現代語訳⑥ 八、御狩のみゆき

『通釈⑥ 八、御狩のみゆき』の現代語訳だけを抽出したものである。


八、御狩のみゆき


 さて、かぐや姫の美貌が、世に比類なくすばらしいことを、御門がお耳になされて、内侍(ないつかさの女官)である中臣なかとみのふさ子におっしゃる。「多くの人の身を無意味なものにして仕えないかぐや姫は、どれほどの女か、行って見て来なさい」とおっしゃる。

 ふさ子はそれを承って出かけた。

 竹取の翁が、家にうやうやしく招き入れて会った。

 女(媼)に内侍がおっしゃる。「(御門からの)仰せの言葉に、かぐや姫の顔かたちは優れておいでだと聞く。よく見て来るように、との沙汰を仰せつかったので参りました」と言うので、(女(媼)は)「それならば、そのように申して参ります」と言って、(かぐや姫の部屋に)入った。

 かぐや姫に、「はやく、その使つかいに対面してください」と言うのだが、かぐや姫は、「良い顔でもありません。どうして見なければならない」と言うので、「とんでもないことをおっしゃるものです。かどのお使いを、どうしておろそかにできるでしょう」と言うと、かぐや姫が答えるには、「御門が(お使いの方を)呼び寄せて(言づてに)おっしゃるようなことを、畏れ多いとは思いません」と言って、ますます対面しそうにはない。

 (女「媼」にとって)産んだ子のつもりであったが、(こちらが)ひどく恥ずかしくなるように、ぞんざいに言ったので、思う通りには責められない。

 女(媼)が内侍ないしのところに戻って、「残念ながら、この未熟な者は、強情であります者で、対面しないでしょう」と申し上げる。

 内侍、「必ず会って頂いて来なさいとの仰せごとがあるのだから、会って頂かないで、どうして帰らせて頂けましょう。国王の仰せごとを、まさに天下にお暮らしになっている人がご承知なさらないで生きられましょうか。道理に合わないことを言わないでくだされ」と、語気強く言ったのだが、これを聞いてもやはり、かぐや姫は言うことを聞くはずもない。「国王の仰せごとそむいたのなら、はやくお殺しくださいますがいい」と言う。

 この内侍は帰って参上し、この顛末を(御門に)奏上する。御門は(これを)お聞きあそばせて、「多くの人が辛い目にあってしまった心であるのだな」とおっしゃって、(その場は)おさまったけれど、やはり考えておいでになって、(かぐや姫がわざと荒い言動に出たことに感づき)この女の計略には負けまい、とお思いになって、(翁に)おほせになる。

「あなたの持っているかぐや姫を参上させよ。顔かたちが良いと聞いて、使いをやったのだが、その甲斐はなく、見ることができなかった。このようなもってのほかは躾けるべきではないか」と仰せになられる。

 翁は、おそれいって、お返事を申し上げるには、「この女の童子は、けっして宮仕え申し上げそうもなくおりますのを、もてあましております。そうであっても、戻りまして、仰せの言葉を(かぐや姫に)賜わせましょう」と、お申し上げる。

 これを(御門が)お聞きになって、仰せになる。「どうして、翁の育て上げたものを、心に従わせられないだろう。この女を、もし、寄こし奉ったのならば、翁にかうぶり(五位の位階)を、どうして授けないでおくであろうか」。

 翁は、喜んで、家に帰って、かぐや姫に語って聞かせるには、「このように、御門が仰せになる。どうしてお仕えしないことがあるでしょう」と言うのだが、かぐや姫が答えて言うには、「まったくそのような宮仕えをお仕え申し上げまいと思うのを、強いてお仕えさせるのであれば、きっと(私は)消え失せるでしょう。官職を(あなたが)お仕えなさって、(私は)死ぬだけです」。

 翁が答えるには、「(そんなことは)してくださるな。官位も、わが子を世話して差し上げられないのでは、意味がない。そうはいっても、どうして宮仕えをしようとなさらないのか。お死にになられるどんな理由があるのでしょうか」と言う。

「それでも虚言かと、宮仕えさせて、(私が)死なずにいるだろうかと試しなされ。以前の人の誠意の生半可でなかったものを虚しくさせているのです。(それを)きのうの今日で、御門のお誘いに従おうとする。人聞きが恥ずかしい」と言うので、翁が答えて言うには、「御門のことは、とあるにしても、かくあるにしても、(あなたの)お命の危うさが大きな問題であるので、やはりお仕えできないことを、(御門のところに)うかがって申し上げましょう」と言って、うかがって申し上げるには、「仰せの言葉の畏れ多さに、あの娘をうかがわせようといたしましたが、宮仕えに送り出せば、きっと死ぬだろう、と言います。みやつこ麻呂の本当の子ではありません。むかし、山で見つけたものです。そうであれば、性格も世間の人と同じではないのです」とお申し上げる。

 御門が仰せになるには、「みやつこ麻呂の家は、山もと近くである。御狩り行幸をされると見せかけて、見られるだろうか」と、仰せになる。

 みやつこ麻呂が申し上げるには、「それはよいことです。なんの心づもりもなくいるところに、ふいに行幸されてご覧になられませ。ご覧になれるにちがいありません」と、お申し上げると、御門はすぐに日を決めて、御狩りにおいでなって、かぐや姫の家にお入りになり、ご覧になると、光に満ちて、清らかに座る人があった。

 これであろう、とお思いになって、逃げて奥へ入ろうとするその袖をお捕らえになれば、(もう片方の袖で)顔をふさいでいたのだが、最初の時、(その顔を)よくご覧になっていたので、比類なくすばらしいとお知りになって、「逃しはしません」と仰せになって、連れて行こうとするので、かぐや姫が答えてお申し上げる。「私の身が、この国に生まれておりますれば、お仕えもいたしましょう。非常に連れて行かれるのは難しいのではございませんか」と、お申し上げる。

 御門は、「なぜ、そう言えるのであろうか。やはり、連れて行きす」と仰せになって、輿こしをお寄せになると、(袖をのけた)このかぐや姫は、一瞬にして醜い顔になっていた。

 あっけなく残念にお思いになって、なんと本当に只の人ではなかったのだと、お思いになって、「こうなっては、一緒に連れては行きません。どうか、もとのお顔になってください。それを見とどけたなら帰ります」と仰せになったので、かぐや姫は、もとの顔にもどった。

 御門は、ますます(かぐや姫の美貌を)褒め称える気持ちを抑えきれない。このように(かぐや姫に)会わせたみやつこ麻呂を、うれしくお思いになる。

 さて、(御門がにわかに決めた狩りのみゆきに)付き添い差し上げている百の官人は、任務がある時間、盛大にお仕え申し上げている。

 御門は、かぐや姫を置いてお帰りになることを、あいかわらず残念にお思いになるのだけれど、魂を置き去りにするような心地で、お帰りになる。輿こしにお乗りになってのちに、かぐや姫に、

「かへるさのみゆき物うくおもほえてそむきてとまるかぐや姫ゆへ」

(「帰るおりの御幸が物憂く思われるのは、私に背いてとどまるかぐや姫のせいだ」)

(「帰るおりの御幸が物憂く思われて、振り返ってしばらくとどまるかぐや姫のために」)

 (かぐや姫の)お返事。

「むぐらはふ下にも年はへぬる身の何かは玉のうてなをもみむ」

(「つる草の這う下(このような質素な家)に、もう何年も暮らしているこのわたしが、なんで宝石で飾った台の上(まばゆい御殿)を見る(のぼる)ことができるでしょうか。」)

 これを御門が御覧になられて、どうして歌のお返しを送られるお気持ちが(ご自分に)ないなどとお思いになられただろうか。お心は、ますます、立ち帰ろうとはお思いになれないのだけれど、そうはいっても、(多くの官人を役目の途中で連れ出していて)天下(の政務)に穴をお空けになるわけにはいかないので、お帰りになられた。

 いつもお仕えする女官をご覧になっても、かぐや姫のかたわらにさえ及ぶはずもない。格別に人よりは美しいとお思いになる人も、かぐや姫にお比べになると、人でさえない。かぐや姫だけが御心に浮かんで、ただひとりお暮らしになる。夜に泣く御方々にさえ、お渡りにならない。

 かぐや姫の御もとにおんふみを書いてお送りなされる。(その)返りのふみは、予想外にすばらしく、御歌をお交わしになられて、興がわき、(自然の)草木についても御歌をお詠んで、おつかわしになる。


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