12 死せる花嫁はよみがえる
女官は
冤罪をかけられた
妃はいった。罪を晴らすため、再捜査を進めていると。
とても信じられなかった。
女官のためなどに官吏が動くとは思わなかったからだ。だが、その後、鈴の無罪が実証され、かわりに大理少卿が裁かれた。
「だから、そのときは、きみが黄妃を
妃はそういっていた。
だが、罪が晴れても、それはかなわぬ夢だ。
葬礼は
再びに愛するひとに逢うことは、かなわないのだ。
だからこそ、最後に三階からみた黄妃の姿が、鈴の眼に焼きついていた。
割れた頭から血潮を垂れながし、腕も脚も折れまがった悲惨なすがた。歌わなくなって、鳥篭から投げ捨てられた
きたならしく、みじめたらし、く。
歌媛は死んだ。
その事実が、鈴を苦しめ続けていた。
彼女は幸せになるべきだったのに。
「恨みます。
黄妃とそろいの耳飾りを握り締め、ひとり嘆いていた鈴のもとに遣いがきた。
「婚礼は今晩、
どういうことかと尋ねたが、宦官は
ひとつだけ、思いあたることがあった。
「あなたの花嫁にふさわしく、よみがえらせるからね――」
奇妙な妃は、確かにそういった。
無理だ。
(最愛のひとの死を受けいれ、許すことができるでしょうか)
あたりはしんと静まりかえっていた。雪を欺くほどに
「まっていたよ」
彼女の傍には
「さあ、ふたりきりの婚礼だよ」
紫蓮は袖を掲げて、踵をかえす。
最愛の人が、どんなすがたになっていても、受けいれよう。
意をけっして、柩を覗きこんだ鈴は息をのんだ。
「花琳様」
最後に語らった時と変わらぬすがたで眠り続ける、最愛のひとがいた。
穏やかに重ねられた
ああ、そうか。
つぶれて崩れたあの死に様は、
「……だって、こんなにきれい」
花琳が身につけているのは
幸福な花嫁にふさわしく、艶やかに潤んだ唇はやわらかく綻び、微笑を湛えていた。この唇がどれほど雅やかに歌を紡ぐのか、
だが、彼女は喋っているときが、もっとも愛らしいのだ。
ころころと弾むような声で、
鈴だけが、知っていた。
彼女はいつだって、嬉しかったことも、腹がたったことも、さみしかったことも、想ったことを想ったままに声にするのだ。
「ばかじゃないの」「うんざりだわ」
「歌なんかだいきらいよ」
彼女の唇から紡がれた言の葉は、悪態ひとつでも可愛らしく。
「側にいて、わたくしをさみしがらせないで」
「だい好きよ」「愛してる」
まっすぐに愛をぶつけてくる彼女が、どれほど愛しかったことか。
「花琳様、花琳様……愛しております」
鈴が涙をこぼしながら、
「願わくは」
鈴は歌を
「地にありては
黄花琳が教えてくれた宣誓だ。はるか昔の皇帝が最愛の皇后を娶るとき、この宣誓をしたという。
風が渡る。花が舞いあがった。
彼女は死せる
月だけが、ふたりぼっちの婚礼をいつまでも祝福していた。
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