第3話
「探そうよ。探すしか無いじゃん」
佳奈は更に強く拳を握りしめて言った。
この場所を探すことが正しいかどうかもわからない。
だけど今は時間の限りやってみるしか方法はない。
「そうだね。探すしか無いよね」
美樹が同意してくれた。
住宅は行き止まりまでにまだ十数件分残っている。
「どこかの庭に慎也の首があったとしたら、そこにガイコツもあるってことだぞ?」
そう言ったのは明宏だった。
腕組をして深く考え込んでいる。
「それは、そうだけど……」
今までも、首があった場所を探すとガイコツが出てきた。
それは首なし地蔵たちのガイコツで間違いさなそうなのだ。
「首を見つけた後に、その民家の庭を掘り返さないといけなくなる」
そんなことはきっと不可能だ。
どれだけ説明したって許可が下りるとは思えない。
万が一許可が降りたとしても、自宅の庭からガイコツが出たとなると住民は警察を呼ぶことになるだろう。
「それじゃあ明宏は庭には首がないっていうの?」
佳奈が聞くと明宏は難しい表情で頷いた。
「おそらくは。この辺りの家はどれも古くて築60年は過ぎてる。改装工事はしてると思うけど、歴史のある地区なんだ。あの地蔵ができた年代はわからないけれど、60年より前だとすれば、民家の庭先には首はないと思う」
明宏の言葉に佳奈は黙り込んでしまった。
民家じゃないとすれば、やっぱりこの壁を超えて向こう側に行くしかないんだろうか。
かなりの遠回りになるし、黒い化け物だって出現するかもしれない。
「それなら、壁の向こうに行くしかないね」
判断したのは美樹だった。
美樹はジッと佳奈を見つめている。
「うん。そうだね」
少し迷ってから佳奈は頷いた。
とにかくここで立ち止まっっている暇はない。
行動していかないと、朝までに首を見つけることはできないんだから。
また明宏を先頭にして歩き出したとき前方から妙な動きで歩いてくる人影が見えて4人は同時に立ち止まった。
「なんだあれは……」
明宏は両手でバッドを握りしめて身を低くした。
佳奈もフルーツナイフを握り直す。
前から近づいてくる人影は左右に体を揺らし、時折立ち止まって壁に手をついたりしている。
さっきの黒い化け物よりも随分背も低く、手が刃物になっている様子もない。
「見たことないヤツだな」
動くスピードもゆっくりで、これなら自分1人でも大丈夫そうだと判断した明宏が再び足を前に勧め始めた。
ゆっくりと近づいて行ったとき、街頭に照らされてソレの顔が見えた。
その瞬間春香が息を飲んで駆け出していた。
「大輔!?」
佳奈が叫ぶ。
街頭に照らし出されたその人は、よろよろと歩いてくる大輔だったのだ。
右足を左手で押さえているが、その左手も怪我をしていて服が避け、出血しているのがわかった。
「嘘だろ」
明宏が走り出す。
佳奈と美樹もその後を追いかけた。
「油断してた。最初の一体をお前らから遠ざけようとして逃げた先に、もう一体いやがったんだ」
大輔はその場にズルズルと座り込んでしまった。
大輔が歩いてきた道には点々と血が落ちていて、春香は青ざめた。
「そんな……」
絶句して、傷だらけの大輔に泣きそうになっている。
「怪我は?」
駆けつけた明宏が聞いた。
「左腕と右足をやられた。だけどちゃんと退治してきたぜ」
大輔はそう言って笑って見せた。
その笑顔は苦しそうだ。
「傷が深いな。よくここまで歩いてきたな」
明宏は自分の上着を大輔の上半身にかけた。
これ以上大輔を連れ回すわけにはいかない。
ここで休ませると判断したのだ。
「春香。大輔と2人で民家の庭に隠れてて」
そう言ったのは佳奈だった。
首を探す人手が少なくなるのは気がかりだけれど、今の状況では致し方ないことだった。
「いいの?」
春香が3人を見つめる。
もちろんだと、3人は同時に頷いた。
「おいおい、俺はまだ大丈夫だって」
そう言って立ち上がろうとして、よろけた。
ここまで歩いてくるだけで精一杯だったに違いない。
傷は深く、出血は止まっていないのだから。
「頼むからおとなしくしていてくれ。すぐに首を見つけてくる。朝になったら病院に行くんだ」
明宏に言われて大輔は大きなため息を吐き出した。
本当はみんなを黒い化け物から守りたい。
慎也の首を見つけ出したいという強い気持ちがあった。
けれど今の自分はみんなの足手まといになってしまうとも、理解していた。
「わかった。絶対に慎也の首を見つけてくれ」
大輔はそう言うと、春香に支えられながら民家の庭へと向かったのだった。
☆☆☆
大輔たちと別れた佳奈たち3人は地蔵まで戻ってきていた。
ここから大回りをして民家の裏へ行かないといけないのだ。
「もう3時だよ」
佳奈がスマホで時刻を確認して言った。
色々と探し回ったことですで2時間が経過していた。
夜明けまであと2時間ほどしかない。
「それでも探すしか無いだろ」
明宏がバッドを握りしめて先頭を歩く。
民家の裏手には大きな森があって、その中を探すのだけでもどれだけ時間が必要になるかわからない。
歩調は自然と早くなり、汗が流れて息が切れる。
それでも3人は無言で民家の裏手へと向かった。
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