首取り様2

西羽咲 花月

第1話

慎也の首がなくなったのを確認した後、佳奈、春香、美樹、大輔、明宏の3人はリビングに移動してきていた。



窓の外はまだ十分暗くて、朝までに時間はたっぷりある。



「やっぱり、ガイコツを集めるだけじゃダメだったんだよ!」



テーブルをバンッ! と両手で叩いて佳奈が叫ぶ。



その頬は涙で濡れて光っている。



「あんなに苦労してガイコツを集めたのに……」



椅子に座り、テーブルに肘をついて頭を抱えたのは明宏だ。



今まで3つのガイコツを集めることに成功している。



けれど首無し地蔵は5体ある。



3体分のガイコツを集めただけでは、足りないのだ。



「残りの2つも探すしかないだろ」



大輔が真剣な表情でつぶやく。



「だけど、そもそもガイコツを集めることで開放されるかどうかなんて、わからないんだよ?」



美樹が今にも泣き出してしまいそうな声で言った。



そんな美樹の手を明宏が握りしめる。



「とにかく今は慎也の首を探すことだけ考えない?」



春香の意見に一斉に無言になってしまった。



首を朝までに見つけないと、地蔵の首についてしまう。



それが本当かウソか未だにわからないままだけれど、ここで悠長にしている時間はなかった。



「そうだな。とにかく行くか」



大輔はそう言って壁に立て掛けてあったバッドを手に持った。



しっかりと握りしめて他の面々を見つめる。



佳奈はフルーツナイフを握りしめた。



それぞれが武器を手に玄関を出る。



外に出た瞬間重苦しい空気が体にまとわりついてきた。



足が重たくてなかなか前に出なくなる。



まるで泥沼の中を進んでいるような感覚だ。



しばらく無言で歩いて5人は首無し地蔵へとやってきた。



毎回ここまで来ると地面に足跡がついているのだ。



それをたどっていった先に首がある。



足跡は途中で途切れているから、そこから先を探すのが自分たちの役目だった。



「今回もダメか」



足跡が途切れているところで立ち止まり、大輔がつぶやく。



「ここからは手分けをして探したほうがいいかも」



佳奈がそう提案したときだった。



不意に暗闇の向こうから更に黒く、細長いヒトガタの物が見えた。



100メートルほど離れているがそれが見えた瞬間、5人の表情がこわばった。



「来やがった」



大輔がバッドを握り直す。



背の高いソレは手先がやけに長く、月明かりに照らされてギラギラと光っている。



手の先だけ鋭利な刃物になっているのだ。



明らかに人間ではない、5人はソレは黒い化け物と呼んでいた。



黒い化け物に攻撃をされると傷つき、血が出る。



首を探し当てた時は夢だったかのように布団の中で目覚めるが、この傷だけは現実のものとして残り続けるのだ。



とすれば、もしかしたら命さえも本当に奪ってしまうのかもしれない。



佳奈は全身にジットリと汗が滲んでいくのを感じていた。



下手をすれば殺されてしまうという恐怖を全身に感じていた。



両手でフルーツナイフを握りしめたとき、「来る」と、大輔が小さく言った。



次の瞬間だった。



黒い化け物がすぐ目の前にいた。



黒い化け物は動きが素早く、人間の目では追いつけないほどの速さで距離を詰めてくる。



こっちは常に警戒し、攻撃できる大勢でいなければいけないのだ。



「近い!」



佳奈が目を見開いて叫ぶ。



咄嗟に手を振り上げてフルーツナイフを振り回す。



しかし黒い化け物にはかすりもしなかった。



「この化け物が、邪魔だどけろぉ!」



大輔が叫び声を上げながらバッドを振り下ろす。



それは黒い化け物の頭部に直撃してたしかた手応えがあった。



黒い化け物はそのまま倒れ込む。



「やった!」



春香が小さく飛び跳ねて喜んだ。



「先に行ってろ!」



大輔はまだバッドを構えた状態で、倒れた黒い化け物と対峙している。



前回、1度倒れたと思っていた化け物が起き出して攻撃してきたことを思い出した。



だけど、きっと大輔なら大丈夫だ。



なにせ慎也と同じくらい強いんだから。



佳奈はそう確信していた。



「行こう」



明宏に促されて4人は先へ向かったのだった。


☆☆☆


明宏を先頭して先へ進んでいくと、そこは行き止まりになっていた。



「嘘でしょ。これじゃ探すところがないじゃん!」



佳奈は周囲を見回す。



前方と左右は高い民家の壁で覆われていて進むことができない。



となると、後退するしかなくなってしまう。



「だけど足跡は確かにこっちに来てたよな。どういうことだ?」



明宏は顎に手を当てて考え込んだ。



考えられるのは、この壁を超えて向こう側に首があるということくらいだ。



でも、超えられるか?



壁の高さは3メートルはありそうだ。



周囲に足場になるようなものもない。



このままこの壁を登っていくのはどう考えても不可能だ。



とすると、遠回りして行くしかない。



「ねぇ、どうして大輔は来ないの?」



明宏の考えがまとまったと同時に春香がつぶやく。



後方を確認してみても大輔が追いかけてくる気配はなく、足音も聞こえてこない。



ここまで一本道だから道に迷うこともないはずなのに。



「きっと、化け物を攻撃してくれてるんだよ」



美樹が春香の手を掴んで言った。



「でも遅くない?」



確かに、化け物は一旦倒れているのだ。



そこに攻撃を加えればもう起き上がってくることもない。



それにしては時間がかかりすぎている気がする。



春香の顔色はみるみる悪くなっていき、みんな自然と無言になってしまった。

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