メルからの提案

「ねえ、ルーク」


 仕事終わりにデートしながら夕食でも、と誘ったメルが、真剣な顔で口を開いた。


 「このままだと、ずっと営業許可は出ないと思うわ。農園の上層部は、伝統的なやり方で秘策を守っていくことに固執しているわ。ただ蜂蜜が欲しいってだけだとダメだと思うの」


 「そうだよな。やっぱり厳しいか」


俺はメルとこれからもずっと一緒にいたい。しかし、蜂蜜の流通ルートが確保できなければ、俺はまた国に戻らなければならない。滞在許可日も迫る中、俺は焦っていた。

 

 「そう、だからね、蜂蜜の加工品で攻めてみたらどうかなって」


 「加工品?」


 「そう。例えば薬として、とか。私は農園の開発部門にいるでしょ。それで、蜂蜜はただ食べるだけじゃなくて、薬にもなるのよ。構成している花の種類が違えば薬効も違う。それを組み合わせれば、効き目が穏やかな薬としても使えるわ」


 でも……とメルは続けた。

 上層部をはじめ、蜜蜂獣人達は、蜂蜜自体や材料となる花の質にばかりこだわり、完成した蜂蜜を加工するという発想がまだまだ薄いらしい。しかし、メルは、伝統的なやり方だけでなく、加工品をはじめ、新たな製品ややり方で蜂蜜の魅力を伝えたいらしい。


 「たしかに。俺が惚れ込んだのはあの蜂蜜の味だけど、蜂蜜をどう活かしていくかってことまで考えたことはなかったな」


 「そう、それに、蜂蜜自体の販売はあくまで私たちの方、その蜂蜜を100%使った加工品を卸すのがルークの商会って方が、反発も少ないんじゃないかしら。まあ、私は経営部門じゃいから、あくまで蜜蜂獣人としての勘なんだけど」


 「なるほど、ありがとう」


 そうしてにっこり笑うと、彼女も頬を染めた。ああ、かわいい。


 「頑張って、私の蜂蜜ハニーちゃん」


 それを聞いて俺の頬も染まる。メルは、2人だけの時だけ、俺のことをふざけて蜂蜜ハニーちゃんと呼ぶ。なんだか恥ずかしくて、それを聞くともぞもぞしてしまう。


 「私も、新しい蜂蜜ハニー作りを成功させて、蜂蜜ハニーちゃんといられるように頑張る」


 そういいながら、メルは我が子を抱くように蜂蜜壺をぎゅっとした。


 「どっちも蜂蜜ハニーか、はは」


 かわいいけど、かわいいけど……壺を抱くくらいなら俺に抱きついてほしい。

 あと、本当はルークって名前で呼んでほしい。照れて言えないのかもしれないが。

 

 でも俺は口に出さなかった。

 

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