後宮の死化粧妃 ワケあり妖妃と奇人官吏の暗黒検視事件簿
夢見里 龍
第一部 屍の花嫁
1 後宮の妖妃は屍をよみがえらせる
ひらかれた後宮には
…………
白は
「ああ、どうか、
「この暑さです。なかはご覧にならないほうがよいかと」
あたりでは
例年にない酷暑だ。都からの搬送に五日掛かったため、妃嬪の遺体はとうに腐敗して悲惨な姿となっていることは想像に難くなかった。
「おまえのきもちはわかるが、やめておいたほうがいい。私も
「それに姑娘は病死だった。さぞや、やつれて、息をひきとったことだろう。愛らしかった姑娘の姿だけを、胸に遺しておこうではないか」
「ですが、この眼で確かめなければ、どうしても
涙ながらに語る夫人の言葉に、諸侯がわかったと頷いた。
「
官吏たちはあからさまにいやそうに眉根を寄せながらも、拒否できるはずもなく、柩の蓋を滑らせた。
まわりにいたものたちがいっせいに息をのむ。
「うそだ、こんなことがあるはずが」
そこには生前と違わぬ姿で、納棺された妃嬪がいた。
みずみずしい雪肌も、紅をさした唇の張りも、重なりあう
なんて、綺麗な
誰もが魂を抜かれたように柩で眠る妃嬪を眺める。
「奇跡よ! こんなことがあるなんて」
夫人は感極まって声をあげ、諸侯もまた愛しい姑娘との最後の再会に涙をこぼした。
官吏は信じられない思いで眺めていたが、後宮で囁かれていた噂を想いだす。
いわく、ひらかれた後宮には
よもや、あの噂は
✦
時は
夜風は
「へえ、後宮の
後宮の廻廊を進みながら、
しなやかな細身に赤紫の
もっとも、
「ああっ、
絳についていた宦官の
「そうはいっても、ずいぶんと馬鹿げた噂ですからね。昔は方術を修めたものがいて、遺体を故郷まで歩かせ、搬送したといいますが」
「ならば、
靑靑はまだ、十六になったばかりだ。良家の五男で、親の意向で幼いうちに去勢して宦官となり宮廷にあがることになった。現在は絳につかえつつ、
「
さきから進んできた男たちの姿をみて、
後宮は、皇帝のための華の宮だ。
よって、皇帝のほかに男が踏みいるべからずとされ、男の物を切除した宦官だけが後宮に勤めることが許される。
そんな後宮に”男”など、ほんとうならば、あってはならないことだ。だが、現在の斉においてはそのかぎりではなかった。
ひらかれた後宮――
それが、
五年前に皇帝が崩御して三歳の
これにより男子禁制のはずの後宮にも
貴族の男たちが通りすぎ、続けて女官たちとすれ違う。女官たちは
絳が涼やかな眼もとを綻ばせ、愛想よく微笑みかけてやれば、女官たちは歓声をあげて湧きたった。
「
じとっと
「つかえるものはなんでもつかわなくては。この後宮が新たな職場になるのですから、すこしでも働きやすいほうがよいでしょう」
後宮がひらかれたことで、様々な事件が頻発するようになった。宮廷における事件の調査や取締、検察を管轄しているのは
それが
「でも、後宮がこんなに物騒なところだとは知りませんでした。さきほどだって女官が妃を突き落として殺めたとか。女の争いというものなんでしょうか」
「いまさら、なにをいっているのですか。私たちはその事件の後処理で、こんな時間帯まで働かされているんですよ」
「え、そ、そうなんですか。後処理、ということはまさか……」
絳は緩やかに唇の端をあげた。
「ええ、そのまさかです。大変に疑わしく、信頼するに値しない噂だとはおもいますが――屍をよみがえらせていただけるよう、
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