第15話

☆☆☆


それから大輔と明宏の2人は慎也の家の中で武器に使えそうなものがないか、もう1度探し始めることになった。



佳奈と春香の2人は近くのコンビニに買い出しにきていた。



こんなことになってからロクなものは食べていなかったので、少しでも栄養バランスを考えたお弁当を購入することになったのだ。



本当はみんなで料理して食べたほうがいいのかもしれないけれど、とてもそんな和気あいあいとした気分にはなれなかった。



カゴいっぱいに4人分のお弁当や野菜ジュースなどを入れていたとき、春香が声をかけてきた。



見ているのは夏にしか出現しない花火コーナーだ。



その中の爆竹を手に取っている。



「化け物退治に?」



「うん。役立つかな?」



聞かれて、大数が増えた時にまとめて退治できればいいのにと考えたときのことを思い出した。



「退治はできなくてもひるませることならできるかもしれないよね」



ナイフ一突きで弱ってしまう化け物だ。



爆竹を浴びせることも効果的かもしれない。



「じゃあ、これも買っておこう」



カゴに爆竹を入れていく春香を横に、佳奈は手持ち花火の袋を見つめていた。



3つのガイコツを発見した日、みんなで花火をしたときのことを思い出す。



ほんの数日前のことなのに、それは大昔にあった出来事のように思われた。



慎也の自宅の庭で手持ち花火を持って、大輔と慎也は追いかけっこをしていたっけ。



明宏と美樹の2人はしっとりと線香花火をしていた。



あのときはまだこんなことになるなんて予想すらできていなかった。



ガイコツの数が足りないことが気がかりで、それでも慎也がいてくれたからどうにかなると思えていた。



その慎也が、今はいない。



首のなくなった体だけの姿を思い出すと胸が苦しくて、呼吸ができなくなってしまいそうだ。



「佳奈?」



声をかけられてようやく我に返った。



春香はいつの間にか会計を終わらせて、重たそうな袋を両手に下げている。



「ごめん。ひとつ持つね」



佳奈は慌てて笑顔をつくり、買い物袋を手にしたのだった。


☆☆☆


2人が帰宅してリビングでお弁当を囲んでいた。



リビングの床にはスコップやキャンプ用のナイフなど、武器に使えそうなものがズラリと並んでいて、なんだか物々しい雰囲気がある。



「爆竹か。どうせならダイナマイトとか、でかいヤツがほしいな」



大きな唐揚げを口に運びながら大輔が左手で爆竹の入っている袋を弄ぶ。



「さすがにそれはコンビニには売ってないよ」



春香が苦笑いを浮かべて言う。



そもそもダイナマイトなんて高校生が普通に購入できるとも思えなかった。



「ちょっとしたものであれば作れると思うけどな」



そう言ったのは牛肉弁当を食べていた明宏だった。



口の端にソースをつけたまま真剣な表情で爆竹を見つめている。



「ダイナマイトって作れるのか?」



「もちろん。昔学校で爆発事件があったのを知らないか?」



「あ、知ってる! 授業中に火薬で遊んでいた子が、指を怪我したやつでしょう?」



佳奈がパスタから顔を上げて声を上げる。



その事件はほんの数ヶ月前にどこかの小学校で起こったことだ。



算数の授業中に火薬で遊んでいたところ、それが爆発して大怪我を負った生徒がいる。



生徒は机の上で花火の火薬を取り出し、それを小さなエンピツキャップの中に詰め込んで遊んでいたのだ。



当然、爆発するなんて考えてもいなかったようだ。



「だから、筒状のものと火薬があれば、ちょっとしたものなら作ることができる。


でも、素人がやろうとしたらそれなりのリスクが伴うけどね」



「小学生でもできるくらいの作業だもんね。だけど作業の途中で爆発したら……」



佳奈はそこで言葉を切った。



事件になった小学生は、指を何本か失っている。



「黒い化け物に襲われたわけでもないのに死ぬのは馬鹿らしいな」



大輔は大げさにため息を吐き出し、爆竹とテーブルの上に置いた。



今の状況でこれ以上のリスクを背負うのは危険だと判断したみたいだ。



大輔はすでに大きな怪我を抱えているし、明宏がダイナマイトを作成したとして、失敗して怪我をすれば男子が全滅してしまうことになる。



さすがに、それは避けたかった。



「そう言えば、地蔵は私達を選んだって言ってたんだよね。どうして私達だったんだろう?」



お弁当を食べ終えてゴミを袋に集めていたとき、佳奈がふと思い出して口にした。



「地蔵が見えるのも、今の所俺たちだけだしなぁ」



大輔が真剣な表情で頷く。



他の知り無いなどであの地蔵を見ることができたとは、聞いたことがなかった。



「食事も終わったし、夜までにもう1度地蔵へ行って調べてみない?」



佳奈の言葉に春香は同意した。



「大輔はもう少し休んでいて?」



「なんで俺だけ休むんだよ。もう十分よくなったって!」



大輔を心配する春香へ向けて力こぶを作って見せる。



さすが筋肉質な大輔だけあって、二の腕は盛り上がっている。



鍛え上げられているのが十分に伝わってきた。



「今の時間は外に出たからって化け物に会うわけでもないし、地蔵を見に行くだけなら問題ないと思うよ」



大輔の肩を持ったのは明宏だった。



「そうだけど……」



春香は大輔の突っ走ってしまう正確を知っているので、まだ納得できていない様子だ。



「それならみんなでタクシーで行かない?」



佳奈の提案に全員が振り向いた。



一斉に見られて一瞬たじろいでしまう。



「ほ、ほら、あまり動くのが良くないなら車の方がいいなかな~って」



おずおずと提案すると春香が左右に首を振った。



「そんな無駄なお金は使えないよ。これからどのくらい生活にかかるかわからないんだから」



その視線はからのお弁当を入れた袋へ向けられている。



「そ、そうだよね」



「仕方ないなぁ。みんなで行くよ」



春香は盛大なため息を吐き出してそう言ったのだった。

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