拉致

そんなこんなで最悪な気分で書き上げた事業計画書を、農園に提出した。

 もうどうにでもなれ。


 しかし、意外や意外、2日後には俺の宿に農園から手紙が届き、俺の商会との提携を前向きに考えているとのことだった。そして、農園に招待され、代々農園を取り締まっている『女帝』アリシア氏から、お屋敷で直々に面会をしてくださった。


 緊張しながら訪ねた応接室で、真っ赤なルージュに豊かな金髪、黄金のドレスを纏った迫力ある美女、アリシア氏は、うっそりと微笑んだ。


 「そなたの事業案を検討にかけた。なかなか面白かったぞ。しかし、我が社としても、検討の余地はまだまだある。もう少し時間はかかるが、まずは商品を1つ2つからでどうじゃ」


 「は、はい。ありがたき幸せっ」


 「それに、我が社の者からの入れ知恵もあったようじゃが」


 「あ、それは……でも彼女は守秘義務を破っていません」


 「よいよい、味方を見つけるのも商人の力量。その力、妾は評価したぞ」


 俺は夢見心地でお屋敷を出た。まさか、上手くいくなんて。これでメルも俺のところに戻ってきてくれるかもしれない。

 だから気づかなかったのだ、誰かが後ろから近づいてきているなんて。


「おらっ」「お前のせいでっ」

「うっ」


 何者かが、俺のことを後ろから攻撃してきた。何がなんだかわからにまま、激しい頭痛とともに、俺は意識を失った。

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