第14話
2人共体力は回復していないが、呼吸は随分と楽になってきていた。
走りすぎて肺が苦しかったけれど今ではそれも楽になっている。
「行ってみよう」
2人が同時に立ち上がったとき、狭い路地にも朝日が差し込んだ。
「え、嘘!?」
日の出まではまだ少し時間があるはずだ。
そう思ってスマホで時刻を確認する。
いつの間にか時間は進み、すでに5時を過ぎているのがわかった。
途端に郵便配達員のバイク音が遠くで聞こえてきて、佳奈と春香は目を見交わせた。
慌てて明宏を探しに公園へ向かうと、そこには公園の入口で座り込んでいる明宏の姿がった。
「明宏!」
声をかけて駆け寄ると、明宏は呆然とした顔を持ち上げた。
足元にはナイフが落ちていてここまできてまた黒い化け物に遭遇したのだということがわかった。
「美樹の首は……」
春香がつぶやくように聞く。
明宏は突然顔を歪めたかと思うと大声を上げて泣き出した。
駄々をこねる子供のように泣きじゃくり「ダメだった、間に合わなかった」と繰り返す。
「そんな……」
こんなに頑張ったのに。
首を見つけられなかったなんて……!
☆☆☆
その後、3人は無言で地蔵へと向かった。
そこには慎也の首の隣に美樹の首がついた地蔵が鎮座していた。
「美樹……ごめん美樹! 僕じゃダメだった……!」
明宏が地蔵にすがりつくようにして謝罪を繰り返す。
その姿を見ているだけで佳奈は泣いてしまいそうになった。
それでも涙をグッと押し込めて、隣の慎也の地蔵を見つめた。
昨日確認したときと何も変わっていない。
しっかりと目を閉じている慎也の首。
ぬくもりを感じられそうな気がしてそっと触れてみるけれど、それは石そのものの冷たさがあり、胸がチクリと傷んだ。
「みんな心配してる。戻ろうよ」
春香がそう声をかけるまで、明宏は地蔵にすがりついていたのだった。
家に戻るとすでにすべてを理解した大輔が待っていた。
朝になっても誰も戻ってこず、美樹の体を確認しても首が戻っていなかったので、今回も探し出せなかったのとわかったようだ。
「美樹の体は客間の押し入れに入れておいた」
大輔の言葉に明宏はまた泣き出してしまいそうな顔になったが、今度は涙を見せなかった。
地蔵の前ですべて出しきったようだ。
押入れに入れられている美樹の体を確認してみると、慎也のときと同じように鼓動を繰り返している。
ちゃんと生きているのだ。
ただ、首を切られたと言うだけで。
このありえない減少にもそろそろ体と心が馴染んできてしまいそうで、そんな自分たちがこわかった。
「どんどん人数が減っていくね」
リビングで春香がポツリと呟いた。
その目の下にはクッキリとしたクマができていて、相当疲れが溜まっていることが伺えた。春香だけじゃない。
佳奈も明宏も大輔も、みんな疲労困憊だ。
「このままじゃ首を探すなんて無理になってくるぞ」
大輔が意味もなくリビングの中を歩き回って言う。
今回は自分が参加できなかったことで首を見つけることができなかったのだと、思い込んでしまって苛ついているみたいだ。
「人数もそうだけど、黒い化け物の体数が増えている気がするの」
佳奈が大切なことを思い出して大輔にそう説明をした。
今回の化け物の出現率は相当に多かった。
そのせいで首を探すことができなかったと言ってもいいくらいだ。
「そんなに多かったのか」
大輔はようやく歩くのをやめて腕組みをした。
「でも、どうして急に体数が増えたんだ?」
「そんなのわからないよ。私達が首を探すのが上手だったからとか?」
春香がそう言う横で明宏が左右に首を振った。
なにか考えていたことがあるみたいだ。
「おそらく、慎也の首が地蔵についたからだ」
「え? どういうこと?」
佳奈は首をかしげて聞き返す。
「あの黒い化け物はどう考えても地蔵の味方だ。地蔵に首がつくことで、黒い化け物は大数を増やすことができたんだと思う」
地蔵と黒い化け物が連動しているということか。
「じゃあ、美樹の首がついている今夜は……」
春香が青ざめた顔で明宏を見る。
「多分、もっと大数が増えている。それか、力を増しているかもしれない」
「これ以上黒い化け物が増えたら、首なんて探せるわけがないじゃん!」
佳奈は悲痛な悲鳴を上げた。
誰にもぶつけることのできない苛立ちが湧き上がってくるのを感じる。
回数を重ねれば重ねるほどに難易度が上がっていくところも、ゲームにそっくりだ。
まるで自分たちをキャラクターとしてもてあそばれている気がしてくる。
いや、実際にそうなのかもしれない。
地蔵たちからすれば、私達はただ呪いに立ち向かうプレイヤーなのかも。
「それなら夜になるまでに、もう少し武器になるものを集めないといけないな」
大輔の言葉に春香が目を見開いた。
「もしかして、今夜は参加するつもり?」
「当たり前だろ? 今日はどれだけ落ち着かない気分だったかわかるか?」
「でも、まだ怪我が……」
当然、大輔の負った怪我はまだ完治していない。
抜糸だってまだ先の予定だ。
「今日だけはって約束だったはずだ」
そう言われて春香は黙り込んでしまった。
確かに、そういう約束で今日は休んでもらったのであるけれど、あれは言葉のあやのつもりだった。
だけど大輔にそんなものは通用しない。
今日1日我慢した。
だから明日は参加できるのだ。
「わかった。その代わり絶対に無茶しないでね?」
春香の言葉に大輔は頷いたのだった。
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