第10話
美樹の言葉に明宏が「そうだな」と、頷いた。
しばらく両親が戻ってくる心配はないとわかった。
後は慎也の首をどうしたら取り戻すことができるかだ。
「ねぇ明宏、なにか名案はないの?」
考えることについては明宏が一番得意だ。
成績も優秀だし、冷静な判断を下すこともできる。
「慎也の首についてか?」
「そう」
佳奈が頷くと明宏は難しそうな表情を浮かべた。
「慎也の体はここにあって、首は地蔵にある。それなら、首を地蔵からもぎ取ってくればいいんじゃねぇのか?」
大輔の言葉に佳奈は苦笑いを浮かべた。
「そんな強引なことじゃ無理だよ」
それに、地蔵へ行ったときにすでに佳奈はそれを試していた。
あの時はパニックになっていて、つい慎也の首を地蔵の体から引き離そうとしたのだけれど、ビクともしなかった。
いくら大輔が万全な状態で挑んだとしても無理だと思う。
「そうだな。なにか方法があると思うんだけど」
明宏は顎に手を当てて考え込む。
隣では美樹が心配そうにそれを見つめていた。
「例えば、ガイコツを全部集めて地蔵に返すとか」
数分間目を閉じて考え込んでいた明宏がふと目を開けて言った。
「5体分のガイコツ?」
佳奈の質問に明宏は頷いた。
「今は3体分のガイコツしか発見できてないから、全部のガイコツを探し出すんだ。地蔵が執着している頭部がすべて見つかれば慎也の首だって不要になるはずだ」
確かにそうかもしれない。
やっぱり明宏に相談するのが一番だ。
「でも、それをするためにはあと2人が首を取られて、それを発見しないといけないんだよね」
春香が眉根を寄せている。
「そうだよね……」
一番の問題点はそこだった。
スコップを持ってガイコツを探し出すこと事態が問題なのではない。
「今回みたいに首を見つけられなかったとしたら、ガイコツのありかもわからないままってことか」
大輔が大きくため息を吐き出す。
ガイコツを見つけ出すというのはいい方法だと思うが、それに伴うリスクが大きすぎるのだ。
せめて、次に首を切られるのが誰なのか特定することができればいいけれど、それも難しそうだ。
「私が首を取られればいいのに……」
佳奈が悔しそうに呟いたのだった。
☆☆☆
ほとんど眠気なんてなかったけれど、布団に入ると底なし沼に沈んでいくようにズブズブと眠りの沼へと沈んでいってしまった。
そして、佳奈はまた夢を見ていた。
それはいつもと同じ歪んだ家が出てくる夢だった。
家の中に足を踏み入れると空気が重たく、気分も悪くなってしまう。
それは夢の中なのにとてもリアルで、実際に体調が悪くなっているのではないかと、不安になるほどだった。
廊下を抜けて一番奥の部屋の前で立ち止まる。
そのドアを開けると、中央に布団が置いてあるだけの部屋が現れる。
部屋の中は月明かりに照らされて布団の中にいる人物を浮かび上がらせている。
首のないその体はパッと見ただけで美樹だと理解できた。
夢の中の佳奈が力なく息を吐き出す。
「美樹……」
名前を呼んで近づこうとしたとき、いつの間にか黒い影が5体部屋の中にいた。
5体の黒い影のうち1体は大きな鉈を握りしめていて、その刃先からあポタポタと血のしずくが滴り落ちている。
佳奈は立ったまま金縛りにあってしまったかのように少しも動くことができなくなってしまった。
「朝までに首を見つけろ、できなければ地蔵の首になる」
1体が言う。
それに合わせるように他の4体も言葉を発した。
「朝までに首を見つけろ、できなければ地蔵の首になる」
「朝までに首を見つけろ、できなければ地蔵の首になる」
「朝までに首を見つけろ、できなければ地蔵の首になる」
「朝までに首を見つけろ、できなければ地蔵の首になる」
影には口も目も鼻もない。
ただ声だけが聞こえてくる。
脳内に直接響き渡る呪いの声。
佳奈はその場にうずくまり、頭を抱えて絶叫したのだった。
☆☆☆
友人や恋人の首が切断される夢は何度見てもなれることがなかった。
大きく息を吸い込んで飛び起きると、全身にグッショリと汗が滲んでいる。
上半身を起こして左側の布団を確認してみると、そこには膨らみだけが残っていて、美樹の首はキレイに切断されてしまっていた。
「イヤアア!!」
悲鳴を上げたのは美樹の左側で眠っていた春香だった。
春香は咄嗟に布団から飛び出し、入り口まで走って逃げた。
と、同時にドアが開いて明宏と大輔の2人が客間に足を踏み入れる。
「美樹!!」
大輔が部屋の電気をつけている間に明宏が首を切断された美樹に駆け寄った。
「なんで、なんでまた美樹が……!」
明宏の声が悲痛に震える。
美樹の体を抱き起こしてギュッと抱きしめる。
「行こう明宏。今度こそ、首を見つけるんだ」
大輔が怒りを込めた声で言ったのだった。
☆☆☆
美樹の首を見つけ出す気満々の大輔だったが、春香から止められていた。
「俺が足手まといだっていうのかよ!」
玄関先で大輔が大声を張り上げる。
武器の包丁をジーンズのポケットにしまい込んでいた佳奈は慌てて玄関へ走った。
後ろから釘を刺したバッドを持った明宏もついてくる。
「2人共どうしたの?」
「俺には来るなって言うんだ」
大輔が怒りに燃える視線を春香へ向けている。
春香も負けじと大輔を睨み返していた。
「それほどの怪我をしてるんだ。今日くらいは休んだ方が良い」
もともと明宏と佳奈も大輔は休むものだと考えていたのだ。
それでも本人はすでにバッドを手にしていた。
「俺じゃやくたたずだって言うのか!?」
怒りの矛先が明宏に向けられて、後ずさりをした。
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