復讐
@Gpokiu
歯車
「お兄ちゃんは、どこに行っちゃたの?」
「そうねぇ、お兄ちゃんは、歯車になったのよ。」
「はぐるま?」
「そう、歯車。」
「じゃあ、お兄ちゃんはロボットになっちゃったの!?」
「違うのよ。歯車と言ってもね、機械の部品のことじゃなくてね___
歯車。
歯車とは、人々の生活を守るための、必要不可欠なもの。人間の生身をミズガミサマに捧げ、歯車となることで、地球に厄災が訪れることを防いでいる、らしいが。
「誰だよ、ミズガミサマ。」
義務教育で必ず行われるようになってる、歯車とミズガミサマについての授業。
「ふん、授業を大人しく受けることもできないのか、海斗。」
「でもセンセイ、その説明、入学してからもう10回くらい聞いてますよ。」
「それほど重要だということだ。わかったら静かに聞いていろ。お前のせいで他の生徒まで授業に集中できてないじゃないか。」
(その割にミズガミサマの正体とか、歯車がなんなのかとか。具体的なところはわからないんだよなぁ〜)
はぁ〜、とため息をつく。先生に聞いても教えてくれないし、みんなは黙ってセンセイの説明を聞いてるし。オレがおかしいのか?
「なあ、どう思う?」
「えっ、何が?」
「ミズガミサマのことについてだよ。なんでお前ら神妙な顔して授業受けてんの?疑問とか持ってないわけ?」
授業が終わった後、放課の時間になったのでオレのたった1人の友人、レンに話しかける。
「ミズガミサマのこと?うーん、あんまり深く考えたことはないかなぁ。とりあえず大事なんだろうなぁくらいには思うけど。」
「そう、それだよ。その『あんま深く考えたことない』ってのが不思議なわけ。」
「うーん、海斗が考えすぎなだけな気がするけどなぁ。どうせボクたちには関係ない話でしょ、歯車とか、ミズガミサマとか。」
「カンケイない話ねぇ〜。」
まぁ、言われてみればそんな気もする。自分と関係ないことについて、いつまでも考え込んでる方が不思議っちゃ不思議だが、
(でも、なんか気になるっていうか、引っかかるっていうか。)
学校の寮につき、パソコンで「ミズガミサマ 正体」と検索する。
『ミズガミサマは実は人間だった!』
『ミズガミサマは存在していなかった!衝撃の真実とは。』
『ミズガミサマについて調べてみました。年収は?素顔は?その正体に迫ります!』
(どれもこれも書いてることバラバラだし、インターネットは信用なりませんなぁ。)
パソコンを閉じて、ベットに横になる。
(やっぱ、正体知ろうとする方がバカなのか?オレもみんなみたいに、適当に流してりゃいいんかねぇ。)
瞼が重たくなってきた。
(まあ、いくら考えたって無駄だわな。大人にも聞いて、ネットで調べて。その上でなーんにもわかんないんだし。いっそのこと、直接会いに来てくれねーかな、ミズガミサマ。)
それこそ馬鹿げた話だと思いながら、オレは眠りについた___
「だからなぁ、ミズガミサマについて詳しいことは誰も知らねえの。」
「じゃあなんで義務教育に組み込んでるんですか?そんなに重要なら、国から教えて貰えばいいじゃないすか。」
「じゃあ、お前が国に聞けばいいだろ。」
(こいつ……、そんなことできないのわかってて言ってるだろ。)
一途の望みにかけてセンセイに尋ねてみたものの、この通り。
(センセイは生徒の探究心に応えるのが仕事じゃないのかよ。)
結局、誰も、何もわからない。これじゃ『ミズガミサマは存在していなかった!』が提唱されるのも納得だ。
(ミズガミサマとやらは、歯車で厄災が来るのを防いでくれてるらしいが、それも本当か怪しいな。大体厄災ってなんのことだよぅわぁっ!)
突然、カイトの体が大きく揺さぶられ、地面に倒れ込む。
(な、なんだこれ!?世界が、揺れてる?)
「おいっ!海斗!大丈夫か!?」
「センセイ!」
「なんだこれは、周りからカタカタ音がすると思ったら、突然世界が揺れ出したぞ!」
(センセイもこれが何かわからないのか?)
揺れる世界の中、なんとか校舎の外に出て、校庭につく。ほかの生徒たちも、校庭に集まっているようだ。やがて揺れが治ると、校長がメガフォンをもち、生徒の前に立つ。
「皆さん!皆さん、静かに。落ち着いて聞いてください。今の揺れは、ミズガミサマの言い伝えにある、厄災の前兆です。」
(ミズガミサマの厄災!?今の揺れが?どういうことだ?)
周りから、「どういうこと?」、「やばくね?」、「厄災って本当にあるんだ。」などの言葉が飛び交っている。
「こほんっ。静かに、いいですか、今から説明しますから。まず、ミズガミサマの厄災が、歯車の存在によって阻止されているのは皆さんご存知ですよね。ミズガミサマに捧げられた人間は、歯車となって厄災が引き起こるのを防ぐわけです。」
(そうだ。厄災が起こるのを歯車が止めてくれるはず。)
「しかしですね、近年歯車の効力が弱くなってきてですね、厄災を止めるための力も弱くなって来ていたわけです。そして今日、抑えられなくなった力が、少し漏れてしまったと。」
(いや、なんで校長はそんなこと知ってんだ?てか知ってるなら教えろよ。)
「まぁつまるところですね、歯車の交換時期な訳ですよ。もうすぐ大きな厄災が訪れる、そのための歯車を作るための人間を、新しく捧げなければいけないわけです。」
わからない。なぜ、校長が今このタイミングでこんな話をしたのか。なぜ、公になっていなであろう情報を、大勢の生徒の前で話したのか。わからないが、
(嫌な予感がする。)
そんな不安をよそに、校長が再び口を開く。
「そして、その歯車こそがあなたたち、生徒の皆さんなのですよ!」
周りが再びざわつき始めた。
「混乱するのも無理はないでしょう。あなた達にはそのことをずっと隠してきましたからねぇ。しかし!そうとわかれば、あなた達はもう何も考えなくていい。ただ、なるがままにミズガミサマの贄となるのです!」
(いや、みんなが素直に従うはずないだろ。そんな得体の知れないものになりたがるやつなんか……)
「校長の言うとおりだ!!」
(は!?)
「僕たちが歯車だったのか!」「そんな大役を……、ありがたき幸せ!」「ありがとうございます、ミズガミサマ!!」
生徒から次々と同調する声が上がる。
「おいっ!!みんな待てよ!なんでそんな乗り気なんだよ!なんかおかしいと思わないのかよ!」
オレの言葉なんか聞こえてないかのように、生徒がどんどん校長の元に集まっていく。
(何かおかしい!いくらなんでもこれは、みんな素直すぎるだろ!)
「おい!校長!お前、さっきから何を言ってるんだ!そんなのになるはずないだろ!」
校長はオレをみて、少し驚いたような表情を見せる。
「おや、これは不思議ですね〜。なんであなたは素直に従ってくれないのでしょう?」
「おかしいのはオレ以外のみんなだろ!お前、みんなに何をしたんだ!」
「何をした。うーん、強いていうなら教育、ですかねぇ。」
「教育?」
「ええ、そうです。学校なら当然行われるであろう、教育。しかし、私のいう教育は、ほかの学校とは少々異なりますがねぇ。」
「どういうことだ!」
「ふぅ、あなた少し自分で考えるということをしないのですか?まぁいいでしょう。教えておげますよ。」
大勢の生徒が校長の前に集まっている。
「いいですか、私たちが行っていたのはね、教育という名の洗脳なんですよ。まぁ、洗脳と言ってもそんな恐ろしいものじゃない。私たちは3年間をかけて、あなたたちに対してミズガミサマのありがたさをじっくり教え込んだんですよ。子供っていうのは大人のいうことには素直に聞いてくれますからねぇ。」
(あの授業!そういう意図があったのか!)
「そして、ミズガミサマの教育が行われているのは全国でこの学校のみ。つまりこの学校は普通の学校じゃなく、歯車工場だったわけですねぇ!」
合点がいった。妙に多いミズガミサマの授業、のわりに具体的なことは教えられず、ミズガミサマのありがたさばっかり教えられていたのは、全て洗脳のためだったのだ。
「あなたたちはここに入学した時から、歯車になる運命!あなたたちの親は、あなたたちを歯車にするために、この学校に入学させたのですよ!!」
そうだったのか。オレの親は、そんな得体の知れないものになって欲しくて、この学校に入学させたのか。
「ほら、わかったらあなたも歯車の一部となるのですよ!世界のための礎と」
「あの〜、ボク、歯車になりたくないですけど……」
1人の生徒が声を上げる。
(オレ以外に洗脳されてない生徒がいたのか!?って、レン!?)
「……、どういうことですか。なぜあなたも反発するのですか?」
「ええぇ、だって歯車とか、ミズガミサマとかよくわかんないし、ていうか今の話が本当なら、なりたくなくなってきたしぃ……。」
(どういうことだ?レンも教育を受けてたはず。なんで洗脳されてないんだ?)
「俺も、よくわかねーし、こえーよ。」「私も〜。何言ってるかイミフって感じ。」
レンに続いて、続々と反発の声が上がる。
(ほかの生徒まで?いや待て、よくみたらこいつらって……)
レンも含め、校長に対して反発の声をあげているのは、いずれもオレと同じ教室の奴らだった。
「これは……、どうなっているんだ?私たちの教育は完璧だったはず!!」
「そうですね、校長先生。あんたの教育は完璧でしたよ。」
「っ!センセイ!」
「海斗、すまんな。センセイ、今の今まで忘れてたよ、ミズガミサマがどんなものだったのか。」
「なっ!?教師も1人残らず洗脳していたはず!」
「ええ、現に今まではミズガミサマに対してなんの疑問も持ってなかったですからね。」
「ではなぜ!?」
「それは、コイツですよ。」
センセイが、オレの頭に手を乗せる。
「オレ!?」
「そう、お前。お前の授業中の態度、ただの不良生徒だと思っていたが、ほかの教科ではそうでもないと聞いてな。なんか違和感があったんだ。」
(オレもそうだ。別に特別探究心が強いとか、教師に対して反発したいとかいうわけじゃないのに、ミズガミサマのことになると変に疑問を持ってしまう。)
「お前、校長の話で自分を歯車にするために、親がこの学校に入学させたと思ってるだろ。」
「違うんすか?」
「違うな。みっともない話だが、洗脳されていたせいで忘れていたが、入学するときにお前の親と話したことがある。それは、お前に歯車をぶっ壊してもらうためにこの学校に入学させたってことだ!」
「え!?そんな話聞いたことないですよ!」
「だろうな。もし話してたら校長にすぐ気づかれるだろ。お前、バカ素直なところあるし。」
「はぁー!?なんだその理由!?」
「まあつまり、お前にはミズガミサマの洗脳にかからない力があって、それが周りにも影響してたってわけだ。」
だから同じ教室の奴らは校長の言葉に従わなかったのか!
「でも、オレ、どうやって歯車を壊すとか、そんなん知らないっすよ!」
「ああ、それも知ってる。だが、それで十分なんだよ、お前は。」
(???、どういうことだ???)
「おい!何をしてるんだ!早く歯車の一部となるんだ!」
校長が叫ぶ。
「みろ、なんであんなに校長が焦っているのかわかるか?」
「わからないっす!!」
「だからバカなんだよ。いいか、なんでわざわざ学校ていう大きな場所でミズガミサマの洗脳を行っていたのかってことだ。」
(バカ素直から、バカになった……。)
「つまりだな、歯車の作成には大勢の人間が必要になるんだよ。そして、その人数が揃わなかった時には、」
「歯車が壊れるってことか!」
「ああ。そしてお前は同じ教室の奴らの洗脳を薄めた。つまり歯車の作成には人間の数が足りなくなるわけだ。」
歯車が一体なんなのか、オレがなぜミズガミサマに対して不信感を持っているのかもわかった。
(でも……、)
「おい!いいのか!お前たちが歯車とならないと、地球に厄災が訪れるんだぞ!」
そうだ。歯車は厄災を止めるために必要だから、もし歯車が壊れてしまったら、厄災を止められなくなる。
「センセイ、オレ、本当に歯車を壊してもいいのかなぁ!」
正直、歯車にはなりたくないが、こんな厄災がずっと起こり続けるのなら、犠牲になった方がいいのではないかとも考えてしまう。
「……。そうだな、確かにお前らの命で助かる命もたくさんあるのかも知れない。」
(そうだよな……、)
「でもな、犠牲になるのはお前だけか?」
「えっ?」
「考えてみろ、なんでわざわざこんな学校を作ったのか。今、お前たちが犠牲になったとして、いずれまた歯車を作るために、大勢の子供が犠牲になる!」
「そうか……。」
「だったら!今!こんな馬鹿げたもの、ぶっ壊してしまえ!」
そうか、オレは勘違いしていたんだ。オレをミズガミサマから救うためにこんな力を付けたのだと。だが、それは違った。きっと託されたんだ。これからの未来を救うために。
「おい!聞いているのか!多くの人間が犠牲になるんだぞ!お前が犠牲にならなければ、」
「うるせぇ!」
オレは校長のもとに駆け出す。
「お、おい!何をするつもりだ!」
正直、わからない。センセイに乗せられているだけの気もするし、オレが犠牲にならないことで、大勢の人が悲しむかも知れない。それでも、オレにしか救えない人たちがいるのなら、
「おりゃ!!!」
オレは校長の顔を殴り飛ばした。
(オレにしか救えないのなら、救うしかないよな!)
そう、信じてみることにする。
___ミズガミサマの生贄になったのよ。」
「ミズガミサマ?」
「そうね。あなたにはわからないことだらけだと思う。だけど、あなたにはお兄ちゃんの仇を取ってもらいたいの。」
「おかあさん、怒ってる?」
「ええ、でもあなたにじゃないわ。今は何もわからなくてもいい。でもいつかは___
「記録」
1.ハイチ地震
2010年 1月12日 16時53分、首都の郊外約15km(レオガン市)においてマグニチュード7.0の地震が発生。死者22万2570人、負傷者31万928人、行方不明者869人、被害総額は77億5000万ドル。
2.スマトラ島沖地震
2004年 12月26日 7時58分、スマトラ島北西沖のインド洋でマグニチュード9.3の地震が発生。被災者は120万人、死者及び行方不明者数30万人以上、被害総額は78億ドル。
3.熊本地震
2016年 4月14日 21時26分、熊本県熊本地方においてマグニチュード6.5の地震が発生し、熊本県益城町で震度7を観測した。その後も熊本県から大分県にかけて地震活動が活発な状態となり、7月14日までに、震度7を2回、震度6強を2回、震度6弱を3回、震度5強を4回、震度5弱を8回観測、震度1以上を観測した地震は合計1888回発生した。死者55人、負傷者1814人。熊本県内では、地震後には18万人を超える方々が避難し、7月13日現在も約4700人の方々が避難生活を送っている。
4.東日本大震災
2011年 3月11日 14時46分、宮城県牡鹿半島の東南東沖130 km を震源とする東北地方太平洋沖地震が発生した。震源域は、岩手県沖から茨城県沖までの南北約500 km 、東西約200 km のおよそ10万 km2 に及ぶ。震災から3ヶ月を超えた6月20日時点で、死者約1万5千人、行方不明者約7千5百人、負傷者約5千4百人。また、12万5千人近くの方々が避難生活を送っている。
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