第2話

「だ、大丈夫だよ春香。大輔はバカみたいに強いんだからさ」



明宏が慌てて慰めにかかる。



それでも春香は青ざめたままうつむいてしまった。



最悪の事態が胸をよぎる。



「どっちにしてもここは行き止まりだし、戻るしかないよね」



佳奈の言葉にようやく全員が頷いた。



ここで立ち止まっている暇はない。



朝が来るまでに慎也の首を探し出さないといけないのだから。



「行こう」



明宏はなれない様子でバッドを握りしめて3人の前を歩き出したのだった。


☆☆☆


5人で化け物と遭遇した道まで戻ってきたとき、そこに大輔と化け物の姿はなかった。



「嘘、どこに行ったの!?」



春香が悲鳴を上げる。



「落ち着いて春香。きっと、大輔が化け物をひきつけてくれたんだよ」



佳奈は春香の腕を握りしめて言った。



慰めじゃなく、そうとした考えられなかった。



きっとあの後化け物は再び起き上がったのだろう。



それを見た大輔は化け物が私達の方へ来ないように、おびき寄せてくれたんだ。



「あしあとが完全に消えてる。ここは一本道だし、壁を乗り越えて探すしかなさそうだな」



地面を確認していた明宏が苦々しく言った。



壁を乗り越えることは難しそうだから、どこからか回り込んで探すしかなさそうだ。



「民家の中は?」



周囲を見回して佳奈がつぶやく。



他に探すところと言えば、それくらいしかない。



足跡はこの辺りで途切れていたのだから、民家にある可能性もある。



ただ、今までがそうじゃなかったというだけだ。



微かな可能性にかけて近くの民家に足を踏み入れる。



そこは広い日本家屋で庭も大きくて車が何台も止められそうだ。



「ここならありそう」



広い庭先に期待が膨らんでいく。



「佳奈、私達それぞれで探すから!」



道路から美樹のそんな声が聞こえてきて佳奈は了承した。



庭先となにあるとすれば、みんなバラバラに探したほうが効率的だ。



佳奈はまず立派な松の木へと近づいていった。



大きな枝がまるで傘のように伸びている。



ここまで育てるのはきっと大変だったに違いないとひと目でわかるものだった。



松の木の下や、苔むした丸い岩をひとつずつ確認していく。



山の中や森の中で頭部を発見したときは、一見岩のようだったことを思い出す。



「ここにはないか……」



松の木の周りをようやく調べ終えて上体を起こす。



ずっとかがんで探しているので腰が曲がってしまいそうだ。



軽く腰を伸ばしてから、今度は池へと向かった。



家屋の近くに作られている池はひょうたん型で、真ん中のくびれ部分に小さな橋がかかっている。



人間が通れるほど大きくはないが、十分立派な池だった。



池の中をのぞきこんでみるとよどんだ水が漂っている。



普段は水の循環をしてあるのだろうけれど、今はそれが止まってしまっていた。



月明かりを反射している湖面をジッとにらみつけるように見つめるが、池の中には生き物ひとついない。



本当なら鯉でも泳いでいるのかもしれないけれど、この空間では自分たちに取って必要のない存在はすべて排除されている。



よって、池の中の生命も排除されてしまっているみたいだ。



「なにもないか……」



目をこらしてみても頭部らしきものは見つからなくて、佳奈は大きく息を吐き出した。



もしかして家の中とかじゃないよね?



ふと気になって玄関へと向かった。



茶色く重厚感のある引き戸に手をかける。



しかしそれはどれだけ力を込めても開くことはなかった。



窓も同じだ。



ただ鍵がかかっているのではなく、この世界で首を探すときに不必要な場所は探せないようになっているのだ。



いつか慎也も、ゲームの中みたいだと言っていた。



ゲームの世界ではキャラクターにとって必要なことはできるが、それ以外のことはできないようになっている。



最近のゲームではなんでもできる世界もあるけれど、それでも限界があったり、バグが生じたりする。



自分たちが今いる世界も、それと同じようなものだった。



大きな庭を探し終えた佳奈が道路へ戻ってくると、美樹が隣の家の庭から出てきたところだった。



「どうだった?」



駆け寄って尋ねる佳奈に美樹が左右に首を振る。



ここにも首はなかったみたいだ。



佳奈の中に焦りが生まれてつい空を見上げた。



まだ周囲は暗く、月と星が瞬いている。



大丈夫。



夜明けまでに時間はまだまだある。



落ち着いて探せばきっと慎也の首を見つけることができるはず。



佳奈はグッと握りこぶしを作って自分の首が切られたときのことを思った。



夢の中で黒い人影に首を切られたとき、すごくリアルで痛くて、苦しくて、怖かった。



それでも慎也たちが必死になって自分の首を探し出してくれたんだ。



そのときのことを思うと、絶対に諦めたくなかった。



「ダメだ。どこにもない!」



左手の民家から出てきた明宏が左右に首を振った。



ついで美樹も集まってきて「なかった」と、残念そうに報告した。



「民家の庭じゃないのかな……」



佳奈は眉間にシワを寄せて考え込んだ。



この辺りは高級住宅地で、庭を探すだけでも結構な時間が必要になる。



もし探し場所を見誤っていたとしたら、朝までに間に合わなくなるかもしれないのだ。



そうなると……。



結果を想像しただけでゾッとして全身が寒くなった。



今まで朝までに首を見つけられなかったことはない。



だから全員がこうして無事でいられているんだ。



首を探すことができなかったらどうなるのか、自分たちはまだわかっていない。

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