通釈① 一、かぐや姫のおひたち 二、つまどひ
1、『古活字十行甲本』を底本にしています。
2、おおむね、『評註竹取物語全釈』松尾 聰著(武蔵野書院)を参考書にしています。本文中、『評註』と表記しています。
3、底本の変体仮名等解釈は、『竹取物語』翻刻データ集成 https://taketori.himegimi.jp/ の『古活字十行甲本』を信頼して利用しています。
4、解読にあたって、『全訳読解古語辞典』(第三版)鈴木一雄 他著(三省堂)を用いた。
5、私説を参考として掲げる場合、★印をつけた。
一、かぐや姫おひたち
●1表
いまはむかしたけとりの翁といふもの
有けり野山にましりて竹をとりつゝ
萬の事につかひけり名をはさるきの
みやつことなんいひける其たけの中
にもとひかるたけなん一すちありけり
あやしかりてよりて見るにつゝの中ひ
かりたりそれをみれは三寸はかりなる
人いとうつくしうてゐたりおきないふ
やう我朝こと夕ことにみるたけの中に
おはするにて知ぬ子に成給ふへき人な
○
今は昔、竹取の
ありけり。野山にまじりて①竹を取りつつ
にもと光る竹なむ一筋③ありける。
あやしがりて④寄りて見るに、筒の中光
りたり。それを見れば三寸ばかりなる
⑤人、いと美しうて居たり。翁、言ふ
やう、「我、朝ごと夕ごとに見る竹の中に
おはするにて知りぬ。⑥子になり給ふべき人⑦な
①竹を取って籠などを編んでいたとはいえ、それで生計を立てていたとするのは早計だろう。★『翁はもとより貴族である(賤民は思い込み)』参照。
②底本「さるきのみやつこ」は、「
③底本「ありけり」を「なむ」の係り結びとして「ありける」と改めた。
④「寄りて」は「切りて」かもしれない。
⑤「人」と言っており、いわゆる赤ん坊ではないことがわかる。後に「この
⑥「子になり給ふべき人」は、「子」と「
⑦「なめり」は、「~であるようだ」の意。
◎
今は昔のこと、竹取の翁と呼ばれる者が居たそうだ。
野山に入って竹を取り、色々な事に利用していた。
名を
その竹の中に根元が光る竹が一本あった。不思議に思って寄ってみると筒の中が光っていた。それを見ると、三寸(九センチ)ほどの幼児が、非常に美しく輝き、座っていたという。
翁が言う。「私が朝ごと、夕ごとに世話をする竹の中においでになるのでわかった。私の子(
●1裏
めりとて手にうち入て家へもちてきぬ
めの女にあつけてやしなはすうつく
しき事限なしいとをさなけれはこに入
てやしなふ竹とりのおきなたけを取に
此子を見つけて後に竹とるにふしを
へたてゝよことにこかねあるたけをみ
つくる事かさなりぬかくておきなやう
\/ゆたかに成行此児やしなふ程に
すく\/とおほきになりまさる三月
はかりになる程によき程なる人になり
○
めりとて、手に打ち入れて家へ持ちて
①
しき事限りなし。いと
て養なふ。竹取の翁、②
この子を見つけて後に竹取るに、節を
隔てて③
つくる事重なりぬ。かくて翁、やう
やう豊かに成り行く。この④
すくすくと大きに⑤なりまさる。
ばかりになる程に、よき程なる人になり
①「
②底本「たけを取に」は従来「竹を取るに」と解釈されてきたが、「この子を見つけて後に竹取るに」の「竹取るに」との重複はおかしいとみて、「
③「よ」は節と節の間のこと。「余」という漢字を当てた。
④「
⑤「なりまさる」は、次第にその状態になること。
◎
と、手の中に入れて家へ持って来た。
妻の女(媼)にあずけて育てさせた。
その美しさといったらこの上ない。非常に小さかったので籠に入れて育てた。
竹取の翁が優秀な人材を雇うのだが、この子を見つけた後に竹を取ると、節を隔てた筒ごとに、黄金が入っている竹を見つけることが度重なったのだ。
そうやって翁は少しずつ豊かになっていった。
この子は育てれば育てるほどすくすくと大きくなっていった。三か月ぐらいしてみると、(十二歳程度で行われる髪上・裳着という女子成人の儀式に)ほどよい背丈の子になった
●2表
ぬれは髪あけなとさうしてかみあけさ
せもきすちやうのうちよりも出さすい
つきやしなふ此児のかたちのけそう
なること世になく屋のうちはくらき所
なくひかりみちたりおきな心ちあしく
くるしき時もこの子を見れはくるしき
事もやみぬはらたゝしき事もなくさ
みけり翁竹をとる事久く成ぬいきをひ
まうのものに成にけり此子いとおほきに
成ぬれは名をみむろといむへのあきた
○
ぬれば、①「
せ
つき
なること世になく、
なく、
事も
みけり。翁、➇
成りぬれば、名を⑩
①「
②「
③
④「
⑤「いつく」は他動詞として「大切に世話をする・かしづく」こと。
⑥「かたち」は主に容貌をいう。
⑦「けそう」は
➇底本「竹をとる」であるが、「
⑨底本「いきをひ」を歴史的仮名遣い「いきほひ」に改めた。
「
⑩「みむろといむべのあきた」は『評註』を参考に漢字を当てた。
◎
ので、「髪を上げよう」とあれこれ(家の者に)指示して、髪を上げさせ、裳を着させた。
帳台(室内にしつらえたとばりの小部屋)の中から出さず、大切に育てた。
この子の顔かたちのはっきりしていることは他に比べようがなく、家の中は暗いところがなく、光が満ちていた。翁は、気分が悪く苦しい時も、この子を見れば、苦しいこともなくなった。腹立たしいことも慰められたという。
翁は優秀な人材を雇うことが長く続いた。勢いが盛んな者になったという。
この子が非常に大きくなったので、名前を
●2裏
をよひてつけさすあきたなよ竹のかく
や姫とつけつ此程三日うちあけあそふ
萬のあそひをそしける男はうけきらは
すよひほとへていとかしこくあそふ世
界のをのこあてなるもいやしきもいかて
此かくや姫をえてしかな見てしかなと
音にきゝめてゝまとふそのあたりの
かきにも家のとにもをる人たにたはや
すく見るましき物をよるはやすきいも
ねすやみの夜に出てもあなをくしり
○
を呼びてつけさす。
や姫とつけつ。この程三日、①うちあげあそぶ。
②
ず、
界の
このかぐや姫を得て⑥しがな見てしがなと、
⑦音に
すく見るまじきものを、夜はやすき⑨
①「うちあげあそぶ」を成語とし、「管弦を奏すること」、特に合奏することとしたい。「うちあぐ」は拍子を取ることも意味する。
②「
③「男は
④「いとかしこくあそぶ」は、「非常に厳かに演奏した」と解釈する。
①②③④★『かぐや姫お披露目の否定(「よひほとへて」の問題)』を参照のこと。
⑤「世界」は、この場合「世の中」。「都中の」と訳した。
⑥「しがな」は「~したいものだ」の意。
⑦「音に
➇色々な解釈があるとは思うが、「
⑨「
◎
秋田は、なよ竹のかぐや姫とつけた。
この三日間、管弦を(家人や親類などが男女混合で)合奏した。色々な曲目を演奏したものだ。(女はやめても)男は(演奏の誘いを)断らず、宵のほどを過ぎても、非常におごそかに演奏した。
二、つまどひ
都中の男、身分が高いも低いも、どうやってこのかぐや姫を得てやろう、見てやろうと、(かぐや姫の美貌の)噂に心ひかれて色めきたつ。
そのあたりの垣根にも家の門にも、家の者でさえ、(かぐや姫を)たやすく見ることができなかろうものを、夜も寝ず、闇の夜に出てさえ、穴をこじあけ、
●3表
かひまみまとひあへりさる時よりなん
よはひとはいひける人の物ともせぬ所
にまとひありけ共何のしるしあるへく
も見えす家の人ともに物をたにいはん
とていひかくれ共ことゝもせすあたり
をはなれぬ君たち夜をあかし日を暮す
おほかりをろかなる人はようなきあり
きはよしなかりけりとてこすなりにけり
其中に猶いひけるは色好といはるゝ
限五人思ひやむときなくよるひる来り
○
①
②よばひとは
に④まどひありけども、何のしるしあるべく
も見えず。家の人どもに物をだに
とて
を
きは⑨
その中になほ⑩
⑫限り五人。思ひ
①底本「かひまみ」を歴史的仮名遣い「かいまみ」に改めた。「のぞき見る」こと。
②「
③「物ともせぬ」は、「気に留めない」とした。その前の「人の」は「人が」の意だろうから、「物音もせぬ」の解釈は難しいだろう。
④「まどひありく」は「とほうにくれてさまよい歩く」の意。
⑤
⑥底本「をろか」を歴史的仮名遣い「おろか」に改めた。
「おろか」は「愚か」の意味もあるが、この場合、「いいかげんだ・並一通りだ」の意。
⑦「
➇「ありく」は「歩く」こと。
⑨「
⑩「
⑪「色ごのみ」は、「恋愛や風雅の情緒を解する人・粋人」だという。
⑫ここの「限り」の解釈は難しいが、「最高の」の意にとる。
◎
のぞき見て、だれもが色めきだった。その時よりなのだが、「よばひ」(「呼ばひ」が「夜這ひ」を語源とするという洒落)とは言ったそうだ。
人が気にも留めない所にさまよい歩いて行っても、何か収穫があるはずもない。家の者たちに、せめて何か言おうと話しかけるのだが、相手にされない。
あたりを離れない貴公子たちが、夜を明かし、その日を暮らす者は多かった。(しかし、)並の気持ちの者は、「あてもない通いは意味がないことだったなあ」と言って来なくなったそうだ。
その(貴公子の)中で、相変わらず言い寄ったのは、「粋人」と言われる人の中でも最高の五人。思いは止むときがなく、夜に昼に来たという。
●3裏
けりその名とも石つくりの御子くらも
ちのみこ左大臣あへのみむらし大納言
大伴のみゆき中納言いそのかみのもろ
たり此人々なりけり世中におほかる人
をたにすこしもかたちよしときゝては
見まほしうする人ともなりけれはかく
や姫を見まほしうて物もくはすおもひ
つゝかの家に行てたゝすみありきけれ
とかひあるへくもあらす文をかきてや
れ共返事もせすわひうたなとかきて
○
けり。その名ども、
の
たり、この人々なりけり。世の中に
をだに、
①見まほしうする人どもなりければ、かぐ
や姫を見まほしうて、物も
つつ、かの家に行きて、たたずみありきけれ
ど、
れども③
①「見まほしう」は「見まくほしく」の「見まく」「く」が省かれ、「ほしく」が「ほしう」に音便化したものという。「見たいと欲する」の意。「見る」には「求婚する」というような意味もあり、内容からして、「自分のものにしたいと思う」と訳した。
②「べくもあらず」は、「~するはずもない」、「~ことができそうもない」。本文「あるべくもあらず」は、内容的に、「あったものではない」とした。
③「
④「わび歌」は、わびしく苦しい気持ちを詠んだ歌。
底本「わひうたなとかきてをこすれ共」は、「わび歌など書き、手を
◎
その各々の名は、
たとえ世の中に多く居るような女であっても、少しでも顔かたちが良いと聞いては、自分のものにしたいと思う人たちであったので、かぐや姫を自分のものにしたいと思って、物も食べず思い焦がれながら、かぐや姫の家に行って、たたずみ、歩いてはみたが、その甲斐はあったものではない。
●4表
をこすれ共かひなしと思へと霜月し
はすのふりこほりみな月のてりはたゝ
くにもさはらすきたり此人々ある時は
竹とりをよひ出てむすめを我にたへとふ
しおかみ手をすりの給へとをのかな
さぬ子なれは心にもしたかはすなんある
といひて月日すくすかゝれは此人々家
にかへりて物をおもひいのりをし願を
たつ思ひやむへくもあらすさりともつ
ゐに男あはせさらんやはと思ひて頼を
○
を
くにも
竹取を呼び
し④
さぬ子なれば、心にも
と言ひて
に
ひに男あはせざらむ➇やは、と思ひて、⑨
①「
②「
③「
④底本「おかみ」は、歴史的仮名遣い「をがみ」に改めた。
⑤「かかれば」は「かくあれば」と同じ。「こういうわけだから」。
⑥「さりとも」は「さありとも」と同じ。「そうはいっても」。
⑦底本「つゐに」は、歴史的仮名遣い「つひ」に改めた。「最後に」。
➇「やは」は係り助詞だが、ここは文末に用いられ、反語の意をあらわす。「だろうか~いやない」。
⑨「
◎
を摺り拝んでも甲斐がないと思うのだけれど、
この人たちは、あるときは竹取の翁を呼び出して、「娘を私に下さい」と伏し拝み、手をすりあわせておっしゃるのだが、「私の本当の子ではないので、思うようには従わないのです」と言っているうちに月日は過ぎる。
こういうわけだから、この人たちは家に帰って(からも)、(かぐや姫への)物思いにふけり、(神仏に)祈りをして、願を立てる。(かぐや姫への)思いがやむはずもない。
そうは(翁が)いっても、いずれ最後には(娘を)男と一緒にさせないはずはないと思って、あてにしている。
●4裏
かけたり。あなかちに心さしを見えあり
く是をみつけて翁かくや姫にいふやう
我子の佛変化の人と申なからこゝら
おほきさまてやしなひ奉る心さしをろか
ならすおきなの申さん事聞給てむ
やといへはかくや姫何事をかの給はん
ことはうけたまはらさらんへんけのもの
にて侍けん身共しらすおやとこそ思ひ奉
れといふ翁嬉しくもの給ふ物哉といふ
翁年七十にあまりぬけふともあすとも
○
く。これを③
「④我が子の仏変化の人と⑤
ならず。翁の申さむ事、➇聞き
や」と言へば、かぐや姫、「何事をかのたまはむ
ことは
にて
れ」と言ふ。翁、「嬉しくものたまふものかな」と言ふ。
「⑪翁、
①「あながち」は、「一方的なさま」、「ひたむきなようす」とあるが、後に「見えありく」とあるので、この場合前者だろう。
②「見えありく」は、「相手に見られるように歩き回る」という意だという。
③「
④「我が子の仏変化の人」は、従来、「我が子の仏、変化の人」とし、「我が子の仏」を大切な人への呼びかけとしてきた。しかし、「
また、親である翁がかぐや姫に対して謙譲語を使うのは、かぐや姫を「仏の変化」と信じているからに他ならない。ただの「変化」であったら、どうだったろうか。
⑤「
⑥「ここら」は、「こんなに多く・たくさん」を意味する副詞。訳としては「ここまでの」とした。
⑦底本「をろか」は、歴史的仮名遣い「おろか」に改めた。
「おろか」は「愚か」の意味もあるが、この場合、「いいかげんだ・並一通りだ」の意。
➇「聞き
⑨「身とも知らず。」で切らずに次に続ける解釈もあるが、逆接の仮定条件の接続詞「とも」ではなく、「と」+係り助詞「も」と考える。「知らず」の「ず」は「も」の結びとして、終止形である。
⑩「親とこそ思ひ奉れ」の「奉れ」は、係り助詞「こそ」の結びで已然形をとる。命令形ではないので注意。
⑪「翁、
◎
ことさらに誠意を見せつけて通っている。
これを見続けて、翁がかぐや姫に言うには、「わが子が仏の変化の人と承知しながら、ここまで大きくなるまでお育て申し上げた精魂は並大抵ではありませんでした。翁の申し上げることをお聞きくださるだろうか」と言えば、かぐや姫は、「どんなことでも、おっしゃることは承りましょう。(自分を)変化の者である身などとは思っていません。(あなたのことを)親としか思っておりません」と言う。
翁は、「嬉しくもおっしゃってくださるものだ」と言う。「翁の年も七十を越えました。今日とも明日とも
●5表
しらす此世の人は男は女にあふ事をす
女は男にあふことをす其後なん門ひろ
くもなり侍るいかてかさる事なくては
おはせんかくやひめのいはくなんてう
さることかし侍らんといへは変化の人
と云共女の身もちたまへり翁のあらん
限はかうてもいますかりなむかし此
人々の年月をへてかうのみいましつゝ
の給ふ事を思ひさためてひとり\/
にあひ奉給ねといへはかくや姫いはく
○
女は男にあふ事をす。その
くもなり
おはせむ」。かぐや姫のいはく、「④なんでふ
さる事かし侍らむ」といへば、「変化の人
といふとも、女の身持ち給へり。翁のあらむ
限りは、⑤かうても⑥いますかり⑦なむかし。この
人々の年月を
のたまふ事を、思ひ定めて、⑨ひとりひとり
にあひ奉り給ひね」と言へば、かぐや姫いはく、
①「あふ」は、男女が一緒になることも意味する。
②「
③「いかでか」は、ここ場合は反語、「どうして~か」。
④「なんでう」を「なんでふ」に改めた。「なにと言ふ」がつまった「なにてふ」の変化形。
⑤「かうて」は「かくて」の音便化。副詞として「このようにして」の意。
⑥「いますかり」は、「あり・おり」の尊敬語。「~いらっしゃる・~おいでになる」。
⑦「なむかし」の「なむ」は、可能性のある推量「~ことができるだろう」、「かし」は念押し「~ね」。
➇「かうのみ」は、「ひたすらに」と意訳した。
⑨「ひとりひとりに」は、多く居る中のひとりの意だという。
◎
わからない。この世の人は、男は女と一緒になる。女は男と一緒になる。その後でこそ、家も繁栄するというものです。どうして、そのことなくしておいでになれるでしょう」。
かぐや姫が言うには、「どうして、そのようなことをいたしましょうか」と言えば、「変化の人といっても、女の身をお持ちです。翁が(この世に)ある間は、このようにしておいでになれるでしょうけれどね。この人たちの年月を経て、ひたすらにおいでになりながら求めてくださることなのだから、心を決めて、この中のおひとりと一緒になってさしあげなさい」と言えば、かぐや姫が言うには、
●5裏
よくもあらぬかたちをふかき心もしらて
あた心つきなは後くやしき事もあるへ
きをと思はかり也世のかしこき人なり共
ふかき心さしをしらてはあひかたしと
なん思といふ翁いはくおもひのことく
もの給かな抑いかやうなるこゝろさしあ
らん人にかあはんとおほすかはかり心
さしをろかならぬ人々にこそあめれ
かくやひめのいはくなに計のふかきを
か見んといはんいさゝかの事也人の心
○
「
①
きを、と思ふばかりなり。世の②かしこき人なりとも、
なむ思ふ」と言ふ。翁いはく、「思ひのごとく
ものたまふかな。
らむ人にかあはむと
④おろかならぬ人々にこそ⑤あめれ」
かぐや姫のいはく、「なにばかりの
か見むと
①「
②「かしこき人」は、ここの場合、「身分が高い人・
③「かばかり」は、「これほど・こんなにも」の意。
④底本「をろか」を、歴史的仮名遣い「おろか」に改めた。
⑤「あめれ」は「あるめれ」の音便「あんめれ」の「ん」が省かれたもの。「めれ」は、係り助詞「こそ」の結びとして「めり」の已然形。
◎
「(私は)良くもない顔立ちなのですから、(お相手の)深い心も知らずに、(お相手に)浮気心がついたなら、後で悔しいことがあるに違いないな、と思うばかりです。世の高貴な人であっても、深い誠意を知らなければ一緒になるのは難しいのだと思います」
翁が言うには、「(私の)思う通りのことをおっしゃるものですな。さて、では、どのような誠意ある人と一緒になろうとお思いでしょうか。これほどに誠意が並大抵ではない人たちでありましょうに」
かぐや姫が言うには、「どれほどの(誠意の)深さを見ようと言いましょうか。ちょっとしたことです。(五人の)人の誠意は、
●6表
ひとしかん也いかてか中にをとり
まさりは知ん五人の中にゆかしき物
をみせ給へらんに御心さしまさりたり
とてつかうまつらんとそのおはすらん
人々に申給へといふよき事なりと
うけつ日くるゝ程れいのあつまりぬ或
は笛をふき或は哥をうたひ或はしやう
かをし或はうそをふき扇をならしなと
するに翁出ていはく忝なくきたなけ成
所に年月をへて物し給事きはまりたる
○
①
を見せ給へらむに、御
とて、
人々に申し給へ」と言ふ。「よき事なり」と
うけつ。
は笛を吹き、
するに、➇翁、
所に、年月を
①「
②底本「をとり」を、歴史的仮名遣い「おとり」に改めた。
③「ゆかし」は、「心引かれる・恋しい」の意。
④「そのおはすらむ人々に申し給へ」は、従来、「そこにおいでになる人々に申し上げてください」と訳されることが多いが、後に「
⑤「
⑥「
⑦「うそをふく」は、口笛を吹くことであるという。
➇「翁、
⑨ここからの翁の言葉いついて、★『翁の五人の求婚者への挨拶の否定(会話文の法則①)』を一読願いたい。
⑩「物す」は、「いる・ある・行く・来る・生まれる・死ぬ」等の意。
◎
等しいのです。どうやってその中に劣り勝りを判断できましょう。五人の中に、興味をひく品物を持って来て頂いた人に、誠意が勝ったということで、お仕えすることにしますと、その(今日もこれから)おいでになるであろう人たちに申し上げてください」と言う。(翁は、)「よいことです」と承知した。
日が暮れる頃、いつものように(五人が家の外に)集まった。あるいは笛を吹き、あるいは歌を歌い、あるいは旋律を口ずさみ、あるいは口笛を吹き、あるいは扇を鳴らしなど、(それぞれが思い思いのことを)しているところに、翁が出てきて言うには、「『みっともなく、汚げな所に、年月を経てお通いくだされたこと、きわめて
●6裏
かしこまりと申翁の命けふあすとも
しらぬをかくの給君たちにもよく思ひ
定てつかうまつれと申も理也いつれも
をとりまさりおはしまさねは御心さし
の程は見ゆへしつかうまつらん事は
それになんさたむへきといへはこれ
よき事也人のうらみもあるましといふ
五人の人\/もよき事なりといへは翁
いりていふかくや姫石つくりの御子には
仏の御石のはちと云物ありそれを取て
○
かしこまり』と申す。『翁の命、
定めて
②
の
それになむ
よき事なり。人のうらみもあるまじ」と言ふ。
五人の人々も、「よき事なり」と言へば、翁
仏の
①底本「も」を後世の改変とみて「こそ」とした。かぐや姫の言葉を翁が五人に伝えているので、「
②「をとり」を歴史的仮名遣い「おとり」と改めた。
◎
おそれおおいことです』と(かぐや姫が)申します。『翁の命は、今日明日ともわからないのだから、このように求めてくださる貴公子(のあなた方)にこそ、よく思いを定めてお仕え申し上げます』と(かぐや姫が)申すのも道理です。『いずれの方も劣り勝りはおありにならないだから、ご誠意のほどは見るべきだ』と(私がかぐや姫に)言いましたが、これはよいことです。人のうらみもないでしょう」と言う。五人の人たちも、「よいことです」と言うので、翁は(家に)入って、(かぐや姫に)それを伝える。
(※翁は五人への印象をよくするために、自分とかぐや姫の言葉を逆転させて伝えているのである。)
かぐや姫は、「
●7表
給へといふくらもちの御子には東の海
にほうらいと云山あるなりそれにしろ
かねをねとし金をくきとし白き玉を
みとしてたてる木ありそれ一枝おりて
給はらんと云今獨にはもろこしにある火
ねすみのかはきぬをたまへ大伴の大納言
にはたつのくひに五色にひかるたま
ありそれをとりて給へいそのかみの中
納言にはつはくらめのもたるこやすの
貝取て給へと云翁かたきことにこそあ
○
に
を
には、
あり。それをとりて
納言には、
①「おりて」は歴史的仮名遣い「をりて」に改めた。
②「今ひとりには」と、左大臣
③古本は「いついろ」とあるというが、「ごしき」とした。
◎
来てください」と言ふ。「
翁、「なんと難しいことで
●7裏
なれ此国に有物にもあらすかくかたき
事をはいかに申さんと云かく姫何かかた
からんといへは翁とまれかくまれ申
さむとていてゝかくなむ聞ゆるやうに
見給へといへは御子たち上達部聞てお
いらかにあたりよりたになありきそと
やはの給はぬといひてうんして皆帰ぬ
○
なれ。①この国にある物にもあらず。かく
事をば、いかに申さむ」と言ふ。②かぐや姫、「何か
からむ」と言へば、翁、「とまれかくまれ申
さむ」とて、
見せ給へ」と言へば、
いらかに、『あたりよりだに⑦なありきそ』と
やはのたまはぬ」と言ひて、➇うんじて、皆、帰りぬ。
①「この国にある物にもあらず」
②底本「かく姫」を、誤写とみて、「かぐや姫」とした。
③「かくなむ」で切る解釈が多いが、係り助詞「なむ」の結びが流れる例としたい。
④「聞こゆ」は、この場合、「言ふ」の謙譲語。「申し上げる」。
⑤「
⑥「おいらか」は、「穏やか・おっとり」。「おいらかに、『あたりよりだになありきそ』とやはのたまはぬ」を直訳すると、「おだやかに、『このあたりをうろつきなさるな』とはおっしゃらないだろうか」であるが、『このあたりをうろつきなさるな』は、けっして「穏やか」な言葉とは思えない。底本「の給はぬ」は「の給ひぬ」の誤写の可能性があるかもしれない。つまり、「おだやかに(遠回しに)、『このあたりをうろつきなさるな』とはおっしゃるのだろうか」。
⑦「なありきそ」。「な~そ」の形で、禁止を表す。
➇「うんず」は、「うんざりする・がっかりする」。
◎
あることか。この国にある物でもない。このように難しいことを、どうやって申し上げよう」と言う。
かぐや姫が、「なにが難しいでしょう」と言うと、翁は、「とにもかくにも申し上げよう」と言って、(外に)出て、「このように、申し上げるようにお見せください」と言えば、皇子たち、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます