第16話
☆☆☆
毎日毎日地蔵まで来ているので、すっかり道を覚えてしまっていた。
下手をすれば目を閉じていたってたどり着くことができるかもしれない。
4人が地蔵の前に立つと、その様子を不思議そうな表情で見ていく通行人たちがいた。
彼らは選ばれた者じゃないから、地蔵の存在そのものを見ることができないのだ。
佳奈たちが探し出して置いたガイコツの存在も、もちろん見えていない。
「さて、なにをどう探すかな」
大輔が腕組みをする。
地蔵周辺はもう随分と探しているけれど、裏手は草木が茂っていて見逃しているところが多いかも知れない。
そのため、今日は小さなシャベルを用意してきていた。
「とりあえず草むしりからよ」
春香はそう言い、軍手をしてシャベルを片手に持ち、地蔵の裏手へ回ったのだった。
傍から見たら自分たちは歩道の草むしりをしているだけに見えることだろう。
夏の熱さにジリジリと体を焼かれて、汗が止まらない。
「くそっ、なんでこんなことまでしなきゃなんねぇんだよ」
10分ほどすると案の定大輔がブツブツと文句を言い始めた。
だけど開始してまだ10分しか経過していない。
草はまだまだ茂っていて地蔵の体が隠れてしまっている。
「さすがに暑いね」
佳奈が空を見上げると、苛立つほどの日本晴れだ。
雲はどこにもなくて少しだけ陰ってくれる様子もない。
これっじゃとてもじゃないけれど草むしりを続けることはできなさそうだ。
「ねぇ、少し休憩しない?」
まだそんなに作業は進んでいないけれど、もう全員汗だくだ。
このまま作業を続けていたら熱中症で倒れてしまうかもしれない。
「そこに自販機があったな」
無言で草むしりを続けていた明宏が立ち上がって、道路を挟んだ向かい側へ視線を向けた。
「なにか買ってくるよ」
そう言って走っていく。
その後ろ姿を見送ってから、佳奈は地蔵の立っている東屋の中に入り込んだ。
周辺に木陰はなくて、ここしか太陽光を防ぐ場所がないのだ。
足元にはあの忌々しい地蔵たちが鎮座しているけれど、仕方がない。
視線は自然と慎也の首をつけている地蔵へと向かう。
慎也の顔をした地蔵は相変わらず目を閉じていて、口を引き結んでいる。
佳奈はそっと地蔵の頬に触れた。
ヒヤリと冷たくて一瞬震えたけれど、今はその冷たさが心地よかった。
「慎也待っててね。絶対に助け出すから」
それから明宏が買ってきてくれたスポーツドリンクで生気を取り戻した4人は、再び草刈りの作業へと戻ったのだった。
「ねぇ、これなに?」
合計20分ほど草刈りをしたところで春香が言った。
腰まであった草は足首の長さになっていて、地蔵の全貌が見え始めていた。
春香の声が手を止めるキッカケとなり、他の3人が近づいてくる。
一様に疲れた顔をしている。
「マークか?」
地蔵の背中をかがんで見てみると、そこに見たことのないマークが掘られていることに気がついた。
5体とも、全部に同じマークがついている。
「これってどこかで見たことがあるな」
明宏が顎に触れて眉間にシワを寄せる。
「そうだ、御朱印帳にかかれているマークに似てるんだ」
ハッと息を飲んで声を上げる。
最近流行している御朱印帳は、神社やお寺を訪ねたときに書いてもらうものだ。
言われてみてばたしかにそれによく似ているマークだ。
真ん中に大きく漢字でなにかが書かれていて、丸い図形がその上に描かれてる。
「もしかしてこの地蔵を保有している神社かお寺のマークなんじゃないかな?」
春香の声が大きくなる、
けれど佳奈には聞こえていなかった。
その御朱印帳のようなマークに目が釘付けになってしまい、動くことができない。
「それならこれと同じマークを扱っている神社へ行けばいいんだ!」
明宏が大きなヒントを見つけたかのように喜んでいる。
それでも佳奈はただ呆然と立ち尽くしていた。
だって、だって、地蔵の背中に彫られているそのマークは……。
「私、持ってる」
ポツリと呟いたその言葉を誰もが聞き逃してしまいそうだった。
「なんだって?」
聞き返したのは大輔だ。
佳奈は返事をせずにズボンのポケットをまさぐって財布を取り出した。
その中に入っている小さな、赤いお守りを取り出す。
チリンッと小さな金色の鈴がなって、佳奈の手のひらの上に乗せられた。
それは布がほつれていて今にも破れて中身が出てきてしまいそうな、古いお守りだった。
そのお守り袋の真ん中に地蔵の背中にあったのと同じマークが刺繍されている。
「それ、なんで!?」
春香が目を見開いて叫ぶ。
「小学校の頃、おばあちゃんがくれたの。その後おばあちゃんは体調を崩して亡くなってしまって、だからずっと持ってたの」
説明していると、その時の光景が脳裏に蘇ってくる。
佳奈が小学校2年生だった頃だ。
当時まだ一緒に暮らしていた祖母のことが佳奈は大好きだった。
シワシワの手で頭を撫でられると、たまらなく嬉しくなった。
祖母がつくっていたぬか漬けを一緒になって、見様見真似でかき混ぜる時間が好きだった。
「これ、どこで手に入れたかわかるか?」
明宏に聞かれて佳奈は一瞬返事詰まった。
このお守りをどこでもらってきたのかは聞いたことがある。
幼い頃に祖母に何度かその寺のお祭りに連れて行ってもらったこともある。
だけど、あれからもう何年も経っていて記憶は曖昧になっていた。
「確か、山の上だったと思うんだけど」
記憶の中のお寺は長い長い石段の上にあり、境内には砂利が惹かれ、森に囲まれるような場所に建っていた。
そこで赤い浴衣を来て、祖母の手を引いて屋台を見て回ったことがある。
きっとあそこで間違いない。
「山の中にある寺なら少しは絞られるかもしれない」
明宏がスマホを取り出して条件指定をしはじめた。
「この街の寺なんだろう?」
明宏に聞かれて佳奈は頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます