2 屍愛づる妖妃
眠らない後宮でもこの一郭だけは
「ほんとうにいくんですか。わざわざ
「死の
「は、くだらない」
死は
それは
死は不浄なるものであり、死の穢れにふれてしまうと身を患ったり不幸に遭うと考えられてきた。
「死の穢れなどをおそれていては、
「そ、それは……でも」
「ほら、つまらないことを喋っていないで、提燈を」
肩を縮ませていた
「今頃は妃に
搬送した
(どいつもこいつも)
「失礼いたします。
声をかけたが、殿舎はあかりもなく静まりかえっている。月明かりだけを頼りに、うす昏い殿舎を進んでいく。
「こっ、
後から提燈をさげておっかなびっくりについてきた
尋常ならざる声になにごとかと振りかえれば、牙を剥いた虎が靑靑に襲いかからんとしていた。
「――造り物か?」
その虎が動かないことに気づいた。
どこからどうみても、本物だ。もっとも、これは。
「死骸ですね」
腰を抜かした靑靑が眼をしろくろさせる。
「死んで、いるんですか? ほ、ほんとうに?」
奇妙だ。死骸にしては綺麗すぎる。毛艶もよく、腐臭も漂ってこない。まるで死せぬ
あらためて、宮のなかをみれば、いたるところに死骸がおかれていた。
鹿の死骸、猫の死骸、鴉の死骸、鵲の死骸。どれも美しく静寂を湛えている。
「屍をよみがえらせる妃、でしたか。なるほど……」
噂とは頼りにならぬものだ。
だが、嘘からでた実のように真実が隠れていることもある。
ふらふらになっている
ふいに声が聴こえた。
「ふふふ、……だよ。きみは青みがかった肌をしているからね、やわらかいうす紅があうだろうね。……髪は、そうだな、……しようね」
細部は聴きとれないが、鈴を振るような
ひとりの
絳は一瞬だけ、姑娘が咲き誇る蓮のなかにいるのかとおもった。だが、違った。床一帯に拡がる
もっとも、夢想家でもない絳が、刹那とはいえど幻想をみたのは、姑娘そのものが漂わせている妖艶なふんいきにあてられたせいでもあった。
だが、幼い。推測するに十五歳ほどか。
透きとおるような肌に紫を帯びた瞳。唇は真紅に潤んでいて、雪に落ちた
娘は緩やかに身をかがめ、傍に横たえられたものに唇を寄せる。愛しいひとと睦みあうように。
だが、彼女が
「ひっ、あっ、うわああっ」
悲鳴をあげ、今後こそ
「ああ、まったくもって、騒々しいね」
「これだから、生きているにんげんは
男のような奇妙な喋りかただ。
「……大変失礼いたしました」
「私は
「後宮丞か。……聴きなれない官職だね」
「今期より新たに設けられた官職で、後宮の事件、事故を管轄しております。あなたさまは
「いかにも僕が綏紫蓮だよ」
「〈後宮の
「いいよ。
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