも沢山いるのに、自分たちに声をかけてきた理由がわからない。
「たまには、そういうのもいいかと思って」
明宏が苦しげに説明する。
なにかいい言い訳がなにかと佳奈も考えたけれど、3人を騙しているという罪悪感から黙り込んだままだった。
「今日は美樹と慎也もいないじゃないか。いつも一緒にいるのに」
大塚くんは目ざとく2人がいないことに気がついていた。
学校内では6人で行動することが多くて目立っていたから、気が付かれて当然かもしれない。
「ふ、ふたりとも今日は予定があって来られなかったの。だから、誰か暇な人がいないかなって探してたんだよ」
春香が作り笑いを浮かべ、早口になって説明した。
自分がなにをしているのかわかっているからこそ、心臓が早鐘のように打っている。
「それで、肝試しっていうのはどこに行くんだ?」
「首無し地蔵だ。聞いたことないか?」
大輔が声を発すると3人は途端に緊張した表情になった。
大輔のことが日頃から怖かったのだろう。
横に座っていた春香が大輔の膝を叩いて黙っているように促した。
大輔は一瞬ムッとした表情を浮かべたが、すぐに笑顔になって3人に向き直る。
「聞いたことはあるよ。でもそんな地蔵は存在しなかった」
大塚くんがまるで見てきたように言うので佳奈は目を見開いた。
「もしかして、行ったことがあるの?」
「あぁ、1度だけみんなで」
他の2人も頷いている。
地蔵がなかったとわかっていては肝試しにならない。
この話しには乗ってこないかもしれない。
そう思っていると明宏が佳奈にお守を出すように促した。
佳奈は言われたとおりテーブルの上にお守りを置く。
3人は興味深そうにそれを見つめた。
「地蔵を見るために必要なアイテムなんだ」
「地蔵を見るためのアイテム?」
「そう。このお守りを持っていないと地蔵を見ることはできない」
明宏の説明に3人はまた目を見交わせた。
興味は持っているみたいだ。
「首無し地蔵の場所を知っているなら、後はこれを持って地蔵に行くだけでいい。
それだけで、今まで見えなかった地蔵の姿が見えるようになる」
「そんなバカな」
大塚くんは信じていなさそうな口ぶりで言ったが、手はお守りに伸びていた。
どうやらただの肝試しではないと感づいたようで、好奇心が刺激されているのだろう。
「実際にどうなるのか試してみる気はないか?」
明宏がまるで悪い相談事でもしているかのように声をひそめ、身を乗り出した。
こういう風に話をされると自分たちだけ特別扱いされている気分になってくるものだ。
「まぁ、行くだけなら行ってみてもいいけれど」
大塚くんが同意したと同時に明宏はその手にお守りをしっかりと握りしめさせた。
「そうこなきゃ。それじゃまた夕方になったらここで落ち合おう。結果を聞かせてほしい」
「あぁ。お前らは行かないのか?」
すでに席を立っている明宏へ向けて声をかける。
明宏は一度振り向いて「もちろん行くよ。大塚たちが行った後に」そう、答えたのだった。
ファミレスをから戻ってきた4人はみんな無言で重たい空気が周囲を包み込んでいた。
今頃大塚くんたちは地蔵へ到着したところだろうか。
なかったはずの地蔵がそこにあって、驚いているかもしれない。
しかもそのうちの2体は慎也と美樹の顔をしているのだ。
驚かないはずがない。
春香はそれでも自分たちのしたことは間違っていなかったと信じていた。
自分の身を守るための正当防衛なのだ。
「大丈夫か?」
部屋の隅でうずくまって座っていた春香に大輔が温かいココアを差し出してくれた。
「ありがとう。これ、買ってきてくれたの?」
カップに入っているココアは淹れたてのように温かい。
「いや、食器棚にあったやつだ」
そう言って笑う大輔に春香もつられて笑った。
今日も暑い日だけれど冷房の効いた室内は十分に涼しい。
温かいココアを一口飲むとホッと安心できる気がした。
「この家の食べ物も随分いただいちゃったから、帰るときには買っておかないとね」
「本当だな。慎也の両親には世話になりっぱなしだ」
ここを拠点とできたのも、慎也の両親が旅行へでかけていてくれたからだ。
そんな話をしていると玄関の開閉音が聞こえてきた。
リビングに入ってきたのは今日の食材を買い込んできた佳奈だった。
大塚たち3人と別れたあと、佳奈だけ用事があるからと来た道を戻り始めたのだ。
ファミレスに忘れ物でもしたのかと思っていたけれど、買い出しにでかけていたようだ。
両手に大きな袋を抱えている佳奈を見て春香が慌てて駆け寄った。
「買い出しなら手伝ったのに」
そう言いながら袋の中を確認してみると、カレーの材料が入っていた。
「無性にカレーが食べたくなったんだよね。だから買ってきちゃった」
「いいねカレー! 一緒につくろう」
盛り上がる2人を明宏がジッと見つめている。
「どうした?」
大輔にそう聞かれても、明宏は「なんでもない」と、そっけなく答えただけだった。
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