暗雲

それから俺は、化粧品や薬を扱う関係者に意見を聞いたり、情報を集めたりして忙しい日々を過ごすことになった。

 俺の商会は陶器が主力の商会だったため、食べ物関係は新たに勉強しなおしたが、薬や化粧品には疎い。必死で勉強して、提案書を書いた。


 「ルークさんも精が出るわね」


 「兄ちゃん、頑張れよ」


 最初は遠巻きにしていた、宿の近所の住人や、聞き込み調査に協力してくれている店の主人達が、俺の必死な姿を見て、応援してくれるようになた。認められたようで嬉しかった。

 

 そんな中でも、俺の癒しはメル。なんとかして時間を作って合おうとしているが、最近「仕事が忙しくて、ごめんなさい」と言われることが多くなった。


 「メル、体調は大丈夫か?無理してないか?」


 どうしても会いたくて、農園に行った帰り、出口のところでメルを待った。久しぶりに会う彼女は、少し痩せて、顔色が悪かった。


 「あ……えっと、大丈夫」


 俺を見たメルは顔を強張らせた。なぜだ……?

今までこんなことなかったのに。

 

 「わ、私、まだ用事があって、ごめんね」


 そうして、職場の方に駆けて行ってしまった。


 「あ、メルさんっ!?ご、ごめんなさいね、ルークさん」


 メルの同僚のリーナさんが、慌てて後を追う。

 俺はそれを呆然と見送った。

 


 心配な気持ちと不可解な態度に気を揉んでいるある時、出先から帰る途中の俺は、メルがすらっと背の高い男性と話しているのが目に入った。2人は、公園の花壇に面したベンチに座りながら何か話している。

 

 男性は蜜蜂獣人で、髪の毛は長めの黄金色、顔は信じられないくらい整っていた。彼はメルに何事か囁くと、メルの頭を撫でた。


 俺は耐えられなくなって走り出した。これ以上美男美女カップルを見ていたくなかった。

 

 俺の髪は彼女の絹糸のような髪と違い、パサパサしていて、顔もあんなに整っていない。そして、新しい事業も上手くいってないし、蜜蜂獣人でもない。ただのヒトだった。


 彼女はそんな俺に愛想尽かしたのだろうか。



 この日から、急速に俺たちの仲はぎこちなくなった。

 俺が話しかけようとしても、メルは忙しそうですぐに戻ってしまう。デートの約束もできない。


 ただ焦っているだけなのか、と思ったが、それにしても、やけに俺を避けるようになった。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る