現代語訳① 一、かぐや姫のおひたち 二、つまどひ

『通釈① 一、かぐや姫のおひたち 二、つまどひ』の現代語訳だけを抽出したものである。


一、かぐや姫おひたち


 今は昔のこと、竹取の翁と呼ばれる者が居たそうだ。

 野山に入って竹を取り、色々な事に利用していた。

 名を讃岐さぬきみやつこといった。

 その竹の中に根元が光る竹が一本あった。不思議に思って寄ってみると筒の中が光っていた。それを見ると、三寸(九センチ)ほどの幼児が、非常に美しく輝き、座っていたという。

 翁が言う。「私が朝ごと、夕ごとに世話をする竹の中においでになるのでわかった。私の子()におなりになるべき方であるようです」と、手の中に入れて家へ持って来た。

 妻の女(媼)にあずけて育てさせた。

 その美しさといったらこの上ない。非常に小さかったので籠に入れて育てた。

 竹取の翁が優秀な人材を雇うのだが、この子を見つけた後に竹を取ると、節を隔てた筒ごとに、黄金が入っている竹を見つけることが度重なったのだ。

 そうやって翁は少しずつ豊かになっていった。

 この子は育てれば育てるほどすくすくと大きくなっていった。三か月ぐらいしてみると、(十二歳程度で行われる髪上・裳着という女子成人の儀式に)ほどよい背丈の子になったので、「髪を上げよう」とあれこれ(家の者に)指示して、髪を上げさせ、裳を着させた。

 帳台(室内にしつらえたとばりの小部屋)の中から出さず、大切に育てた。

 この子の顔かたちのはっきりしていることは他に比べようがなく、家の中は暗いところがなく、光が満ちていた。翁は、気分が悪く苦しい時も、この子を見れば、苦しいこともなくなった。腹立たしいことも慰められたという。

 翁は優秀な人材を雇うことが長く続いた。勢いが盛んな者になったという。

 この子が非常に大きくなったので、名前をむろいむあきを呼んでつけさせた。

 秋田は、なよ竹のかぐや姫とつけた。

 この三日間、管弦を(家人や親類などが男女混合で)合奏した。色々な曲目を演奏したものだ。(女はやめても)男は(演奏の誘いを)断らず、宵のほどを過ぎても、非常におごそかに演奏した。



二、つまどひ


 都中の男、身分が高いも低いも、どうやってこのかぐや姫を得てやろう、見てやろうと、(かぐや姫の美貌の)噂に心ひかれて色めきたつ。

 そのあたりの垣根にも家の門にも、家の者でさえ、(かぐや姫を)たやすく見ることができなかろうものを、夜も寝ず、闇の夜に出てさえ、穴をこじあけ、のぞき見て、だれもが色めきだった。その時よりなのだが、「よばひ」(「呼ばひ」が「夜這ひ」を語源とするという洒落)とは言ったそうだ。

 人が気にも留めない所にさまよい歩いて行っても、何か収穫があるはずもない。家の者たちに、せめて何か言おうと話しかけるのだが、相手にされない。

 あたりを離れない貴公子たちが、夜を明かし、その日を暮らす者は多かった。(しかし、)並の気持ちの者は、「あてもない通いは意味がないことだったなあ」と言って来なくなったそうだ。

 その(貴公子の)中で、相変わらず言い寄ったのは、「粋人」と言われる人の中でも最高の五人。思いは止むときがなく、夜に昼に来たという。

 その各々の名は、石作いしつくり皇子みこ庫持くらもち皇子みこ、左大臣 阿倍あべのみむらじ、大納言 大伴おおとものみゆき、中納言 石上いそのかみのもろたり、この人たちだったということだ。

 たとえ世の中に多く居るような女であっても、少しでも顔かたちが良いと聞いては、自分のものにしたいと思う人たちであったので、かぐや姫を自分のものにしたいと思って、物も食べず思い焦がれながら、かぐや姫の家に行って、たたずみ、歩いてはみたが、その甲斐はあったものではない。

 ふみを書いて送ったが、返しもしない。侘び歌などを書き、手を摺り拝んでも甲斐がないと思うのだけれど、霜月しもつきはすは雪が降り、道が凍り、つきの日が照り、雷が鳴るのにも障害とせず来たのだった。

 この人たちは、あるときは竹取の翁を呼び出して、「娘を私に下さい」と伏し拝み、手をすりあわせておっしゃるのだが、「私の本当の子ではないので、思うようには従わないのです」と言っているうちに月日は過ぎる。

 こういうわけだから、この人たちは家に帰って(からも)、(かぐや姫への)物思いにふけり、(神仏に)祈りをして、願を立てる。(かぐや姫への)思いがやむはずもない。

 そうは(翁が)いっても、いずれ最後には(娘を)男と一緒にさせないはずはないと思って、あてにしている。ことさらに誠意を見せつけて通っている。

 これを見続けて、翁がかぐや姫に言うには、「わが子が仏の変化の人と承知しながら、ここまで大きくなるまでお育て申し上げた精魂は並大抵ではありませんでした。翁の申し上げることをお聞きくださるだろうか」と言えば、かぐや姫は、「どんなことでも、おっしゃることは承りましょう。(自分を)変化の者である身などとは思っていません。(あなたのことを)親としか思っておりません」と言う。

 翁は、「嬉しくもおっしゃってくださるものだ」と言う。「翁の年も七十を越えました。今日とも明日ともわからない。この世の人は、男は女と一緒になる。女は男と一緒になる。その後でこそ、家も繁栄するというものです。どうして、そのことなくしておいでになれるでしょう」。

 かぐや姫が言うには、「どうして、そのようなことをいたしましょうか」と言えば、「変化の人といっても、女の身をお持ちです。翁が(この世に)ある間は、このようにしておいでになれるでしょうけれどね。この人たちの年月を経て、ひたすらにおいでになりながら求めてくださることなのだから、心を決めて、この中のおひとりと一緒になってさしあげなさい」と言えば、かぐや姫が言うには、「(私は)良くもない顔立ちなのですから、(お相手の)深い心も知らずに、(お相手に)浮気心がついたなら、後で悔しいことがあるに違いないな、と思うばかりです。世の高貴な人であっても、深い誠意を知らなければ一緒になるのは難しいのだと思います」

 翁が言うには、「(私の)思う通りのことをおっしゃるものですな。さて、では、どのような誠意ある人と一緒になろうとお思いでしょうか。これほどに誠意が並大抵ではない人たちでありましょうに」

 かぐや姫が言うには、「どれほどの(誠意の)深さを見ようと言いましょうか。ちょっとしたことです。(五人の)人の誠意は、等しいのです。どうやってその中に劣り勝りを判断できましょう。五人の中に、興味をひく品物を持って来て頂いた人に、誠意が勝ったということで、お仕えすることにしますと、その(今日もこれから)おいでになるであろう人たちに申し上げてください」と言う。(翁は、)「よいことです」と承知した。

 日が暮れる頃、いつものように(五人が家の外に)集まった。あるいは笛を吹き、あるいは歌を歌い、あるいは旋律を口ずさみ、あるいは口笛を吹き、あるいは扇を鳴らしなど、(それぞれが思い思いのことを)しているところに、翁が出てきて言うには、「『みっともなく、汚げな所に、年月を経てお通いくだされたこと、きわめておそれおおいことです』と(かぐや姫が)申します。『翁の命は、今日明日ともわからないのだから、このように求めてくださる貴公子(のあなた方)にこそ、よく思いを定めてお仕え申し上げます』と(かぐや姫が)申すのも道理です。『いずれの方も劣り勝りはおありにならないだから、ご誠意のほどは見るべきだ』と(私がかぐや姫に)言いましたが、これはよいことです。人のうらみもないでしょう」と言う。五人の人たちも、「よいことです」と言うので、翁は(家に)入って、(かぐや姫に)それを伝える。

(※翁は五人への印象をよくするために、自分とかぐや姫の言葉を逆転させて伝えているのである。)

 かぐや姫は、「石作いしづくり皇子みこには、仏のいしはちという物があります。それを取って来てください」と言ふ。「庫持くらもち皇子みこには、東の海に蓬莱ほうらいという山あります。それに銀を根とし、金を茎とし、白い玉を実として立っている木があります。それを一枝、折ってきていただきたい」と言う。「今ひとりには、唐土もろこしにある火鼠の皮衣をください。大伴おおともの大納言には、たつの首にしきに光る玉があります。それを取ってきてください。石上いそのかみの中納言には、燕の持っている子安の貝を取ってきていただきたい」と言う。

 翁、「なんと難しいことであることか。この国にある物でもない。このように難しいことを、どうやって申し上げよう」と言う。

 かぐや姫が、「なにが難しいでしょう」と言うと、翁は、「とにもかくにも申し上げよう」と言って、(外に)出て、「このように、申し上げるようにお見せください」と言えば、皇子たち、上達部かんだちめ(摂生・関白・大臣・大納言・中納言・参議、ほか三位以上の貴族)がそれを聞いて、「おだやかに、『このあたりをうろつきなさるな』とはおっしゃらないだろうか」と言って、がっかりして、皆、帰った。

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