5 奇人官吏は埋葬された罪をあばく
招かざる客が帰り、離宮はしんと静まりかえっていた。
「つらかったね。ゆるりとお眠りよ」
続けて、紫蓮は水桶を持ってきた。
硬く絞った
そうなると、さきにするべきは黄妃の屍の処置だ。
「ずいぶんと変わった
櫛で髪を梳きながら、
「聴かれたら語るのが筋というものだからね」
いつ、どうして、いかなる死にかたをしたのか。恨んでいるのか、嘆いているのか、悔やんでいるのか。
彼女らは静かだが、雄弁だ。そして、嘘をつかない。
紫蓮はこれまで屍たちの訴える真実を官吏たちに語ってきたが、耳を傾けようとするものはいなかった。
それにたいする憤りはない。
紫蓮は
「耳飾りのかたわれは、例の女官がもっているのだろう?」
彼は耳飾りをみつめ、なにかを想いだすように眼を動かした。そろいの耳飾りをみたことがあるという証だ。
「まあ、でも」
諦めを滲ませて、
「けっきょくは話を聴いただけで終わるだろう。僕はそれでも、構わない。構わないことだけれどね」
死刑が確定した罪人とは面会できない。後宮丞はそう言った。
「もっとも
最後につけ加えた言葉には妙な含みがあったが、再調査したところで
そもそも、再調査しても、彼に利得がない。
女官を死刑に処したほうが大理少卿に
不条理だが、のみこむほかにない。
「ゆううつ、だねぇ」
……*……*……*……
「
宮廷に戻った
偶然をよそおって、近寄っていくと、大理少卿のほうから声をかけてきた。
「やあやあ、
大理少卿はずいぶんと酔っている様子だ。酒臭い息を吹きかけられても、
「どうだ、後宮丞。一緒に飲みながら、賭けごとでもしないか」
「たいへん嬉しいお誘いですが、仕事が残っておりますので」
「左様か。
「ええ、異動したばかりなもので、朝から晩まで休みなく後宮をかけまわっております。
「まあな、私ほどになると些事で動かずとも、どうんと構えておればよいからな。功にもならぬ事件に振りまわされ、どたばたとかけずりまわる身が哀れでならんよ」
「恐縮です」
「だがなあ、君のことは、非常に残念におもっているのだよ。君ほど有能なものが後宮にまわされるなど」
ぴくりと
「後宮への異動は左遷だとお考えですか?」
「違いないだろう?
「そもそも、姜家の産まれで、刑部丞まで昇進できたのがおかしかったのだ。そう考えれば、いまくらいが身のたけにあっているのではないか、はははっ」
氏族を侮られても、
「さすがは
「でも、不可解でしてね。
「っ……そ、それは妙だな」
「ええ、それで聞きこみを続けた結果、大勢の女官たちが現場で大理少卿の姿をみたと。青い顔をして階段をかけおりていったとか」
「まあ、それだけでは、
「そ、そうだ。実は、こ、黄妃が突き落とされるところをみてしまい、それで」
「それではなぜ、大理少卿は黄妃の宮にはいなかったと証言されたのですか? 現場にいた非常に有力な証人だというのに」
大理少卿が
慌てて牌を拾おうとした大理少卿の腕を、
「
腕の掻き傷があらわになった。ともに麻雀をしていた官吏たちが、ぎょっとしたように息をのむ。
「こちらの傷、どうなさったのか、詳しくお尋ねしても?」
大理少卿は椅子を蹴り、
「ね、猫だ! 庭にいた猫にやられて――」
「ご懸念ありませんよう。医官に確かめさせれば、猫の爪によるものか、はたまた女の爪によるものか、すぐにわかりますよ。
ざわめき始めた書庫室から、
証拠がないかぎり、逮捕はできない。だから、
それが宮廷のやりかただ。
だが、裏をかえせば、証拠さえつかんでしまえば、
絳の
権力者たちの強いる不条理を、
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