第11話
「そ、そうじゃなくて。怪我が治ってからで大丈夫ってことだよ。今夜は僕たちだけで頑張るから」
「お前1人で女2人を守れるのかよ」
そう言われると明宏は弱い。
グッと返事に詰まってしまった。
「だ、大丈夫だよ、今日はナイフも持っていくし」
そう言ってポケットからナイフを取り出して見せた。
「本当にそれで対処できるんだろうな」
「せ、精一杯頑張るよ」
できると言い切れない自分が情けなかった。
もしかしたら佳奈や春香に怪我をさせてしまうかもしれない。
でも、ここで大輔に無理をされたらこれから先のゲームが続けられなくなってしまうという懸念もあった。
今の大輔では逃げることもままならない。
「せめて今日だけでも休んでて?」
春香に言われて大輔は渋々バッドを玄関に置いた。
「わかったよ。その代わりなにかあったらすぐに連絡してこい。メンバー間にだったら、連絡が取れるだろ」
大輔に言われて春香はホッと胸をなでおろして頷いた。
警察や他の人達へ連絡を取ろうとしても、それはなにかの力によって遮られてしまう。
けれど、参加しているメンバー同士ならやりとりができるのだ。
最初の頃は夢を見た後にメッセージのやりとりをして全員で集合していた。
それは今でも適用されているはずだ。
「じゃあ行ってくるね」
春香はまだ不機嫌そうな顔をしている大輔を残して、玄関を出たのだった。
☆☆☆
明宏は佳奈と春香の2人を自分の後ろに歩かせて、地蔵へ向かった。
「ここに来るまでは黒い化け物は出てこないんだよな」
今までのことを統計してつぶやく。
化け物が出現するのは本格的に首を探し始めてからになる。
今日はこれからが本番ということだ。
「足跡はこっちに続いてる」
佳奈が地面の足跡をスマホのライトで照らし出して言った。
それは正面の大通りを真っ直ぐに進んでいる。
「よし、行ってみよう」
明宏はバッドを構えつつ、女子2人の前を歩き出したのだった。
しかし、足跡はすぐに消えてなくなってしまっていた。
「こんなに近くにあるってことか?」
振り向いてみるとまだ地蔵の姿がハッキリと見える位置にある。
今まではこんなに近くに首があった試しがなかった。
「見て! 足跡がどんどん消えていってる!」
春香が地面を指差し、叫ぶようにいった。
地面に残っていた5つ分の足跡がみるみるうちに消えていくのだ。
「嘘だろ。これじゃどこを探していいかわからない」
明宏は焦った様子で周辺を見回した。
商業施設が立ち並ぶ大通り、少し奥へ入れば民家や空き地も多くある。
あしあとが一体どこまで続いていたのか検討もつかなかった。
「もう少し先まで歩いてみない?」
佳奈の提案に誰も反論はしなかった。
足跡が急速に消えていっているのだとすれば、これよりも先に首がある可能性が高い。
「今まで首があった場所は森や林の中、それに山が近かった。当然だよな、ガイコツが埋まっている場所なんだから。だから今回もそういう場所のはずなんだ」
先頭を行く明宏は必死に頭を働かせて、口の中だけでブツブツと呟いた。
この推理を誤っていたとすれば、美樹の首を見つけ出すことができないかも知れないのだ。
地蔵の首についた慎也の頭を思い出してゴクリと生唾を飲み込む。
失敗すれば美樹もああなるんだ。
石の頭になって、地蔵にくっついてしまう。
そして体だけは生き続ける。
想像するだけで寒気がして、1度強く身震いをした。
絶対にそんなことにはさせない。
美樹だけは、絶対に!
歩調が少し早くなったとき、前方からユラユラと揺れて近づいてくる黒い影が見えた。
それは夜の闇よりももっと黒く、手が刃物のように長く鋭利になっている。
黒い化け物だ!!
咄嗟に悲鳴がほとばしりそうになったが、どうにか押し込めた。
「どうしたの?」
黒い化け物の存在に気がついていない春香が、急に足を止めた明宏に向けて聞く。
明宏は答えずにポケットに入れておいたナイフを抜き取った。
その仕草で察した春香と佳奈は、同じように包丁を取り出して両手できつく握りしめた。
明宏の額に汗が流れていく。
ジッと黒い化け物を見つめる目が細められる。
周囲は物音ひとつせず、自分の呼吸音だけが聞こえてくる。
と、黒い化け物が動いた。
まばたきの速度で距離を詰める。
しかし明宏はしっかりと目を見開いてそれを見逃さなかった。
黒い化け物が動いた瞬間手にしていたナイフを、化け物めがけて投げつけた。
ナイフはヒュンッと風を切り、まっすぐに化け物へ向かって飛んでいく。
そして化け物が明宏たちの前に辿り着くよりも早く化け物の胸部に突き刺さっていた。
化け物の動きが鈍くなり、その場に膝をつく。
「今のうちに行け!」
後ろの2人に叫ぶ。
2人はその言葉に従い、明宏の横を通り抜け化け物を通り過ぎて逃げ出した。
明宏は2人が安全な場所まで移動したことを確認すると、膝をついている化け物へと近づいていった。
釘を差し込んでいるバッドを黒い化け物の頭部に振り下ろす。
釘は化け物の頭に突き刺さり、無理に引き抜くとどす黒い血が溢れ出た。
「ギャッ!」
引き抜く瞬間に化け物が短い悲鳴を上げる。
明宏は1度バッドを引き抜くと、何度もそれで攻撃を加えた。
黒い化け物は必死に反撃しようと手を振り上げるが、胸に突き刺さったナイフのせいで体の動きがひどく鈍かった。
やがてグチャッ! と嫌な音を響かせて頭部が完全につぶれてしまった。
化け物が動きを止めて仰向けに倒れ込む。
「人間だったらとっくに死んでるのに」
明宏は肩で呼吸をしながらナイフを引き抜いた。
「大丈夫? すごいじゃん明宏! ナイフを胸に命中させるなんて!」
佳奈が興奮した様子で駆け寄ってくる。
「うん。こういうのは得意なんだ」
明宏は得意げにナイフを手の中で弄ぶ。
子供の頃から屋台の射的が得意で、どんな景品でも好きなものを取って帰ることができていた。
それは今でも同じで、アーチェリーとか弓道とかダーツとか、とにかく的になにかを当てる競技が好きだった。
「それはすごいことだけど、あんまりのんびりはしていられないかも」
春香の声に前方を確認してみると、曲がり角の向こうから黒い化け物がユラユラと姿を現すのが見えた。
「またか」
明宏はナイフを握り直す。
距離は少し遠いけれど、さっきみたいに黒い化け物が距離を詰めてくる瞬間を狙えばいい。
呼吸を整えてターゲットを見据え、ゆっくりと呼吸を繰り返す。
自然と子供の頃のことを思い出していた。
あの頃も屋台の射的で同じような雰囲気を味わったことがある。
構える姿になるととたんに周囲の喧騒がかき消えて、自分とターゲットしか見えなくなる。
そのときにターゲットまでの起動が頭の中で構築されて、目に見えるのだ。
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