31 棺を蓋いて事定まる
喪を表す白紙の
華の後宮の
列にならぶ女官たちは
「ねえ、これって、どなたのお葬式なのかしら」
「さあ……知らない」
「かならず参列するように、とだけいわれたから」
誰もが葬るべき故人も知らず、
訝しんでいた女官たちが柩を覗きこみ、いっせいに声をあげる。
「
五年前に華々しく退職して帰郷したはずの
「わっ、私、
「きびしいけど、情の厚いおひとだったよね。妃嬪さまに濡れぎぬをきせられて
「退職された時はさびしかったけど、故郷にご家族がいるって聴いて、よかったなあとおもっていたのに、なんで」
女官たちは戸惑っている。
やや離れたところから、
紫蓮によって復元された
官吏たちは
おそらくは
葬礼を執りおこない、女官たちに確認させればどうかと
「急なことで失礼いたしました。じつは
嘘だ。
だが、女官たちはそうだったのかと納得して、感涙する。あながち、冉命婦の意からも遠くはないとおもった。
柩の冉命婦は死んだときのすがたによみがえり、やすらかに微笑んでいる。今朝がた、逝去したばかりだといわれても疑えなかった。
苔むした骨だったとはとても想えない。まして、肌も髪も造り物だなんて。
女官たちは思い思いに冉命婦のことを語りあう。こんなことがあった、あんな言葉をかけてもらったと想いだし、故人の美談に花を咲かせる。
あとは彼女らにまかせ、
二階の廻廊で、ふわと紫の睡蓮が揺れていた。階段をあがる。
「やあ、お疲れ様だったね、
思ったとおり、
艶やかな髪を風になびかせて、葬礼の様子を眺めている。
「しかしながら、退職して帰郷したはずの
紫蓮が振りかえらずにこたえる。
「さあね。骨をみるだけでは、なぜ、死んだのかまではわからなかったな。死んでから、投げこまれたのか。誤って落ちたのか。みずからで飛びこんだのか」
「飛びこみ、ですか」
「……還るところが、なかったのかもしれないね」
「男に頼らず、最後まで誇りをもって働き続けた彼女の生き様は素晴らしいものだよ。でも、家族がそれを肯定するかは……難しいだろうね」
おそらくは女の領分ではない、というだろう。
領分なんて、それぞれがみずからのちからで拓いていくものだというのに。
「まあ、それもまた、憶測にすぎない。真実は水の底だよ。確かなことはひとつさ、彼女の死はきちんと
紫蓮にうながされて、絳はあらためて葬列に視線を移す。
女官たちは涙ながらに花を抱え、かわるがわる、
「
紫蓮がぽつりという。
「どういう意ですか?」
「そのひとがほんとうによい生き様をしてきたかどうかは、死んだあとにきまる――だそうだよ。生きているうちは、身分だとか利害だとかそういうものに縛られているが、死んだあとは平等だからね。どれだけ偉かろうと、骨に媚びて取りいろうとするものはいないさ」
紫蓮は
「
泣くものがいる、笑うものがいる。
こんなに賑やかな葬礼があっただろうか。
紫蓮は息をつき、やっと終われたんだねと睫をふせる。だが絳は、まだなにかが終わっていないような奇妙な胸さわぎをおぼえ、唇をかんだ。
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