「女」=「媼」についての覚え書き
一、「女」は「媼」なのか
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あやしがりて寄りて見るに、筒の中光りたり。それを見れば三寸ばかりなる人、いと美しうて居たり。翁言ふやう「我、朝ごと夕ごとに見る竹の中におはするにて知りぬ。子になり給ふべき人なめりとて手に打ち入れて家へ持ちて
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物語の冒頭、竹藪で小さな人を見つけた翁はそれを持ち帰り「めの女」にあずけて育てさせたという。この「めの女」について、通常は「妻の媼」と書き換える解説書は多い。実際、この「めの女」は媼には違いない。私自身、各論説において、翁に対して媼という表記をしている。
ただし、正式な解釈においては、「女」を「媼」に書き換えることに、やや罪悪感を抱くのである。それで、ここを含め、明らかに翁の妻と思われる「女」について(次節で述べるが、物語中「女」は十八回出てくる。)、「女(媼)」としようと考えている。というのも、翁の妻が翁よりそうとう若いことも想定されるからだ。
『翁若返り説(物語にこめられたなぞなぞの解明)』でくわしくしたが、翁はかぐや姫の霊力によって一年に一歳ずつ若返っていく。
以下、その引用である。
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A B C D
12歳 異常成長(起点) 66歳 66歳
15歳 名づけの祝いまで 69歳 63歳
18歳 五人への難題提示 72歳 60歳
21歳 帝との文通始まり 75歳 57歳
24歳 姫の昇天 78歳 54歳
Aはかぐや姫の見かけ年齢、Bは三年単位の区切りのきっかけ、Cは翁の実年齢、Dは翁の若返り年齢である。
髪上・裳着の時点でのかぐや姫の見かけ年齢は十二歳~十五歳と幅があるが、十二歳としておく。
翁が一年に一歳づつ若返ったとする。ちなみに、一年に一歳づつ若返るということは、実は実質二歳若返っていることになる。
翁が、かぐや姫に結婚を勧めるため、自分の年齢を「年、七十に余りぬ」と言ったのは、表の「五人への難題提示」のときであるから、翁の実年齢を七十二歳として、これを基準に前後の翁の年齢を決めている。そうすると、かぐや姫を竹藪で拾った時点で六十六歳となり、これは十分「翁」と呼べる年齢といえる。
五人への難題提示の時点、「年、七十に余りぬ」と言ったのは翁の主観である。この時、翁は六十歳まで若返っているが、まさか自分が若返っているとは気づいていない。翁は自分の実年齢をそのまま言っていたと考えることができる。
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この私の若返り説はひとつの説であるが、これが正しいとすれば、「女」が翁と同じ年齢だとしたら、「女」は「五人の難題提示」のときに七十二歳であり、翁の六十歳に比して、あまりにも差が開いてしまう。翁は自分が若返っていることをさすがに自覚するだろう。それを自覚していながら、翁が「年、七十に余りぬ」と自分の実年齢を言うのは少し無理を感じる。「女」は翁より十二歳から二十四歳くらいまでの間で翁より年下だったのではなかろうかと想像もできよう。
もし十二歳若かったら、かぐや姫を拾った時点「女」は五十四歳で、媼と呼ばれてもおかしくない年齢、二十四歳若かったら四十二歳で媼と呼ばれるには微妙な年齢となる。
二、『「この守る人々も弓矢を帯して」の解釈の可能性』の可能性
以下、この「女」という表現はここを含め十八回出てくる。
①★
物語の冒頭、竹藪で見つけた九センチほどの子を「女」にあづけて世話をさせた。
②この世の人は、男は女にあふ事をす。
③女は男にあふ事をす。
④「変化の人といふとも女の身持ち給へり。…」
②③④とも、翁が五人のひとりと一緒になるようかぐや姫に勧めた場面。
⑤なほこの女見では世にあるまじき心地のしければ、
石作の皇子の段の最初。
⑥天人のよそほひしたる女、山の中より
⑦女、答へていはく、「これは蓬莱の山なり」と答ふ。
➇「この女、かくのたまふは誰ぞ」と問ふ。
⑥⑦➇とも、 庫持の皇子の段、嘘の冒険談の中、蓬莱山に到着した場面。
⑨「女を得ずなりぬるのみにあらず、天下の人のみ思はむ事のはづかしき事」と…
庫持の皇子の段の最終。
⑩★かく呼び
左大臣阿倍のみむらじの段、彼を家に招き入れたときの「女」の心中である。
⑪★女に
⑫★女、
⑬なほ、おぼしおはしまして、この女のたばかりにや
⑭「この女、もし
⑪~⑭は、御門の段である。
⑮この守る人々も弓矢を
⑯★女、
⑰★女
⑱★その
⑮~⑱は、月から迎えが来て、かぐや姫が月に帰ってしまうまでの場面である。
このうち、明らかに翁の妻「女(媼)」だと思われるのは★印をつけた七個である。
しかし、⑮の「女」について、従来の解釈では媼以外の「女」であるが、私の解釈では「女(媼)」ということになる可能性があるので、それを説明したい。
従来、ここは次のように解釈されてきた。『評註竹取物語全釈』松尾 聰(武蔵野書院)で引用する。
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この守る人々も弓矢を
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その訳、
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(二千人の人はもちろんのこと)この守る(家の)人々も弓矢を身につけていて、(又)おもやのなかでは、召使の女たちをして番にひかえていて守らせる。
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この従来的な解釈は、まず女たちが家の中で何を守るのかという疑問がある。当時、女が弓矢を使いこなせたとは思えない。また、原文「おりて」を「をりて」の誤写とする解釈である。
それで、『「この守る人々も弓矢を帯して」の解釈の可能性』で、私の新しい解釈の可能性を示しておいた。
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この
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この解釈では、女どもは守られる側になる。
また、「女ども」は家に使われる女たちのことではなく、「女(媼)」ではないかという発想にもいたるのである。
というのも、
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⑮この守る人々も弓矢を
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と、⑮のあとにすぐ⑯が続くからである。
つまり、「女ども」とは
このことは、私の『「この守る人々も弓矢を帯して」の解釈の可能性』で示した新解釈を十分後押しするものになると考える。
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