通釈⑥ 八、御狩のみゆき
1、『古活字十行甲本』を底本にしています。
2、おおむね、『評註竹取物語全釈』松尾 聰著(武蔵野書院)を参考書にしています。本文中、『評註』と表記しています。
3、底本の変体仮名等解釈は、『竹取物語』翻刻データ集成 https://taketori.himegimi.jp/ の『古活字十行甲本』を信頼して利用しています。
4、解読にあたって、『全訳読解古語辞典』(第三版)鈴木一雄 他著(三省堂)を用いた。
5、私説を参考として掲げる場合、★印をつけた。
八、御狩のみゆき
●33裏の続き
さてかくやひめ
かたちの世に似すめてたき事をみ
かときこしめして①内侍なかとみのふさ
①「内侍」は、
○
さて、かぐや姫、
かたちの世に似ず、めでたき事を、
◎
さて、かぐや姫の美貌が、世に比類なくすばらしいことを、御門がお耳になされて、内侍(
●34表
こにの給おほくの人の身をいたつらに
なしてあはさるかくやひめはいかはかり
の女そとまかりてみて参れとの給ふふ
さこ承てまかれり竹とりの家にかしこ
まりてしやうしいれてあへり女に内
侍の給仰ことにかくや姫のうちいうに
をはす也よく見て参るへきよしの給は
せつるになん参つるといへはさらは
かく申侍らんと云て入ぬかくやひめに
はや彼御使にたいめんし給へといへは
○
子にのたまふ。「
なして、あはざるかぐや姫は、いかばかり
の女ぞと、まかりて見て参れ」とのたまふ。ふ
さ
まりて
③おはす④なり。よく見て参るべき
せつるになむ参りつる」と言へば、「さらば、
かく申し
「はや、かの
①「竹取の家に」とする解釈もあるが。少し文章的におかしい。翁も対面したが、内侍は女性なので、応対したのは媼だったか。
②原文「うち」。「かたち」の誤写とする。
③「をはす」を歴史的仮名遣い「おはす」に改めた。
④「なり」は伝聞。
◎
子におっしゃる。「多くの人の身を無意味なものにして仕えないかぐや姫は、どれほどの女か、行って見て来なさい」とおっしゃる。
ふさ子はそれを承って出かけた。
竹取の翁が、家にうやうやしく招き入れて会った。
女(媼)に内侍がおっしゃる。「(御門からの)仰せの言葉に、かぐや姫の顔かたちは優れておいでだと聞く。よく見て来るように、との沙汰を仰せつかったので参りました」と言うので、(女(媼)は)「それならば、そのように申して参ります」と言って、(かぐや姫の部屋に)入った。
かぐや姫に、「はやく、その
●34裏
かくやひめよきかたちにもあらすいかて
か見ゆへきといへはうたてもの給ふ哉
御門の御使をはいかてかをろかにせん
と云はかくやひめの答るやう御門のめ
しての給はん事かしこしとも思はす
と云てさらに見ゆへくもあらすむめる子
のやうにあれといと心はつかしけに
をろそかなるやうにいひけれは心のまゝ
にもえせめす女内侍のもとに帰り出て
口おしく此おさなき物はこはく侍る物
○
かぐや姫、「よきかたちにもあらず。いかで
か見ゆべき」と言へば、「うたてものたまふかな。
と言へば、かぐや姫の答ふるやう、「御門の
してのたまはむこと、かしこしとも思はず」
と言ひて、さらに見ゆべくもあらず。むめる子
のやうにあれど、いと心はづかしげに、
②おろそかなるやうに言ひければ、心のまま
にも、え
「③
①「をろか」を歴史的仮名遣い「おろか」に改めた。
②「をろそか」を歴史的仮名遣い「おろそか」に改めた。
③「口おしく」を歴史的仮名遣い「口をしく」に改めた。
④「おさなき」を歴史的仮名遣い「をさなき」に改めた。
◎
かぐや姫は、「良い顔でもありません。どうして見なければならない」と言うので、「とんでもないことをおっしゃるものです。
(女「媼」にとって)産んだ子のつもりであったが、(こちらが)ひどく恥ずかしくなるように、ぞんざいに言ったので、思う通りには責められない。
女(媼)が
●35表
にてたいめんすましきと申内侍必見
奉りてまいれと仰ことありつる物をみ
奉らてはいかてかかへりまいらん國王の
仰ことをまさに世に住給はん人の承
たまはてありなんやいはれぬことなし
給ひそとことは恥しくいひけれは是を聞
てましてかくや姫きくへくもあらす國
王の仰ことをそむかははやころし給てよ
かしと云此ないし帰り参りて此由を奏
す御門聞召ておほくの人ころしてける
○
にて、
奉りて②
奉らでは、いかでか
仰せ
給はであり④なむや。⑤言はれぬことなし
給ひそ」と、言葉恥づかしく言ひければ、これを聞き
て、まして、かぐや姫、聞くべくもあらず。「国
王の仰せ
⑥かし」と言ふ。この内侍、帰り参りて、この
す。御門、聞こし召して、「
①「すまじき」の「まじき」は、「まじ」の連体形。下に「者にて」などが省かれている。
②底本「まいれ」を、歴史的仮名遣い「まゐれ」に改めた。
③底本「まいらん」を、歴史的仮名遣い「まゐらむ」に改めた。
④「なむや」は、この場合、強い反語を示す。「~だろうか、いや~はずはない」。
⑤「言はれぬ」は、この場合、「無理な・不当な・道理に合わない」。
⑥「かし」は、自己の判断を相手に強く示す。
⑦底本「ころしてける」は、「
◎
で、対面しないでしょう」と申し上げる。
内侍、「必ず会って頂いて来なさいとの仰せ
この内侍は帰って参上し、この顛末を(御門に)奏上する。御門は(これを)お聞きあそばせて、「多くの人が辛い目にあってしまった
●35裏
心そかしとの給ひてやみにけれと猶
おほしおはしまして此女のたはかりにや
まけんとおほしておほせ給ふなんちか
もちて侍るかくやひめ奉れかほかたち
よしと聞召て御使たひしかとかひなく
見えす成にけりかくたい\/しくやは
ならはすへきと仰らるゝ翁かしこまり
て御返事申やう此めのわらはゝたへて
宮仕つかうまつるへくもあらすはんへ
るをもてわつらひ侍さりともまかりて
○
心①ぞかし」と、のたまひて、
おぼしおはしまして、②この女のたばかりにや
負けむ、とおぼして、
持ちて侍るかぐや姫、奉れ。
良しと③聞こし召して、御使ひ、
見えずなりにけり。かく④
⑤ならはすべき」と、仰せらるる。翁、かしこまり
て、御返り
宮仕へつかうまつるべくもあらずはんべ
るを、もてわづらひ侍り。さりとも、まかりて、
①「ぞかし」は、念を押す意を表す。「~であるよ」。
②「この女のたばかりにや負けむ」の「たばかり」は「計略」の意ととれるが、おそらく御門は、かぐや姫がわざと荒い言動をしていることに感づいたのだと私は考えている。それで、「この女の計略には負けるものか」と、それからは翁を呼び出し、次々に、畳みかけるように、かぐや姫と会うための計略を仕返しとして実行したのであろう。本来、そのような横暴をする御門ではないのである。
★『本当の『竹取物語』を閉ざしていたもの』等で述べたように、地上で輪廻転生を繰り返す間に徳を積んだ者しか涅槃たる月に生まれることはできない。まして、かぐや姫は月の王女として生まれているのだから、最高の人格を備えているはずなのだ。かぐや姫が強い言動に出たのは、自らを卑しい者と御門に思わせる演技、自分を諦めさせるための、言って見れば計略であったのだろう。
③「聞こし召して」は、御門の自己尊敬語と言われる。あるいは、召し継ぎ(取り次ぎによることづたえ)によるものか。
④「
⑤「ならはす」は、「習慣づける・学ばせる」。
◎
心であるのだな」とおっしゃって、(その場は)おさまったけれど、やはり考えておいでになって、(かぐや姫がわざと荒い言動に出たことに感づき)この女の計略には負けまい、とお思いになって、(翁に)
「あなたの持っているかぐや姫を参上させよ。顔かたちが良いと聞いて、使いをやったのだが、その甲斐はなく、見ることができなかった。このようなもってのほかは躾けるべきではないか」と仰せになられる。
翁は、おそれいって、お返事を申し上げるには、「この女の童子は、けっして宮仕え申し上げそうもなくおりますのを、もてあましております。そうであっても、戻りまして、
●36表
仰給はんと奏す是を聞召て仰給ふなと
か翁のおほしたてたらん物を心にま
かせさらん此女若奉りたる物ならは翁
にかうふりをなとか給せさらん翁よろ
こひて家に帰りてかくや姫にかたらふ
やうかくなん御門のおほせ給へるなをや
はつかうまつり給はぬと云はかくやひ
め答ていはくもはらさやうの宮つかへ
つかうまつらしと思ふをしゐて仕ま
つらせたまはゝ消うせなむすみつかさ
○
仰せ賜はむ」と
か、翁の②
せざらむ。この女、もし、奉りたるものならば、翁
に④
びて、家に帰りて、かぐや姫に
やう、「かくなむ、御門の
は、
答へていはく、「⑥もはら、さやうの宮仕へ、
仕うまつらじと思ふを、⑦
つらせ給はば、消え
①「などか」は、下に打ち消しを伴って、「どうして~か」。
②「
③「まかす」は、「ゆだねる」の他に、「従う」の意がある。
④「
⑤底本「なをやは」の「なを」を、歴史的仮名遣い「なほ」に改めた。「やは」は係り助詞、反語「~だろうか」、疑問「どうして~なのか」。
⑥「もはら」は、「もっぱら」。下に打ち消しを伴って「全然・一向に」。
⑦底本「しゐて」を、歴史的仮名遣い「しひて」に改めた。
➇「なむず」は、「きっと~だろう」。
⑨「つかさかうぶり」は、官職と位階のこと。
◎
仰せの言葉を(かぐや姫に)賜わせましょう」と、お申し上げる。
これを(御門が)お聞きになって、仰せになる。「どうして、翁の育て上げたものを、心に従わせられないだろう。この女を、もし、寄こし奉ったのならば、翁に
翁は、喜んで、家に帰って、かぐや姫に語って聞かせるには、「このように、御門が仰せになる。どうしてお仕えしないことがあるでしょう」と言うのだが、かぐや姫が答えて言うには、「まったくそのような宮仕えをお仕え申し上げまいと思うのを、強いてお仕えさせるのであれば、きっと(私は)消え失せるでしょう。官職を
●36裏
かうふり仕てしぬはかり也おきないら
ふるやうなし給そかうふりもわか子を
見奉らては何にかせんさはあり共なと
か宮仕をしたまはさらんしに給ふへき
やうやあるへきといふ猶そらことかと
仕らせてしなすやあると見給へあまた
の人の心さしをろかならさりしをむ
なしくなしてしこそあれ昨日けふ御門
のの給はんことにつかん人きゝやさし
といへはおきなこたへていはくてんか
○
ふるやう、「なし給ひそ。
か宮仕へをし給はざらむ。死に給ふべき
③やうやあるべき」と
④
の人の
しくなして、しこそあれ、
ののたまはむことにつかむ。
と言へば、翁、答へていはく、「⑦
①底本「仕て」を、「
②「いらふ」は、「答える・返事をする」の意。
③「やう」は、この場合、「理由・事情・わけ」の意。
④底本「仕らせて」を、「
⑤底本「あまたの」は、「たくさんの」という意味で、五人のことを言っている以上、通じない。「あなたの」すなわち「以前の」に改変した。
⑥「やさし」は、この場合、「肩身が狭い・恥ずかしい」
⑦「
◎
(あなたが)お仕えなさって、(私は)死ぬだけです」。
翁が答えるには、「(そんなことは)してくださるな。官位も、わが子を世話して差し上げられないのでは、意味がない。そうはいっても、どうして宮仕えをしようとなさらないのか。お死にになられるどんな理由があるのでしょうか」と言う。
「それでも虚言かと、宮仕えさせて、(私が)死なずにいるだろうかと試しなされ。以前の人の誠意の生半可でなかったものを虚しくさせているのです。(それを)きのうの今日で、御門のお誘いに従おうとする。人聞きが恥ずかしい」と言うので、翁が答えて言うには、「御門
●37表
のことはと有ともかゝりともみいのち
のあやうさこそおほきなるさはりなれ
は猶つかうまつるましきことを参りて
申さんとて参て申やう仰の事のかしこ
さにかのわらはを参らせんとてつかう
まつれは宮仕にいたしたてはしぬへし
と申みやつこまろか手にうませたる子
にてもあらす昔山にて見つけたるかかれ
は心はせも世の人に似す侍ると奏せさ
す御門仰たまはく宮つこまろか家は山
○
のことは、①とありとも、かかりとも、
の②
ば、なほ、
申さむ」とて、参りて申すやう、「仰せの言のかしこ
さに、かの
まつれば、宮仕へに③
と申す。
にてもあらず。昔、山にて見つけたる。かかれ
ば、心ばせも、世の人に似ず侍る」と奏せさ
す。御門、仰せ給はく、「
①「とありとも、かかりとも」は、直訳すれば、「とあるとしても、かくあるにしても」であろうか。
②底本「あやうさ」は、歴史的仮名遣い「あやふさ」に改めた。
③「いだしたつ」は、「送り出す・出発させる」。
◎
のことは、とあるにしても、かくあるにしても、(あなたの)お命の危うさが大きな問題であるので、やはりお仕えできないことを、(御門のところに)うかがって申し上げましょう」と言って、うかがって申し上げるには、「仰せの言葉の畏れ多さに、あの娘をうかがわせようといたしましたが、宮仕えに送り出せば、きっと死ぬだろう、と言います。
御門が仰せになるには、「
●37裏
もとちかくなり御かりみゆきし給はん
やうにてみてんやとの給はす宮つこ丸
か申やういとよき事也何か心もなくて
侍らんにふとみゆきして御覧せん御覧
せられなんとそうすれはみかと俄日を
定て御かりに出たまふてかくや姫の
家に入給ふて見給にひかりみちてけう
らにてゐたる人あり是ならんとおほし
てにけて入袖をとらへ給へはおもてを
ふたきて候へとはしめよく御覧しつれは
○
もと①近きなり。御狩りみゆき、し給はむ
が申すやう、「いとよき事なり。②何か、心もなくて、
侍らむに、ふと、みゆきして御覧ぜむ。御覧
ぜられなむ」と奏すれば、御門、③にわかに日を
定めて、御狩りに
家に入り④給ひて、見給ふに、
らにて
て、逃げて
ふたぎて候へど、はじめ、よく御覧じつれば、
①底本「ちかくなり」を、「なり」を伝聞・推定の助動詞として「近かなり」にする解説書があるが、「なり」を断定の助動詞とすれば「近きなり」あるいは「近かるなり」となる。翁は元から貴族であり都に住んでいたので、御門は翁の家の場所を知っていたと思うので、私は後者を採る。★『翁はもとより貴族である(賤民は思い込み)』を、一読願いたい。
②「何か、心もなくて、侍らむに」は、「なにごころなし」(無心である・無邪気である・油断している・のんびりしている)に通じるとして解釈した。
③底本「俄」は、「にわかに」と、「に」を補った。
④底本「給ふて」を「給ひて」とした。
◎
もと近くである。御狩り行幸をされると見せかけて、見られるだろうか」と、仰せになる。
これであろう、とお思いになって、逃げて奥へ入ろうとするその袖をお捕らえになれば、(もう片方の袖で)顔をふさいでいたのだが、最初の時、(その顔を)よくご覧になっていたので、
●38表
たくひなくめてたくおほえさせ給ひて
ゆるさしとすとてゐておはしまさむと
するにかくやひめ答て奏すをのか身
は此國に生て侍らはこそつかひ給はめ
いといておはしましかたくや侍らんと
そうすみかとなとかさあらん猶いてお
はしまさんとて御こしをよせ給ふに
此かくや姫きとかけに成ぬはかなく口
おしとおほしてけにたゝ人にはあらさり
けりとおほしてさらは御ともにはいて
○
たぐひなくめでたくおぼえさせ給ひて、
「
するに、かぐや姫、答へて奏す。「①
は、この国に生まれて侍らばこそ、
いと②
奏す。御門、「などか、さあらむ。なほ、③
はしまさむ」とて、
このかぐや姫、④きと、欠けになりぬ。はかなく、
けり、とおぼして、「さらば
①底本「をの」を、歴史的仮名遣い「おの」に改めた。
②③⑤底本「いて」を、歴史的仮名遣い「ゐて」に改めた。
④底本「きとかけに成ぬ」は、従来「きと、影になりぬ」とされてきたが、「きと、欠けになりぬ」と考える。★『きとかけになりぬ(影ではなく欠けか?)』を、一読願いたい。
◎
比類なくすばらしいとお知りになって、「逃しはしません」と仰せになって、連れて行こうとするので、かぐや姫が答えてお申し上げる。「私の身が、この国に生まれておりますれば、お仕えもいたしましょう。非常に連れて行かれるのは難しいのではございませんか」と、お申し上げる。
御門は、「なぜ、そう言えるのであろうか。やはり、連れて行きす」と仰せになって、
あっけなく残念にお思いになって、なんと本当に只の人ではなかったのだと、お思いになって、「こうなっては、一緒に連れては
●38裏
いかしもとの御かたちと成給ひねそれ
をみてたに帰りなんと仰らるれはかく
や姫もとのかたちに成ぬ御門なをめて
たくおほしめさるゝ事せきとめかたし
かく見せつる宮つこまろをよろこひ給
さて仕まつる百官人々あるしいかめし
うつかうまつる御門かくやひめをとゝ
めて帰給はん事をあかす口惜おほし
けれと玉しゐをとゝめたる心ちして
なむかへらせ給ひける御こしに奉りて
○
行かじ。もとの御かたちとなり給ひね。それ
を見てだに帰りなむ」と仰せらるれば、かぐ
や姫、もとのかたちになりぬ。御門、①なほ、めで
たくおぼしめさるる事、
かく見せつる
さて、
う
めて帰り給はむ事を、
けれど、④
なむ、
①底本「なを」を、歴史的仮名遣い「なほ」に改めた。
②底本「百官人々あるし」を、「百の官人、任ある時」と解釈する。★『「あるじ」否定説 及び 「夜を明かし」否定説』を、一読願いたい。
③底本「口惜」を、「口惜しく」とした。
④底本「玉しゐ」を、歴史的仮名遣い「たましひ」に改めた。
◎
行きません。どうか、もとのお顔になってください。それを見とどけたなら帰ります」と仰せになったので、かぐや姫は、もとの顔にもどった。
御門は、ますます(かぐや姫の美貌を)褒め称える気持ちを抑えきれない。このように(かぐや姫に)会わせた
さて、(御門がにわかに決めた狩りのみゆきに)付き添い差し上げている百の官人は、任務がある時間、盛大にお仕え申し上げている。
御門は、かぐや姫を置いてお帰りになることを、あいかわらず残念にお思いになるのだけれど、魂を置き去りにするような心地で、お帰りになる。
●39表
後にかくやひめに
かへるさのみゆき物うくおもほえて
そむきてとまるかくや姫ゆへ御返事
むくらはふ下にも年はへぬる身の何
かは玉のうてなをもみむ是を御門御覧し
ていかゝかへり給はん空もなくおほさる御
心はさらにたち帰へくもおほされさり
けれとさりとてよを明し給へきにあら
ねは帰らせ給ぬつねにつかうまつる人
を見給にかくやひめのかたはらによる
○
後に、かぐや姫に、
①かへるさのみゆき物うく②おもほえて
そむきてとまるかぐや姫ゆへ 御返り事、
③むぐらはふ下にも年はへぬる身の何
かは④玉のうてなをもみむ これを御門、御覧じ
て、⑤いかが
心はさらに立ち帰るべくもおぼされざり
けれど、さりとて⑥
ねば、帰らせ給ひぬ。常に
を見給ふに、かぐや姫の
①「かへるさ」の「さ」は、移動をあらわす動詞の終止形について、「~とき・~折り」をあらわす。
②「おもほえて」は、「おもほゆ」の連用形。「おもほゆ」は、「おもはゆ」の変化形。
③「むぐら」は、つる性の植物全般と見てよいだろう。
④「玉のうてな」は、見晴らしの良い高い建物。
⑤底本「いかゝかへり給はん空もなくおほさる」の「かへり」を従来「帰り」と貸し訳したことのより、混乱を招いている。「返り」すなわち「歌の返し」とすると、意味が通る。★『「いかゝかへり給はん空もなくおほさる」を解く』
⑥底本「よを明し給へき」を、「
◎
のちに、かぐや姫に、
「かへるさのみゆき物うくおもほえてそむきてとまるかぐや姫ゆへ」
(「帰るおりの御幸が物憂く思われるのは、私に背いてとどまるかぐや姫のせいだ」)
(「帰るおりの御幸が物憂く思われて、振り返ってしばらくとどまるかぐや姫のために」)
(かぐや姫の)お返事。
「むぐらはふ下にも年はへぬる身の何かは玉のうてなをもみむ」
(「つる草の這う下(このような質素な家)に、もう何年も暮らしているこのわたしが、なんで宝石で飾った台の上(まばゆい御殿)を見る(のぼる)ことができるでしょうか。」)
これを御門が御覧になられて、どうして歌のお返しを送られるお気持ちが(ご自分に)ないなどとお思いになられただろうか。お心は、ますます、立ち帰ろうとはお思いになれないのだけれど、そうはいっても、(多くの官人を役目の途中で連れ出していて)天下(の政務)に穴をお空けになるわけにはいかないので、お帰りになられた。
いつもお仕えする女官をご覧になっても、かぐや姫のかたわらにさえ及ぶ
●39裏
へくたにあらさりけりこと人よりは
けうらなりとおほしける人のかれにお
ほしあはすれは人にもあらすかくや姫
のみ御心にかゝりてたゝひとりすみし
給ふよしなく御かた\/にもわたり給
はすかくやひめの御もとにそ御文をか
きてかよはさせ給ふ御かへりさすかに
にくからすきこえかはし給ておもしろ
く木草につけても御哥をよみてつかは
す
○
べくだにあらざりけり。こと、人よりは
ぼし
のみ御心にかかりて、ただひとり住みし
給ふ。①
はず。かぐや姫の御もとにぞ、御文を書
きて
にくからず。聞こえ
く、木草につけても御歌を詠みて
す。
①底本「よしなく御かた\/にもわたり給はす」は、従来、「よしなく、御方々にも渡り給はず。」と解釈されるが、どうもしっくりと訳せない。「御方々にも」が誰を意味するのかはっきりしないのである。それで私は、仮に、「
◎
はずもない。格別に人よりは美しいとお思いになる人も、かぐや姫にお比べになると、人でさえない。かぐや姫だけが御心に浮かんで、ただひとりお暮らしになる。夜に泣く御方々にさえ、お渡りにならない。
かぐや姫の御もとに
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