通釈④ 六、龍の首の玉
1、『古活字十行甲本』を底本にしています。
2、おおむね、『評註竹取物語全釈』松尾 聰著(武蔵野書院)を参考書にしています。本文中、『評註』と表記しています。
3、底本の変体仮名等解釈は、『竹取物語』翻刻データ集成 https://taketori.himegimi.jp/ の『古活字十行甲本』を信頼して利用しています。
4、解読にあたって、『全訳読解古語辞典』(第三版)鈴木一雄 他著(三省堂)を用いた。
5、私説を参考として掲げる場合、★印をつけた。
六、龍の首の玉
●21裏の続き
大伴のみゆきの大納言は
我家にありと有人あつめての給はく、
○
わが家にありとある人集めて、のたまはく、
◎
●22表
たつのくひに五色の光ある玉あなり其
をとりて奉たらん人にはねかはん事を
かなへんとの給おのこ共仰のことを承
て申さく仰の事はいともたうとしたゝ
し此玉たはやすくえとらしをいはん
や龍のくひにたまはいかゝとらんと申
あへり大納言の給ふてんのつかひとい
はん物は命をすてゝもをのか君の仰こ
とをはかなへんとこそ思へけれ此國に
なき天竺もろこしの物にもあらす此國
○
「
を取りて
かなへむ」と、のたまふ。②
て申さく、「仰せの
し、この玉、たはやすくえ取らじを、いはむ
や、竜の首に玉はいかが取らむ」と申し
合へり。大納言、のたまふ。「④
はむ者は、命を捨てても、⑤をのが⑥君の
をば、かなへむとこそ思ふべけれ。この国に
なき、天竺、
①「あなり」は、「あんなり」の「ん」の無表記。「あるなり」の音便。
②底本「おのこ」を、歴史的仮名遣い「をのこ」に改めた。
③底本「たうとし」を、歴史的仮名遣い「たふとし」に改めた。
④底本「てんのつかひ」の「てん」について、「天」か「殿」で迷うが、やはり「殿」とするのが無難だろう。「てん」あるいは「でん」である。中納言の家、邸宅をいうが、後に「殿の内の
⑤底本「をの」を、歴史的仮名遣い「おの」に改めた。
⑥「君」は、この場合、「主君」のこと。
◎
「竜の首に五色の光ある玉がある。それを取って持って来た人には、願う事を叶えよう」と、おっしゃる。
男たちが、仰せの言葉を承って申し上げるには、「仰せの言葉は非常にすばらしい。ただ、この玉はたやすく取れないものを、ましてや、竜の首の玉などどうやって取れましょう」と、口々に申し上げている。
大納言がおっしゃる。「天の使いと言おう者は、命を捨てても、おのれの主君の仰せの言葉を必ず叶えようと思うはずである。この国にない、天竺、
●22裏
の海山よりたつはをりのほる物也いかに
思ひてかなんちらかたき物と申へきお
のことも申やうさらはいかゝはせん
かたき物なり共仰ことにしたかひてもと
めにまからんと申に大納言みわらひ
てなんちらか君の使と名をなかしつ君
のおほせ事をはいかかはそむくへきと
の給ひてたつのくひの玉とりにとて
出したて給ふ此人々の道のかてくひ
物に殿の内のきぬわたせになとある限
○
の海山より竜は①
思ひてか、
のこども、申すやう、「さらば、いかがはせむ。
めに③まからむ」と申すに、大納言、④見笑ひ
て、「⑤
の
のたまひて、竜の首の玉、取りにとて、
物に、殿の内の
①底本「をり」を、歴史的仮名遣い「おり」に改めた。
②底本「②おのこ」を、歴史的仮名遣い「をのこ」に改めた。
③「まからむ」。「まかる」は主に「去る・行く」の謙譲語。
④「見笑ひて」。大納言がここでどうして笑ったのか諸説ある。まあ、家来たちが決心したことに満足してと説くのが穏当だろう。その後、家来たちのために必要な物を存分に与えているので、家来達との相互信頼を大納言は疑わなかったことの表れだろう。
⑤「
⑥「食ひ物」は、その前の「道の
◎
の海山から竜は下り上るものである。どう思って、お前たちは、難しいことだと言えるであろうか」。
男たちが申し上げるには、「それならば、どういたそう。難しい物であっても、仰せの言葉に従って、取りにまいりましょう」と申し上げるので、大納言は、それを見て笑って、「お前たちの主君である私に仕える者として、(お前たちは)名を知られた。主君の仰せの言葉に、どうやって逆らえよう」とおっしゃって、竜の首の玉を取って来いと、家からお出しになられた。
この人々の道中の食糧、(さしあたっての)食い物に、家の中にある絹、綿、銭など、全てを
●23表
とり出てそへてつかはす此人々とも帰
まていもゐをしてわれはをらん此玉取
えては家にかへりくなとの給はせけり
各仰承てまかりぬたつのくひの玉とり
えすは帰くなとの給へはいつちも\/
足のむきたらんかたへいなむすかかる
すき事をしたまふ事とそしりあへり
給はせたる物各分つゝとる或はをのか
家にこもりゐ或はをのかゆかまほしき
所へいぬおや君と申ともかくつきなき
○
取り
まで、①
えでは、家に帰り
えずば、帰り
足の向きたらむ
すき事をし給ふ事」と、そしり合へり。
賜はせたる物、
家に籠もり
所へいぬ。⑦親、「君と申すとも、かく⑧つきなき
①底本「いもゐ」を、歴史的仮名遣い「いもひ」に改めた。
「
②「いづち」は、「どちらの方向・どちら・どこ」の意。
③「いなむず」は、「いなむとす」のつまった言葉だという。
④「かかるすき事をし給ふ事」。「すき事」について、『評注』は、「「色好みのしわざ」の意につかわれることが多いので、ここでもその意とする説がある。」としている。最後の方で大納言が、「かぐや姫てふ、
⑤⑥底本「をの」を、歴史的仮名遣い「おの」に改めた。
⑦「親、「君と申すとも…」」は、「親、君と申すとも…」とする考えもあるが、ほとんどの者が家へ帰ったと想像できるから、この考えにした。
⑧「つきなし」は、「手立てがない・ふさわしくない」の意。
◎
取り出して、それを加えて、お与えになった。
「おまえたちが帰るまで、
各々、仰せを承って出て行った。
「竜の首の玉を取れなければ、帰ってくるな、とおっしゃられるので、どこになりと足の向く方へ去るとしよう。(かぐや姫相手に)このような、物好きをなされることよ」と、ののしりあった。
頂いた物を、各々が分けて取る。ある者は自分の家に籠もり、ある者は自分の行きたい所へ行ってしまった。(この者らの)親も、「君主と申せども、なんて理不尽な
●23裏
事を仰給事とことゆかぬ物ゆへ大納言
をそしりあひたりかくや姫すへんには
れいやうには見にくしとの給ひてうる
はしき屋を作り給てうるしをぬりまき
ゑしてかへし給ひて屋の上には糸をそめ
て色々ふかせてうち\/のしつらひには
いふへくもあらぬ綾をり物にゑをかきて
誠はりたりもとのめともはかくや姫を
必あはんまうけしてひとりあかし暮し
給つかはしし人はよるひるまち給ふに
○
事を仰せ給ふ事」と、①ことゆかぬもの②
をそしりあひたり。「かぐや姫③
しき
て、
⑤
必ずあはむ
給ふ。
①「ことゆく」は、「思い通りになる・うまくいく」の意。
②底本「ゆへ」を、歴史的仮名遣い「ゆゑ」に改めた。
③底本「すへ」を、歴史的仮名遣い「すゑ」に改めた。
④底本「かへし給ひて」を、「壁し給ひて」とする説もあるが、「
⑤底本「誠はりたり」の「誠」は、「
◎
ことを仰せになるものだ」と、納得がいかないので、大納言を非難しあった。
(大納言は、)「かぐや姫を住まわせるには、ありきたりでは見苦しい」とおっしゃって、立派な家をお作りになって、漆を塗り、蒔絵を描いて、何度も塗り返しなされ、家の屋根には、糸を染めて、色とりどりにお
元からの妻たちは、かぐや姫を必ず妻にしようという(いきごみの)準備として(遠ざけて)、(大納言は、)ひとりで夜を明かし、お暮らしになる。
お遣わしになった者たちは、夜に昼にお待ちになるのに、
●24表
年こゆるまて音もせす心もとなかり
ていと忍ひてたゝとねり二人めしつき
としてやつれ給て難波の邊におはし
ましてとひ給ふ事は大伴の大納言の
人や舩にのりて龍ころしてそかくひ
の玉とれるとや聞とゝはするに舟人答
ていはくあやしき事哉とわらひてさる
わさするふねもなしとこたふるにをち
なき事する舩人にもあるかなえしらて
かくいふとおほしてわか弓の力はたつ
○
て、②いと
としてや、連れ給ひて、
まして、問ひ給ふ事は、「大伴の大納言の
人や、船に乗りて、竜殺して、そが首
の玉取れるとや聞く」と、④問はするに、船人、答へ
ていはく、「あやしき
わざする船もなし」と答ふるに、⑥「をぢ
なき
かく言ふ」とおぼして、「わが弓の力は、竜
①「心もとなし」は、「待ち遠しい・じれったい・気がかりだ」の意。
このあたりからのことについては、★『大納言は船人ばかりか楫取りの言葉をも曲解した』を、一読願いたい。
②底本「いと忍ひて」を、「いと
③「
④「
④「問はするに」は、舎人を召次役として使って問わせたと思われるので使役と考える。
⑤「さるわざする船もなし」という船人の言葉を、「そんなことができる船などない」と、大納言は勘違いする。
⑥「をぢなし」は、「臆病である・いくじがない・劣っている」の意。
◎
年を越えても音信がない。待ち遠しくて、非常に心配になって、たった
●24裏
あらはふといころしてくひの玉はとり
てんをそくくるやつはらをまたしとの
給てふねにのりてうみことにありき
給ふにいと遠くてつくしのかたのうみ
にこき出給ひぬいかゝしけんはやき
風吹て世界くらかりてふねをふきもて
ありくいつれのかた共しらすふねを海中
にまかり入ぬへくふきまはして波はふ
ねに打かけつゝまき入神は落懸るやう
にひらめきかかるに大納言はまとひて
○
あらば、ふと
①てむ。②
たまひて、船に乗りて、海ごとにありき
給ふに、いと遠くて、
に
風吹きて、世界、
ありく。いづれの
に③まかり入りぬべく吹き
に打ちかけつつ巻き入れ、④
にひらめきかかるに、大納言は
①「てむ」は、色々な意味があるが、この場合、確実な推量「きっと~するだろう」と考える。
②底本「をそく」を、歴史的仮名遣い「おそく」に改めた。
「
③底本「まかり入ぬへく」を「まかり入りぬべく」だろうが、これを「(海の中に)引き込まれる」と、「まかる」が謙譲語あるいは丁寧語なので、よくわからない。「まかり入る」が「死ぬ」の謙譲語とすると、「(海のただ中で)お死にになるほどに」と解釈されると考える。
④底本「神」を「雷」と書き換えた。
◎
が出たら、さっと射殺して、首の玉をきっと取るだろう。遅く(海から戻ってこない)奴らを待ってはおれない」とおっしゃって、船に乗って、海をあちこちお渡りになると、非常に遠く
(そうすると)どうしたことだろう。はやい風が吹いて、空全体が暗くなって、船を吹き運ぶ。どちらの方向かもわからない。(風が)船を海のただ中で(大納言が)死にそうになられるほどに吹き回して、波は船に打ちかけながら(船を)巻き入れ、雷は(今にも)落ちるかのように閃きかかるので、大納言は動揺して、
●25表
またかゝるわひしきめ見すいかならん
とするそとの給ふかちとり答て申こゝ
ら舟にのりてまかりありくにまたかゝ
るわひしきめを見すみふね海のそこに
いらすはかみおちかゝりぬへし若さい
はひに神のたすけあらは南海にふかれ
おはしぬへしうたてあるぬしのみもと
につかうまつりてすゝろなるしにをす
へかめるかなとかちとりなく大納言是
を聞ての給はく舩に乗てはかちとりの
○
「まだ、かかる侘びしき目見ず。①いかならむ
とするぞ」とのたまふ。
ら船に乗りてまかりありくに、まだ、かか
る侘びしき目を見ず。み船、海の底に
に、神の助けあらば、②
おはしぬべし。③うたてある
に
べかめるかな」と、
を聞きて、のたまはく、「船に乗りては、
①「いかならむ」は、「どんなであろう」ほどの意。
②「
★『大納言は船人ばかりか楫取りの言葉をも曲解した』を、一読願いたい。
③「うたてある
◎
「まだ、こんなつらい目を見たことがない。どうなってしまうのだ」とおっしゃられる。
大納言は、これを聞いておっしゃるには、「『船に乗りては、
●25裏
申事をこそたかき山とたのめなとかく
たのもしけなく申そとあをへとをつき
ての給かち取こたへて申神ならねは
なにわさをかつかうまつらん風ふき波
はけしけれ共かみさへいたゝきに
落かかるやうなるはたつをころさんとも
とめ給候へはある也はやてもりうのふ
かする也はやかみにいのりたまへと云
よき事也とてかちとりの御神きこしめ
せをとなく心をさなく龍をころさむと
○
申す事をこそ、高き山とたのめ。①など、かく
たのもしげなく申すぞ」と
てのたまふ。楫取、答へて申す。「神ならねば、
はげしけれども、
落ちかかるやうなるは、竜を殺さむと②求
め給ひ
かするなり。はや、神に祈り給へ」③と言ふ。
「よき事なり」とて、「楫取の
せを」と泣く。「心をさなく、竜を殺さむと
①「など」は、例示・引用の「など」ではなく、「なにと」の変化形。「どうして・どうして~なのか」の意。
②「求め給ひ
③「と言ふ。」は、「答へて申す。」で始まる会話文として、本来「と申す」でなければならないはずなので、例外とする。あるいは、大納言と楫取りの位置関係がここから逆転したということか。
④「
◎
申す事をこそ、高き山とたのめ』。(と言うが、)どうして(おまえは)このように頼もしげもなく申すのか」と、
楫取りが答えて申しあげる。「神でなければ、どんな業を(あなたに)してさしあげられるでしょう。風が吹き、波が激しいけれども、(そのうえ)雷さえ頭上に落ちそうなのは、竜を殺そうとお求めになっているからなのです。
(大納言は、)「よいことだ」と言って、「楫取りの
●26表
思けり今より後はけの一すちをたにう
こかしたてまつらしとよことをはなち
てたちゐなく\/よはひ給ふ事千度
はかり申給ふけにやあらんやう\/神なり
やみぬ少光て風は猶はやく吹かちとり
のいはく是はたつのしわさにこそあり
けれ此ふく風はよきかたの風なりあしき
かたのかせにはあらすよきかたにおも
むきてふく也といへ共大納言はこれを
聞入給はす三四日ふきてふきかへしよ
○
思ひけり。今より後は、毛の
かし
て、立ち
ばかり申し給ふ。①げにやあらむ。やうやう
のいはく、「これは竜の②しわざにこそあり
けれ。この吹く風は、よき
むきて吹くなり」と言へども、大納言はこれを
③聞き入れ給はず。三四日吹きて、吹き返し寄
①「げにやあらむ」の「げに」は「実に」の意。「実にどうしたことか」と訳した。
②「しわざ」は、「行為・はたらき」の意。
③「聞き入れる」は「聞き入る」の他動詞。この場合、「承知する」ほどの意味か。
◎
思ってしまった。今から後は、(竜に向かって)毛の一筋でさえ動かしません」と、謝辞の言葉を大声を出して、立ち、座り、泣きながらお唱えになること千度ぐらい申しあげになる。
(そうすると、)実にどうしたことか。次第に雷が止んだ。少し明るくなったが、風はまだはやく吹いている。
楫取りが言うには、「これは(やはり)竜のしわざであったのですね。この吹く風は、よい方向の風です。悪い方向の風ではありません。よい方向に向かって吹いているます」と言うのだが、大納言はこれを、お聞き入れにならない。
(風は)三日四日吹いて、吹き返し、(船を陸に)寄せ
●26裏
せたり濱をみれははりまのあかしのは
まなりけり大納言南海のはまにふき
よせられたるにやあらんとおもひてい
きつきふし給へり舩にあるをのこ共
國につけたれとも國のつかさまうて
とふらふにもえおきあかり給はて舩そ
こにふし給へり松原に御むしろしきて
おろし奉る其時にそ南海にあらさり
けりと思ひてからうしておきあかり
給へるをみれは風いとおもき人にてはら
○
せたり。浜を見れば、①
なりけり。大納言、②南海の浜に吹き
寄せられたるにやあらむ、と思ひて、③
づき臥し給へり。④船にある
国に告げたれども、国の
とぶらふにも、え起き上がり給はで、船底
に臥し給へり。松原に
下ろし奉る。その時にぞ、南海にあらざり
けりと思ひて、からうじて起き上がり
給へるを見れば、⑤風、いと重き人にて、腹
①「
②「南海の浜に吹き寄せられたるにやあらむ」と思って大納言は怯えている。後に、息荒く船底に臥している尋常でない怯えようについては、★『大納言は船人ばかりか楫取りの言葉をも曲解した』を、一読願いたい。
③「いきづく」は、「呼吸をする」の他に、「荒い呼吸をする・あえぐ」の意がある。
④「船にある
⑤「風」という病が、単に風邪なのか、そうでないのかわからない。立つのもやっとということから、船底に長く居たため、ビタミンD欠乏症にかかったのかもしれない。
◎
たのだった。
浜を見ると、
大納言は、南海の浜に吹き寄せられたのではないか、と思って、荒い息でお臥せになられている。
船にいた男たちが国(の役所)に報告したのだが、国司がお見舞いに参っても、起き上がりにはなれず、船底にお臥せになられていた。
松原に
●27表
いとふくれこなたかなたのめにはすもゝ
を二つけたるやう也是を見奉りてそ國
のつかさもほうゑみたる國におほせ給
てたこしつくらせ給ひてによう\/
になはれて家に入給ぬるをいかてか聞
けんつかはししをのこ共参て申やう龍
のくひの玉をえとらさりしかは南殿へも
え参らさりし玉の取かたかりし事を
しり給へれはなんかんたうあらしとて参
つると申大納言おきゐての給はくなん
○
いとふくれ、こなたかなたの目には、
を二つつけたるやうなり。これを見奉りてぞ、国
の
て、②
けむ、つかはしし
の首の玉を、え取らざりしかば④なむ、殿へも
え参らざりし。玉の取り
知り給へればなむ、⑤
つる」と申す。大納言、起き
①底本「ほうゑみ」を、歴史的仮名遣い「ほほゑみ」に改めた。
②「
③底本「によう\/」を定説に従って、「によふによふ」とした。「によふ」は「うなる」こと。
④底本「南殿へも」の「南」は、「なむ」とした。
⑤「
◎
非常にふくれ、こちらあちらの目には、
(播磨の)国に仰せつけになって、
大納言は(これに)、(横になった体を)起こして、おっしゃるには、「おまえ
●27裏
ちらよくもてこす成ぬたつはなるかみ
のるいにこそ有けれそれか玉をとらん
とてそこらの人々のかいせられんとし
けりましてたつをとらへたらましかは又
こともなく我はかいせられなましよく
とらへすなりにけりかくや姫てふおほ
ぬす人のやつか人をころさんとする也
けり家のあたりたに今はとをらしをの
こ共もなありきそとて家に少残たり
ける物共はたつのたまをとらぬ物共に
○
ら、①よく持て
の
とて、そこらの人々の
けり。まして、竜を
こともなく、われは害せられなまし。よく
けり。家のあたりだに、今は④
どもも、なありきそ」とて、家に少し残りたり
ける物どもは、竜の玉を取らぬ者どもに
①「よく持て
②「たらましかば~まし」のかたちで、「~していたなら、~ただろう」。
③「てふ」は「といふ」の約。
④底本「とをらし」を、歴史的仮名遣い「とほらし」に改めた。
◎
たち、よく持って来ずに終わった。竜は、(まさに)鳴る神の
●28表
たひつこれを聞てはなれ給ひしもとの
上ははらをきりてわらひ給ふ糸をふか
せ作りし屋はとひからすの巣に皆くひ
もていにけり世界の人のいひけるは大
伴の大納言はたつのくひの玉や取てお
はしたるいなさもあらすみまなこ二に
すもゝのやうなる玉をそそへていまし
たると云けれはあなたへかたといひける
よりそ世にあはぬことをはあなたへか
たとはいひはしめける
○
上は、腹を切りて笑ひ給ふ。糸を
せ作りし屋は、
持ていにけり。世界の人の言ひけるは、「大
伴の大納言は、竜の首の玉や取りてお
はしたる」。「いな、さもあらず。
たる」と言ひければ、「あな食べ
よりぞ、世にあはぬことをば、「あな
とは言ひ始めける。
◎
お与になってしまった。これを聞いて、(大納言が)お離れになっていたもとからの奥方は、腹をかかえてお笑いになる。
糸を葺かせ作った家は、
都の人々が言ったことには、「大伴の大納言は、竜の首の玉を取っておいでになるか」。「いや、そうならなかった。
①「離れ給ひし
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