3 「屍は語るよ」
「〈後宮の
「いいよ。
「あなた様はいかに損壊した屍であろうと、よみがえらせることができるとか。このようなありさまでも?」
惨たらしい
「
不条理な死を具現したようなかたちで横たわる亡骸には、彼女がみなから愛される
華やかな服をきて、高値な耳飾りをつけているのがよけいに無残だった。
「ああ」
「彼女は殺されたんだね」
「誰かに高いところから落とされた。三階くらいかな。石畳に勢いよくたたきつけられたみたいだね。死んでから経過した時は推定二刻(四時間)ほどかな」
「……左様です。しかしながら、なぜ、わかったのですか」
ただ、死体をひき渡しただけだ。
損壊の程度から転落して死んだことまではわかっても、事故なのか、投身なのか、はたまた他殺なのかを推理することは不可能だ。
「
「霊媒のようなことができると」
「霊媒か、霊媒ねぇ。敏そうにしていて、ずいぶんと愚かなことをいうね」
まっこうから愚かだといわれているのに、絳はなぜかいやな気分にはならなかった。
「死者は黙して語らず。死人に口はなしさ。けれども、死体は語るものだ。まわりに知らせてほしいと語られた真実ならば、喋るのが聴いた者の務めだろう?」
刑部省に勤める
「事件の経緯はこうです。
「女官が殺害したという証拠はあるのかな。突き落としたところをみたものがいるとか」
「三階の
ですが、と
「女官は容疑を否認しています。それどころか、
「証拠もなく、身分のある官吏に疑いをかけるなんて、もってのほかです」
「そうかな」
「その女官の証言は、あながち嘘ともいいきれないよ」
意外な言葉に
「まず、ひとつ。
「現場をみてもいないのに、なぜ、そんなことが?」
「わかるよ。彼女の鼻は、折れていない。もっともやわらかい骨であるにもかかわらずね。割れているのも後頭部から側頭部にかけてだ。うつぶせに落ちたわけではないということだよ。かわりに腰と背を強打しているね。まだ、確かめていないが、尾てい骨を骨折しているはずだ」
「
「折れていますね」
美しい声を紡いできたであろう
「いいや、潰れているんだよ」
「ほら、痣があるだろう。これは
「ここが親指、こっちが人差し指だね。わかるかな、僕ではどれだけ手を拡げても押さえきれない。女では無理だろうね。きみ、頚に指をまわしてくれるかな」
指をはずしたときにあたったのか、妃の耳飾りが微かに音を奏でた。
一瞬だけ、
奇妙におもいながらも、いまはどうでもいいことだと視線を剥がす。
「
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